技術者たちの静かな狂気
「おやっさん、クロねぇ、持って来たっす」
エルデが声を上げ、倉庫から空のコンテナを大型のフロート台車に載せて作業場へと運び込んでくる。低く安定した浮遊音が響き、これから始まる作業の準備が整ったことを静かに告げていた。
クロはそれを見ると、特に説明もなく手をかざす。次の瞬間、別空間が開き、そこから次々とオートマンの残骸が現れる。
クロの攻撃で完全にバラバラにされたもの。装甲が焼け焦げ、内部構造を晒したまま転がるもの。中には、比較的原型を保ったまま機能停止している個体もあり、それらが次々と一つのコンテナへと収められていく。
金属がぶつかり合う重たい音が幾度も響き、コンテナの底はあっという間に見えなくなった。
「あと、こっちには軍用ドローンを」
クロがそう付け加えると、もう一つのコンテナが開き、今度はオートマンと同じような状態のドローンが大量に放り込まれていく。翼を折られたもの、センサーを破壊されたもの、推進部だけを残したもの。こちらも数は桁違いだった。
「……すげぇな」
シゲルはオートマンの残骸を眺めながら、思わず楽しげに呟く。
「これ、組み合わせれば復元できるな」
「じいちゃん!」
即座にアヤコが反応する。
「ドローンの部品は私の!」
端末を操作しながら、クロが出した大量のドローン残骸に目を輝かせるその姿は、完全に技術者のそれだった。
そのやり取りを横目に、ジュンはただただ圧倒されている。量が多いという次元ではない。そもそも、これだけの戦力を「一人で処理した」という前提が、理解を拒んでいた。
「これって……」
言葉を探すようにクロを見ると、クロは何でもないことのように頷いた。
「ええ。私一人で処理しました」
淡々と、あまりにも淡々と続ける。
「全く、無駄なのに。うじゃうじゃと……ゴキブリのように、です。湧くものですから、片っ端から破壊して、お土産として回収しました」
その言い回しに、アヤコが嫌な予感の表情を浮かべる。
「まだまだありますよ。何なら、銃火器もあります」
そう言うと、クロは別空間から、オートマンに装備されていた大型のバズーカを一丁取り出した。作業場の照明を反射し、無駄に存在感を主張する重火器だった。
「いります?」
「いえ、いいです」
ジュンが反射的に即答する。
「クロ!」
アヤコの声が飛ぶ。
「そういうところがダメなんだって、言ってるでしょ!」
作業場には、呆れと苦笑、そしてため息が入り混じった空気が流れていく。それでも、その中心に積み上がったとんでもない成果物だけは、紛れもない現実としてそこにあった。
「とりあえず、これは置いて行きます。売るなり、組み立てるなり、好きに使ってください。まだありますので、必要でしたら言ってください」
クロは軽くそう言い放つ。その口調は、不要になった資材を置いていく程度のものだったが、視界に広がる光景は明らかに常識の範疇を超えている。
「わかった……が」
シゲルはオートマンの残骸を一つ手に取り、刻印や接合部を確認しながら首を傾げる。
「見たことねぇ型だな。品番も……いや、そもそも系統が分からん」
ちらりとクロを見る。
「クロ。もう少し、綺麗に破壊できねぇのか」
「無茶を言わないでください」
即座に返る。
「出来ますが、かなり面倒です」
「あ、出来るんだ」
思わず、ジュンの口から言葉が漏れた。
言ってから、自分でも驚く。出来る、という一点に引っかかりつつ、これまでのクロの行動を思い返し――不思議と、そうかもしれない、と納得してしまう自分がいた。
それ自体が、すでにおかしいと、遅れて気づく。
「お姉ちゃん。どのくらいかかりそうです?」
クロがドローンの残骸に視線を走らせつつ、解析作業に入っているアヤコに確認する。
「そうだね」
アヤコは端末から目を離さず、指を動かし続けたまま答える。
「案外、甘いシステムだから……今が11時として、15時くらいには分かるかな。特に問題がなければ、だけど」
「四時間で出来るんですか!」
ジュンが思わず声を上げる。
アヤコは振り返り、少しだけ笑った。
「だって、位置特定だけでしょ? それだけに絞って解析すれば、そこまで難しくないよ。もっと他のことも調べるなら時間はかかるけど」
そう言って、端末を軽く叩く。
「私の特製アプリと、魔改造した端末なら、そのくらいは普通かな」
その瞬間、ジュンは確信に近い感覚を覚えた。
(……この人も、おかしい)
自分は専門家ではない。だが、解析という作業が、そんな短時間で“簡単”と言い切れるものではないことくらいは分かる。
それを当然のように口にし、実際に動かしている。その事実が、じわじわと現実感を削っていく。
そんな中、クロが作業場を一瞥し、言った。
「では、一旦お任せしますね。私は、少しギルドに行ってきます。データの許可取りをしてきますので」
「おう」
シゲルが頷き、視線をジュンに向ける。
「ジュンはどうする?」
「私は、ここに残ります」
即答だった。
「強制的とはいえ、無断で別の国に来てしまっていますので。軍属として、それはさすがに不味いです」
言い終えてから、ジュンは小さく息を吐いた。周囲の空気に流されそうになりながらも、自分が踏み越えてはいけない一線だけは、まだ手放さずにいられた。
作業場では、すでに解析作業が静かに進み始めている。淡々とした機械音が流れるその空間では、異様さと日常が区別されることなく、当たり前のように並び立っていた。




