歪みによる内戦構造の説明
今年一年、本当にありがとうございました。
これまで多くの皆さまに読んでいただけたこと、心より御礼申し上げます。
年末年始の更新につきましては、
12月29日から1月1日までは、1日1回・12時更新とさせていただきます。
1月2日から7日まではお休みをいただき、
1月8日より通常更新を再開いたします。
今年も残りわずかとなりましたが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
クロの口から、これまでの経緯が淡々と語られていく。発端となった内戦が、偶発的な衝突ではなく、意図的に仕組まれたものであったこと。その仕組みが時間をかけて歪みを生み、修正されないまま積み重なった結果として、現在の状況に至っていること。ねじれた構造が、さらに別のねじれを呼び込み、誰が得をしているのか、誰が止められなかったのかも分からないまま、事態だけが進行している現実。
クロは要点を外さず、必要以上に感情を乗せることもなく、その流れを簡潔に説明していった。
ギール、グレゴ、ジンは口を挟まず、ただ黙って話を聞いている。だが時間が経つにつれ、三人の表情ははっきりと硬さを増していった。理解が進むほどに、不機嫌さが隠せなくなっていく。
ポンセは言葉を発さず、端末にクロの言葉を一つひとつ記録していく。その手は止まらないが、顔つきは次第に強張り、平静を保とうとしているのが分かる。
「以上が、今わかっていることです」
クロは一息置いてから、淡々と続けた。
「……まあ、面白いくらいに、利用されていますね。国を強くするためのシステムとして見れば……褒められたものではありませんが、それしか選択肢がなかった、と言われれば、そうなのかもしれません」
そこまでは、理屈として理解できる部分だった。だが、クロは言葉を切らずに続ける。
「ただし、最初から仕組まれた悪意と、年月をかけて積み重なった想定外が重なった結果、今はかなり面倒な状況になっています」
クロがそう締めくくると、グレゴはしばらく黙ったまま視線を落とし、やがて静かに口を開いた。
「だがなぁ……」
低く唸るような声だった。
「それで困るのは民間人だ。それに、現状を鑑みると……思いっきり最悪の方向に転がってるじゃねえか」
グレゴは俯いたまま腕を組む。浮き上がった血管が、そのまま感情の高ぶりを示しているようだった。握り締められた拳には、抑えきれない苛立ちと無力感が込められている。
「なるほど……」
ジンが、ゆっくりと息を整えるようにして言葉を継いだ。
「娘からの連絡が少ないのは……そういうことなのね」
口元には微笑みが残っている。だがそれは感情を隠すための仮面に過ぎず、その奥にははっきりとした怒りが沈んでいるように見えた。
「これは……クロに任せて正解だったな」
最後に、ギールが重く息を吐きながら言う。
「……根が深い。思っていた以上に、な」
部屋に落ちた沈黙は、短い。だが、そのわずかな間に、この件が簡単には終わらないという認識が、全員の中で共有されていた。
その沈黙を、クロが破る。
「ですから、内戦を終わらせるための行動に移りました」
すでに決断を済ませている者の声だった。
「まずはマルティラⅡと、その宙域を落ち着かせます。その上で、マルティラ本星を整える。そういう順で進める予定ですね」
淡々と語られる計画は、しかし大胆だった。
「ですので、遅くても一ヵ月以内には、片をつけようかと考えています」
その言葉に、場の空気がわずかに張り詰める。短すぎると感じる者もいれば、クロならやりかねないと納得する者もいた。
「わかった」
グレゴが、確認するようにクロを見る。
「報告は、以上か?」
「ええ。報告はここまでですね」
クロは即答する。
「詳しい部分は、後で資料を確認してください。ポンセ、未整理のデータは後ほど送りますので、整理して皆さんに渡しておいてください」
「わかりました。社長」
ポンセは短く頷き、端末にそのままメモを追加した。その動作を確認してから、グレゴが改めてクロを真っすぐに見据える。
「それで、終わりか?」
問いは簡潔だった。だが、その視線は“これで終わりとは思っていない”と雄弁に語っている。
「……いえ」
クロは小さくそう呟き、言葉を続けた。
「一つ、確認しておきたいことがありまして。これは、革命派のアリ中将から託されたお願いです」
「今回の主犯のひとり、という認識でいいのよね」
ジンが、嫌味を隠そうともせずに言い放つ。軍属として、そして民間人の被害を目の当たりにしてきた者として、抑えきれない感情が滲んでいた。
クロはその言葉を真正面から否定せず、わずかに苦笑する。
「ええ。ただし、手を尽くそうともしています。恐らく現時点では、彼が一番まともでしょう」
「まとも、ね……」
ジンは間を置かずに返す。
「だからといって、国ぐるみでやっていいことじゃないでしょう」
さらに投げられた辛辣な一言に、クロはほんの一瞬だけ意外そうな視線を向ける。だがすぐに表情を戻し、淡々と説明を続けた。
「それは、その通りです」
否定はしない。だが、評価は切り分ける。
「ただ、今回私が解決に動いた際、彼は瞬時に多数の戦艦を動かし、基地の制圧や都市の封鎖に踏み切りました。ということは、以前から準備を徹底していたと考えられます」
クロは一呼吸置き、言葉を選ぶ。
「やり方は確かに間違っています。ですが……終わらせる覚悟を持っている人物でもあります」
その言葉に、ジンはそれ以上口を挟まなかった。表情は硬いままだが、クロの説明を遮ることはせず、静かに耳を傾けている。
ギールはその様子にわずかに驚いたような視線を向け、逆にグレゴは短く息を吐いた。
「ジン」
諭すような、しかし強さを含んだ声だった。
「お前の気持ちは分かる。だが、職務にあまり反映させるなよ。孫は……ちゃんと、また顔を見せに来る」
「孫?」
思わずクロが反応する。
「ドリーム星系にいるんですか?」
「クロ」
グレゴはその話題を即座に切り捨てる。
「そんなことはどうでもいい。その“お願い”とは、何だ」
感情を一度脇に置き、本題へ戻す声だった。場の空気が、再び一点へと収束する。




