お土産の威力
その後、連絡を取り終えたシゲルは、無言のままオートマンの解体作業に入っていた。床に広げられた外装パーツと内部ユニットを前に、工具を持つ手が一度も止まらない。金属が外れる乾いた音だけが、一定の間隔で床に落ちていく。
解説を聞くため、ジュンが再びシゲルのそばへと寄る。だが質問を挟む余裕はなく、短く投げられる説明を追うだけで精一杯だった。視線は手元から離れず、言葉はいつも半拍、遅れて喉に引っかかる。
アヤコは作業台で、位置情報の解析待ちを続けていた。時折、端末を操作して表示を切り替え、進捗を確認するように画面へ視線を落とす。その表情に焦りはないが、完全に気を抜いている様子でもない。待ちの時間であっても、意識は常に作業へと向いていた。
一方、エルデは一瞬手持ち無沙汰そうにしていたが、すぐにアヤコから声をかけられ、店番を任される。カウンターへ移動するとホロディスプレイを展開し、伝票の処理や発注状況を一つずつ確認していく。慣れない作業に眉を寄せながらも、真剣に取り組んでいた。
クロはクレアを抱き上げ、小さく身を預けてくる重みを感じながら、リビングへと足を運んだ。
「クロ様、これからどうします? スミスとウェンが来るまで、少し時間がかかりますが」
クレアの問いかけに、クロは一度だけ室内の様子を見渡す。それからソファーに腰を下ろし、抱いていたクレアをそのまま膝の上へ乗せた。
落ち着いた声で、静かに答える。
「いったん、わかっている情報を整理します。流石に、アレクたちに丸投げし過ぎるのは気が引けますので。大まかに、ですが」
そうして各々が作業を再開した。
クロが思案しながら端末に向かっていると、玄関の扉が勢いよく開く音が響き、大きな足音がリビングまで一気に迫ってくる。
「クロ! 最新の武器が見放題ってホント?」
弾むような声と勢いそのままに、ウェンが室内へ飛び込んでくる。ポニーテールにまとめた髪が大きく跳ね、光り輝く金髪が背中で忙しなく揺れていた。
「落ち着け、ウェン。クロ、娘がすまん」
すぐ後ろから、スミスが軽く頭を下げるように声をかける。サングラスを押し上げ、ため息をつきつつも、その声音には隠しきれない期待が滲んでいた。
「いえ、思ったより早いですね」
クロはホロディスプレイを閉じ、端末をしまいながらソファーから立ち上がって応じる。だが、その言葉を待つまでもなく、ウェンはすでに興奮を抑えきれない様子で詰め寄ってきた。
「そんなことより、早く行こう!」
飛び跳ねる動きに合わせて、ポニーテールも勢いよく弾む。
その様子に、スミスは「やれやれ」と言いたげに肩をすくめ、ウェンの頭をがっしりと掴んで強制的に動きを止めた。
「待て。まだ、ちゃんとした説明も受けていないし、シゲルさんへの挨拶も済んでない」
そう言いながら、スミスはウェンの頭を掴んだまま、ずるずると作業場の方へ引きずっていく。抵抗する余地を与えない動きだった。
「痛い、痛いって! 父さん!」
ウェンは必死に身をよじり、掴まれた手を振りほどこうとする。だが、細身の腕からは想像できないほどの力で、指が食い込み、離れる気配はない。
その様子を見て、クロが思わず感心したように口を開く。
「意外と、力が強いんですね。見た目とは真逆です」
軽い驚きを含んだ言葉に、クレアが小さく頷いて続ける。
「そうですね。クロ様には及びませんが」
「その前に、頭に手が届かないですよ」
クロはそう言って、わずかに口元を緩めた。冗談めいたやり取りだが、そこに嫌味はなく、場の空気を軽く和らげる程度のものだった。
クレアを肩に乗せたまま、クロはスミスの後を追い、作業場へと向かう。その間に、どうやら頭を振りほどいたらしいウェンは、頭をさすりつつアヤコの近くへ移動し、興味の赴くままに質問を投げかけたり、解体されたオートマンの装甲へ無遠慮に手を伸ばしたりしていた。
一方でスミスは、少しばつが悪そうな表情を浮かべながら、シゲルの前に立つ。
「シゲルさん。ウェンが、すいません」
「構わねぇよ、スミス。……んで、こいつがジュンだ」
シゲルの言葉に促され、ジュンが一歩前へ出る。
「マルティラ革命軍所属、ジュン少佐です」
背筋を伸ばし、綺麗な動作で敬礼を決める。その所作に、スミスは一瞬だけ訝しげな視線を向けたが、すぐに表情を切り替えた。
「……スミスだ」
短く名乗り、続けて親指で後方を示す。
「向こうで騒いでいるのが、娘のウェンだ。よろしく」
そう言って、反対の手を差し出す。
「よろしくお願いします」
ジュンはその手をしっかりと握り返す。スミスは何度か確かめるように力を込め、満足したのか小さく頷いてから手を離した。
「ウェン。挨拶しろ」
少し離れた場所へ声を飛ばすと、ウェンははっとしたように顔を上げ、慌ててスミスの横へ駆け寄ってくる。
そして、先ほどまでの勢いが嘘のように、少し申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「ウェンです。よろしく」
そう言って、スミスと同じように手を差し出す。
「ジュン少佐です。よろしく」
再び交わされる握手。ウェンもまた、スミスと同じように、何度か力を込めて指を締め、その反応と感触を確かめる。そして手を離すと、ほんの一瞬だけ視線を逸らし、小声でスミスに話しかけた。
「ジュンさん……結構、平均っぽいけど。射撃面の方が高い感じ?」
「ああ」
スミスは即座に頷く。
「だが、平均じゃない。それよりは、確実に上だな」
短いやり取り。それだけで、二人の中で武器適応の評価は終わっていた。
その様子を横目で見ていたクロが、軽く手を叩くようにして口を開いた。
「さて。お二人にも、お土産を渡しましょうか」
そう言うや否や、ためらいもなく、再び例のバズーカを取り出す。
ジュンは、またクロが何かおかしなことをし出したと思い、思わず声を上げそうになった。だが、それよりも早く、スミスとウェンが反応する。
二人の目の色が、はっきりと変わった。
クロからバズーカを受け取るや否や、迷いなく角度を変え、重量を確かめ、持ち替えながら各部を視認し始める。そこに一切の無駄はなく、動きは淀みなく連なっていた。
「どこのメーカーのバズーカだ?」
スミスが低い声で問いかける。
「ビーム系じゃないな……実弾系か?」
「でも、弾倉が無いように見えるけど……」
ウェンが覗き込むように言い、そのまま軽く構えてみせる。
「……しかし、軽いね。これなら、私でも扱えそう」
切り替えの速さ。先ほどまでのやり取りが嘘だったかのような集中力に、ジュンは目を見開いたまま、完全に言葉を失っていた。
そんな様子を見て、クロが淡々と補足する。
「このお二人は、携行武器を扱う店のオーナーと、その娘さんです」
ようやく状況を飲み込んだジュンが、思わず本音を漏らす。
「……クロの周りには、変わった人しかいないんですか?」
クロは一拍置き、静かに視線をジュンへ向けた。
「ええ。ジュンも、ではないですか?」
その一言に、ジュンは反論する間もなく、言葉を詰まらせる。




