構造と裏切り者
「確認しておきたいことがあります。革命派というのは、軍という大枠の中に義勇軍が存在する、そういう理解でいいんですか」
沈黙を切り裂くように、クロが静かに問いを投げた。声音は穏やかだが、曖昧な前提を抱えたまま話を進める気がない。その姿勢が、はっきりと伝わる問いだった。
それに応じて、デビットが端末を操作する。空中に展開されたホロディスプレイには、簡略化された組織図が浮かび上がった。
「義勇軍の成り立ちについては、後ほど詳細なデータを送ります。ですので、今は概要だけになりますが……概ね、その理解で問題ありません」
前提を確認するようにそう述べると、デビットは一拍置き、指先を滑らせて表示を切り替えた。
「ただし、ここからが少々ややこしい話になります」
表示された図には、いくつもの系統が重なるように描かれている。単純な上下関係ではなく、意図的に絡め取られた構造だった。
「当初の計画では、義勇軍を使い、国民を極力犠牲にせずにマルティラ、そしてマルティラⅡの宇宙域支配権を確立する。その名目で、実地テストとデータ収集を行っていました」
淡々とした説明とは裏腹に、その内容は重い。クロは視線を逸らさず、ホログラムを追い続けている。
線の引き方が、あまりにも整いすぎている。偶然の積み重ねではなく、そうなる前提で組まれていた構造だと、改めて認識する。
イエローサックを起点に人員が分割され、正規軍と義勇軍が並列に配置されている。さらに、その両方を束ねる位置に、イエローサックのリーダーが据えられていた。
「こちらが、当初の指揮系統です」
簡潔にまとめられた図を示しながら、デビットは説明を続ける。
「革命派――当時は、こうした構造を取っていました。そして実のところ、当時のマルティラ軍も同様の方式を採用していたのです」
クロの表情が、わずかに引き締まる。
「軍対義勇軍、という構図を作り出し、互いの正規軍人を消耗させない。その一方で、宇宙域に溢れる不要な存在を排除し、なおかつ戦闘データを蓄積する」
言葉を選びながらも、デビットは隠すことなく語る。
「いわば、宇宙のゴミ掃除と実験を同時に行うための仕組みでした」
クロの表情が、さらにわずかに引き締まる。ホログラムから一瞬だけ視線を外し、それから再び、無機質な図へと戻した。
ホロディスプレイに浮かぶ線と箱が、その現実を変わらず示している。室内に、短い沈黙が落ちた。
その沈黙を破ったのは、これまで口を挟んでこなかったエルデだった。
「そういえばなんっすけど、どうやって賞金首を集めたんっすか? よく、あれだけ集められたっすね」
場の空気を読まずに投げ込まれた疑問。だが、その視点は妙に的確だった。
クロは一瞬驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑う。
「エルデにしては、なかなかいい疑問ですね」
コーヒーを一口含みながら、少しからかうように言う。エルデは頬を膨らませつつも、すぐに言い返した。
「いや、だっておかしいっすよ。多過ぎっす」
そして、溜めもなく一番の疑問を投げる。
「集めるって、簡単じゃないと思うっす。それは自分が売られた事があるっすから分かるっすけど……もし、お金で集めたとしたら、絶対に破産するっすよ」
場の空気が、わずかに引き締まる。
「……だ、そうですが。答えは?」
クロが笑みを残したまま確認すると、アリが小さく肩をすくめるようにして口を開いた。
「詳細は後で送るデータを確認してくれ。簡潔に言えば、エビルギルドで募集をかけた」
あまりにも平然とした口調だった。まるで、ありふれた事務連絡でもするかのように。
「簡単に稼ぐ気はないか、とね。戦艦や各機体はこちらで用意する。その代わり、指示した場所で戦ってほしいと」
アリは言葉を区切りながら、淡々と続ける。
「対価は、内戦終了までの衣食住の確保。それに、戦果に応じた報酬を支払う予定だった。……まあ、結果は今の通りだよ」
クロは口を挟まず、黙って聞いている。視線はアリに向けられたまま、表情は崩れない。
エルデはというと、説明を追いかけながらも、どこか噛み砕き切れない様子で首を傾げていた。
「なぜそうなったかは、後で確認してほしい」
アリの言葉を引き取るように、クロが静かに補足する。
「要は、エビルギルドに顔が利く者がいて、それを利用していたら……お金を稼ぐ仕組みを、丸ごと持っていかれた」
わずかに、声の温度が下がる。
「というより、その人物が最初から画策していた。そんな感触がありますね」
「ああ、その通りだよ」
即答だった。アリの声には、もはや取り繕う余地はない。
「そこで次の提案なんだが」
淡々とした語調は変わらない。だが、その奥に沈んだ感情が、否応なく伝わってくる。
抑え込まれてはいるが、確かな怒り。そして、決して逃がさないという意思。
「こうなった原因である裏切り者の居場所を探す。そのために、クチグロのオートマンをこちらに渡してほしい」
言葉は静かだったが、要求は重い。
「……それは、あなた方が解析して、居場所を探すと?」
クロの問いは、確認というよりも線引きだった。
その間に、デビットが一歩前に出る。場の空気を察し、アリの感情がこれ以上露わにならないよう、あえて役を引き取った形だった。
「ええ。我々の専門チームが解析します。必ず探し出します」
声は冷静で、事務的ですらある。
「もちろん、クロ君にも判明次第、すべてのデータはお渡しします」
一見すれば、筋は通っている提案だった。
「わかりました」
クロは落ち着いて頷く。その仕草だけを見れば、了承したようにも見えた。
だが、次の瞬間。
「お断りします」
迷いのない、きっぱりとした宣言だった。




