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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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大みそか外伝 神が生まれた日

本年は『バハムート宇宙を行く』をお読みいただき、誠にありがとうございました。

来年も、クロの物語をお楽しみいただけましたら幸いです。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

よいお年をお迎えください。

 バハムートは、この星の監視者だった。そして、その監視者は、どうにも暇を持て余している。


 女神からのお願いを受け、ただひたすらに見つめ続ける役目。世界が壊れないよう唯々見守るだけの立場。それは尊い役割であると同時に、途方もなく退屈な時間でもあった。


「世界樹……誰か折らないかな」


 そんな物騒な独り言を漏らしてみる。当然、返事はない。今この時、この場所に、その声を聞く人類はいなかった。


 バハムートが居るのは、標高の高い山。転生したその時から、変わらず根城としている場所だ。山の頂上は平らに均され、余分な起伏は取り除かれている。その過程で出た土や岩は、捨てられることなく積み上げられ、やがてドーム状の構造物となっていた。


 寝床として使うため。鱗や不要になった素材をしまっておくため。そして、監視の合間に考え事をするための空間として。


 ドームの表面も内側も、バハムートの高温のブレスによって焼き固められている。無骨だが、隙はなく、風も雨も通さない。その中で、ただひたすらに世界を見下ろす。


「文明が出来たのは、まあ良い事だが……」


 そう呟きながら、足元にある土を手に取る。指の間で捏ね、感触を確かめるように形を変えていく。


「こうも平和だと、正直つまらない」


 とは言っても、理解していないわけではない。各種族は、まだ狭い範囲でしか生活していない。互いの文化も、価値観も、損得も、深くは知らない段階だ。衝突が起きないのも、ある意味では自然な流れだった。


 捏ねた土に、別空間から水を取り出して加える。世界樹の近くにある湖から採取した水だ。静かに注ぎ、さらに捏ねる。


「やっぱり、世界樹の傍の水が一番馴染むんだよな」


 理由は分からない。色々な水で試したが、この湖の水のみがゴーレム造りに適応する。


 視線を上げると、前方には大量のゴーレムたちが見える。黙々と穴を掘り、壁を整え、通路を広げている。中には石を切り出し、内装を整えている個体もいた。


 効率は悪くない。だが、完成まではまだ遠い。


 バハムートはその光景を眺めながら、手元の土をさらに成形していく。慣れた動きで、余分な部分を削り、必要な凹凸を残す。


「ダンジョン完成には、まだほど遠いな」


 一人ごちるように言い、少し考える。


「よし……血の塊」


 指先に力を込め、体内からわずかな血を抽出する。それを凝縮し、硬質化させる。


「血石でいいか」


 名前を決めると同時に、それを成形途中の土へと埋め込む。馴染ませ、形を整え、最後に軽く熱を通す。


「はい、完成」


 その瞬間、土の塊が僅かに震え、内部から魔力の流れが生まれる。新たな存在が、静かに目覚めた。


「よし」


 バハムートは満足そうに頷く。


「お前は、278号だ」


 生まれたばかりのゴーレムを見下ろし、命じる。


「さあ、ダンジョン造りに行ってこい」


 ゴーレムは一礼し、迷いなく作業場へと向かっていった。その背を見送りながら、バハムートは再び土へと手を伸ばす。


「あれから、何年経ったんだろうな」


 指先で土を捏ねながら、ぽつりと呟く。数えようとしたことは、何度もあった。だが、途中で面倒になり、いつの間にか幾年という単位すら曖昧になっている。


「睡眠もいらないし、食事も不要な体は楽なんだけど……」


 言葉を区切り、少し考える。


「何か、食べたいな」


 そんな他愛もない独り言を漏らしつつ、バハムートはダンジョン造りのためのゴーレムを、また一体、また一体と生み出していく。作業は単調で、だが確実だった。


 そして、さらに長い年月が過ぎた。


 各種族の生活範囲は、少しずつ広がっていく。山を越え、森を抜け、川を渡り、互いの存在を意識し始める。中には交易を始める国のようなものも現れ、物と共に情報が行き交うようになっていた。


 その頃には、ダンジョンもまた、ようやく山麓へと達していた。人の目には、深い樹海を抜けた先、山麓に入口が現れたように映る場所だった。


「……ようやく」


 バハムートは、完成した通路を見下ろす。


「ようやく、貫通したぞぉ~~~~~!!」


 喜びを抑えきれず、叫び声が山々に響き渡る。その勢いのまま空へと舞い上がり、嬉しさに任せて、一日中、昼も夜も区別なく駆け回っていた。それが――人類が、初めてバハムートの存在を確認した瞬間だった。


 恐ろしくもあり、同時に目を奪われる光景。太陽に輝く漆黒の鱗。空を覆い尽くすほどの巨体。


 人類は、それを神と認めた。そして、その姿を初めて視認した日を、特別な日として記憶する。


「それが、のちに“神が生まれた日”と認識されてな」


 場面は戻る。


 レッド君がホロディスプレイに綴る文章を読み終え、アヤコはゆっくりと顔を上げ、クロを見る。


「新しい年。その星の……ニューイヤーになったんだ」


「クロ」


 少しだけ間を置いてから、アヤコは首を傾げる。


「拝んでいい?」


「神ではないので、無駄ですよ」


 クロは即座に返すが、すぐに視線をレッド君へ向けた。


「……と言うより、レッド君」


 声には、わずかに不満が混じる。


「なぜ、私の言うことを聞かないんですか。いい加減、前の星でのやらかしを書くのはやめてください」


 睨むように命令するが、レッド君は静かに首を横に振る。そして、何事もないように文字を入力する。


『シゲル様の命令が最優先と判断しました。創造主のお父様ですので』


「そうだ、レッド!」


 シゲルは上機嫌で缶ビールをあおり、満足そうに笑う。


「この家じゃ、俺が一番偉いんだ」


 そして、身を乗り出す。


「ってことで、他にもまだあるか?」


 クロは、思わず額に手を当てた。


 そうして、クロの幾年にも渡る“やらかし”の一部が、少しずつ明かされていく。賑やかな夜は、まだ少しだけ続きそうだった。

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