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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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ジャンクショップへの帰還と職人たちの反応

 クロたちが転移してその場から姿を消すと、データ室に残された空気が一気に緩んだ。つい先ほどまで張り詰めていた緊張が、行き場を失ったように沈み込み、機材の駆動音と端末の低い作動音だけが、いつものリズムを取り戻す。


 その中心で、グレゴの盛大なため息が落ちた。長く、深く吐き出されたそれは、疲労そのものだった。肩から力が抜け、背中がわずかに丸まる。だが不思議なことに、その顔には疲れ切った様子と同時に、どこか満足そうな、あるいは楽しげとさえ言える表情が浮かんでいる。


「全く……あいつがいると、疲れる」


 吐き捨てるような言い方だったが、声には険がない。苛立ちよりも、やり切った後の倦怠に近い響きだった。


「嬉しそうに言われてもね」


 ジンはその様子を見て、くすりと微笑みながら言葉を返す。からかうというより、分かり切ったことを確認するような、穏やかな口調だった。


 グレゴは一瞬言葉に詰まり、視線を泳がせる。バツが悪そうに頬をかき、何か言い返そうとして、結局何も出てこない。そして誤魔化すように顔をそむけた。


 そのやり取りを横目に、ギールが小さく笑い声を漏らす。


「いやぁ……クロがいない日が、こんなに静かだとは思わなかったよ」


 椅子に深く腰を預け、肩の力を抜いたまま、しみじみと言う。


 そう言い放つと、席を立ち上がり、わざと荒く足を運ぶように歩き出す。床を叩く足音は重く、苛立ちを示すようでいて、どこか大げさで、芝居がかっていた。


 出口へ向かう途中、無意識のように手を握ったり、開いたりする。赤くなっている顔を悟られまいとするように、振り返らず、視線も向けずにポンセへ声を投げる。


「ポンセ、付いて来い。少し手伝え」


「は、はい!」


 突然の呼びかけに、ポンセは一瞬で背筋を伸ばして立ち上がる。返事と同時に、椅子を引く音が慌てて鳴り、端末を胸に抱え直してから、急ぎ足でグレゴの後を追った。


 その背中を見送りながら、ギールはふっと力の抜けた笑みを浮かべ、ジンへと視線を向ける。


「……怒られません?」


 半分冗談、半分本気といった調子だった。


「大丈夫よ」


 ジンは迷いなく即答する。


「今、手を握ったり開いたりしてたでしょう? あれ、図星を突かれた時とか、照れてる時に出る癖なの」


 そう言って、くすりと小さく笑う。そして何事もなかったかのように向きを変え、メイン端末のある席へと戻っていく。


 ギールはその後ろ姿を見送りながら、もはや隠そうともせず、少しにやけた表情を浮かべる。


「仲、良さそうで」


「ええ。ラブラブよ」


 その即答に、ギールは思わず手で顔を仰ぐ。一瞬だけ、笑みを引っ込めるように視線を落とした。


「暑い暑い……」


 大げさにそう言いながら立ち上がり、肩をすくめて苦笑する。


「はいはい、ごちそうさまです」


 そうぼやきつつも、その口元には確かな笑みが残ったまま、ギールは執務室へと戻っていった。


 クロたちがジャンクショップへ戻ると、作業場の空気はまだ張り詰めたままだった。


 解析作業は終わっておらず、アヤコは作業台の端に腰を預け、端末を操作しながら定期的に進捗を確認している。視線はディスプレイと解体された頭部、そこから伸びるケーブルへと行き来し、一切の無駄がない。


 一方で、シゲルは作業台の反対側に陣取り、オートマンの残骸を一つひとつ解体しながら、黙って頷いていた。工具を持つ手は迷いがなく、長年染みついた職人の動きそのものだった。


「なるほどな……」


 独り言のように呟きながら、内部構造を覗き込む。


「装甲を薄くして、その分、積載量と高機動を確保してる構造だ。代わりに小型の粒子フィールドで防御力を補ってる。無駄がねぇ」


 分解された装甲片を指で弾きながら、感心したように続ける。


「しかも、この方式……見たことがねぇ」


「……わかるんですか?」


 少し驚いたように、ジュンが声をかけた。


 レッド君は今は抱いていないが、なぜかシゲルのすぐそばに立ち、説明を一言も聞き逃すまいとするように真剣な眼差しを向けている。その一方で、ふとした拍子にシゲルの横顔を見るたび、頬がわずかに赤くなるのを自分でも意識していた。


「長く触ってりゃな」


 シゲルは短く答え、再び解体に戻る。


 そこへ。


「帰りました」


 クロの声が、作業場に落ちる。


 その瞬間、ジュンは反射的に一歩だけ距離を取った。自分でも理由は分からないが、妙に姿勢を正してしまう。


 アヤコはクロを見るなり、即座に声を荒げる。


「クロ! いい加減にしなさい!」


 叱責は鋭い。だがその手は端末をしっかりと握り、作業の流れを一切止めていない。怒りと実務が完全に両立しているあたりが、いかにもアヤコだった。


 その頭上から、クレアがエルデの頭を蹴るように飛び降りる。軽やかに床を駆け、アヤコのそばへ行くと、そのまま作業台に跳び乗った。


「アヤコお姉ちゃん。クロ様がすいません」


 ぺこりと、素直に頭を下げる。


「クレアは謝らなくていいの」


 アヤコはそう言って、クレアの頭をひとなでし、そのまま視線をクロへ戻す。


「クロ。反省する気はあるの?」


 問いは短く、逃げ道はない。


 クロは肩をすくめるようにしつつ、どこか軽い調子で返した。


「まあまあ。まだお土産はありますから、それで許してください」


「……お土産って?」


 アヤコの声は低いままだが、その表情にはわずかな揺れがあった。怒ってはいる。だが“お土産”という単語が、確実に好奇心を刺激している。


 それを見逃さず、シゲルがくっと笑う。


「クロ。お前、面白いもんを山ほど持って帰って来たな」


 解体した残骸を一瞥しながら、楽しげに続ける。


「で、その“他のお土産”ってのは何だ?」


 クロは少しだけ口角を上げた。


「このオートマンやドローン。それにおそらくここでは見たことのない戦艦や機動兵器を造っている企業たちのデータです」


 作業場の空気が、わずかに変わる。


「興味、ありませんか? 今なら未解析の設計思想から生産系統まで、データ見放題……いえ、取り放題です」


 そして、まるで散歩に誘うかのような軽さで、言った。


「――ついてきます?」


 それは、武器でも金でもない。だが間違いなく、職人と技術者にとっては抗いがたい“招待状”という名のお土産だった。

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