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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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ギルドデータと膿の照合

「ここまでで十分です。話を先に進めましょう」


 クロはそう言って、手にしていたカップを軽く持ち上げ、コーヒーを一口含んだ。熱でも苦味でもない、思考を切り替えるための所作だった。


 ジュンは反射的に何か言いかけ、口を開き――だが、結局言葉を飲み込んで閉ざす。胸の内に渦巻く感情は整理しきれず、今ここで口にしても意味がないと、無意識に理解していた。


 そんな様子を横目で捉え、クロはわずかに苦笑する。


「アリ中将。これまでの経緯については、後ほど詳細なデータで送ってください」


 感情ではなく、処理としての要求。


「ああ、その方がいいな」


 アリも即座に頷く。


「今は提案を先にしよう。……デビット、悪いが、お代わりを」


 何でもない指示のようでいて、場の空気を一段落ち着かせる合図でもあった。


「自分も欲しいっす」


 エルデが軽く手を挙げる。


「私も、同じでお願いします」


 クロもそれに乗る。


 デビットは一言も挟まず、淡々と端末を操作し指示を出した。数分後、静かに給養員が入室し、新しいカップを配っていく。


 コーヒーとジュースに加え、クレアの前には、口元を拭くための柔らかいタオルがそっと置かれた。用意された深めの皿といい、過不足のない配慮が行き届いている。


「ありがとうございます」


 クロが短く礼を言う。


「気にする必要はありません」


 デビットは表情を崩さぬまま答え、自分のカップに口をつけた。それが特別な対応ではなく、職務の一環であるかのように。


 先ほどまで張りつめていた空気が、わずかに緩む。ジュンはその変化に気づき、思わず小さく息を吐いた。


「……いい息抜きになったようだな」


 アリがそう言ってから、視線をクロに戻す。


「では、本題だ。クロ君に一つ提案がある」


 軽く間を置いてから、ストレートに切り出した。


「まず、ギルドの賞金首データを提供してほしい」


 回りくどさはない。それは交渉というより、事実上の要求だった。


 クロはカップを手に取り、即座に首を横に振る。


「私の一存では無理ですね」


 即答。否定の余地を残さない声音だった。


 そのまま一口、コーヒーを含む。苦味を確かめるような間を置いてから、続ける。


「マルティラのハンターギルドに、正式に確認してください」


「それが出来ない」


 アリは眉一つ動かさずに返した。


「現在、ギルドはマルティラ軍の監視下にある」


 その言葉で、室内の空気がわずかに変わった。


 クロはカップをソーサーに戻し、静かに視線を上げる。


「……マルティラ軍が、ギルドを監視している。理由は?」


 短い問いだった。


「……正直、綺麗なやり方じゃない」


 アリは一拍置き、カップに砂糖とミルクを入れる。その手つきに、迷いはない。


「この内戦の裏側を、外部に漏らさないためだ。開戦時にハンターはすべて追い出した。干渉させないため、余計な目と耳を排除する必要があった」


 淡々と、だが一息で語る。


「もっとも、完全な排除は国際法上かなり難しい。だから表向きは継続運営という形を取り、民間人が出来る物資運搬や保守点検、生活維持といった最低限の民間依頼だけを残した。内部に干渉されないよう監視も置いた」


 苦肉の策だったことは、説明の端々から伝わる。


「だが時が過ぎ、内戦は想定以上に複雑化した。今では分断が進み、情報も人も遮断され、最低限の確認すら取れなくなっている」


 軍事的には合理的だった。だが同時に――自らの首を絞める判断でもあった。


「……なるほど」


 クロは静かに頷く。


「マルティラのギルドが正しく機能していないから、私の今いるコロニーにUPOから依頼が振られた。そういうことですね」


 理解は早い。噛み砕くような言い直しもない。


「見事なまでの、自業自得です」


 皮肉は薄く、事実だけを並べた声。


 クロは少し考え、結論を出す。


「半日から一日ください。ギルドに確認します」


 即断だったが、軽率さはなかった。


 アリはその答えを聞き、小さく息を吐いた。肩から、ほんのわずかに力が抜ける。


「助かる」


 短い一言だったが、率直な安堵が含まれている。


 クロはカップを口元に運びながら、自然な調子で問いを重ねた。


「それで、そのデータを使って何をするつもりです?」


 詰問ではない。あくまで確認だった。


「なに、クロ君の“後始末”を手伝おうと思ってね」


 アリはそう言って、ミルクをたっぷり入れたコーヒーを一口飲む。甘さに満足したのか、わずかに口元が緩んだ。


「ほら、いちいち確認していては手間だろう? こちらで死んだ者、投降した者を洗い出し、賞金首データと照合する。整った形で君に提供しようと思っている」


 言葉は軽いが、やろうとしていることは徹底している。


「そうすれば、次々と“膿”を抜いていける」


 まるで事務処理の話をするような口調だった。


「なるほど」


 クロは素直に頷く。


「それは助かりますね。正直、いちいち照会するのは手間でした」


 遠慮のない本音。


「だろう?」


 アリは満足そうに頷く。


「こちらは内部の膿を出し切れる。クロ君は正当に賞金を得られる。互いに損はない」


 取引条件としては、実に分かりやすい。


「ええ」


 クロは即座に応じた。


「正式な許可が出れば、こちらもすぐにデータを提供しましょう」


 その瞬間、二人の口元に浮かんだのは、よく似た笑みだった。善意でも悪意でもない。利害が一致した者同士の、どこかいやらしさと計算を含んだ笑み。


 二人は何も言わず、同時にカップを口に運ぶ。


 その様子を横目で見ながら、アリは視線をデビットに向けた。


「デビット。データが届いた際、照合しやすいように整理する手配を」


「了解しました」


 即答だった。


 デビットは端末を取り出し、粛々と指示を入力していく。そこに迷いはない。

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