崩れる常識、揺れない信念
【更新時間変更のお知らせ】
来週より、更新回数はこれまで通りに戻りますが、誠に勝手ながら更新時間を変更させていただきます。
今後の更新時間は、8時・12時・20時 となります。
なお、年末年始の更新予定につきましては、あらためてお知らせいたします。
変則的な更新となりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
その後も、ジュンは一度吹っ切れたのか、それとも常識そのものが音を立てて崩壊したのか分からないまま、間を置かずに質問を重ねてきた。
考えるより先に、口が動いている。そんな様子だった。
「どうやってこんな状況になったんです?」
そう言いながら、ジュンは周囲へと視線を巡らせる。司令室の床。壁際。操作卓の影。
そこにあるのは、いつもなら忙しなく動き回っているはずの人員が、例外なく倒れている光景だった。誰一人として起き上がらず、息をしているだけの存在になっている。
「殺気を出しましたので」
クロは、まるで天気の話でもするかのように続ける。
「それに当てられて、気絶していますよ」
ジュンは一瞬、言葉を失った――“殺気だけで”と、心の中で叫びを上げつつ、確かに彼女の中で“常識”という壁をひとつ、崩していくのを感じた。クロの何事もなかったかのような口調は、説明としては簡潔だが、内容は常軌を逸している。
その言葉を聞いて、クレアは誇らしげに胸を張った。尻尾をゆらりと揺らし、「当然です」とでも言いたげな表情でいる。
ジュンは一瞬、言葉を失ったが、すぐに次の疑問を投げた。
「花火って……あれ、どうしたんです? 爆弾でも仕掛けたんですか」
あの異様な爆発。祝砲のようでいて、どう考えても演出の域を超えていた現象。
「爆弾と言えば爆弾ですが」
クロは少しだけ考える素振りを見せてから、続けた。
「ヴェルカスを、戦艦がいる方向に吹っ飛ばして、石を投げたんです。うまい具合に、派手に爆発しました」
淡々と語られる内容に、ジュンの喉がひくりと鳴る。
何か言おうとして、口を開きかける。だが、途中で言葉を飲み込んだ。
――だめだ。
目の前にいるのは、もはや「非常識」などという言葉では括れない存在だ。常識を破るのではなく、そもそも基準が違う。
そう思い直し、ジュンは一度深く息を吐いた。
「……では、廊下に転がっていたパワーアーマーは」
問いの形を取りながらも、半ば覚悟を決めた声音だった。
「ああ、あれは驚きましたね」
クロは、素直な感想のように小さく頷く。
「足止めのために、あれだけの数で襲いかかってくるとは思いませんでした。しかも、落とし穴に嵌めるためだったとは予想外でしたよ」
ほんのわずかに、意外そうな色が声音に混じる。
「見事に予想の斜め上でした。あそこまで綺麗に罠に引っかかったのは、いっそ清々しい気分でしたね。頭の上にグレネードを投げられるのも新鮮でした」
少しだけ楽しげに、続ける。
「ああいう作り込みは嫌いじゃありません。むしろ、この時代にそれをやるという意外性があって、よく考えられていました」
冷静というより、どこか子供のように感心すら混じる分析。
ジュンは、何も言えなくなった。言葉を探そうとするが、どれも無意味に思えてしまう。
「ところで、ここに集まっていても問題ないんですか? 私が言うのもなんですけど」
沈黙を破ったのはクロだった。むしろ雑談でも始めるような軽さで、逆にジュンへと問いを投げる。
その瞬間、ジュンの表情が切り替わった。先ほどまでの疲労と困惑が消え、軍人としての顔が前面に出る。
「既にアリ中将の艦隊で包囲は完了しています」
即答だった。
「もちろん海上、海中も封鎖済みです。先行部隊も既に到着して展開していますので問題ありません。それに、きちんと大佐から許可を得ています! クロとは違います」
最後の一言には、はっきりとした棘があった。
「はははははっ、それはそうですね」
クロは楽しそうに笑った。自覚があるのか、ないのか分からない軽やかさだった。
「笑い事じゃないです! なんなんですかあなたは!」
堪えきれず、ジュンは声を荒げる。一歩踏み込み、クロの肩を掴むと、そのまま勢いよく揺さぶった。クロは特に抵抗するでもなく、ただされるがままに揺られていた。
その瞬間を察し、クレアは素早く行動した。クロの肩から跳び降り、事態に巻き込まれないようエルデの足元へと移動する。
「エルデ」
小さく、しかし確かな声。
呼ばれたエルデはすぐに状況を理解し、その場にしゃがみ込んだ。
「なんっすか? クレアねぇ」
クレアは、ジュンの怒気に何かを察したように、ぴょこんと首を傾げる。
「私達って、おかしいんですか」
クレアは首を傾げ、真剣な表情で問いかける。
「きちんとクロ様に指摘しているはずですし、私は今回、間違っていないと思うんですが」
純粋な疑問だった。自己正当化ではなく、確認のための問い。
エルデは少し視線を宙に泳がせ、考え込む。
「う~~ん……」
唸り声を上げてから、正直に答えた。
「クレアねぇもクロねぇもっすけど、戦い自体の次元が違うっすから……おかしくなってそうっすね」
「……」
衝撃と呼ぶほどではない。だが、エルデの口から出たその言葉は、クレアの思考を一瞬止めるには十分だった。
「あ、でも日常生活はクレアねぇは大丈夫っす」
すぐに付け加える。
「逆に自分は怪しいっすけど」
その言葉に、クレアは小さく息を吐いた。張り詰めていたものが、ふっと緩む。
「それは良かったです」
素直な安堵。
「戦いがおかしいのは、いいんすか?」
エルデが首を傾げる。
「おかしくないので」
即答だった。迷いも、躊躇もない。
そのやり取りの向こうで、未だクロを揺さぶっているジュンの声が、どこか遠くに聞こえていた。




