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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
二度目の目覚め
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黒き巨躯、追尾される静寂

「報酬は――2,780万Cだ」


 翌日。ギルドを訪れたクロが、報告を終えた直後に告げられた数字は、想像を遥かに超えていた。


「…………そこまで、行きますか?」


 思わず口に出した問いは、確認というより、驚きそのものだった。グレゴは無言で頷きながら、端末を操作して内訳を示す。


「まず、依頼そのものの報酬が500万C。次に、警備員に紛れていた賞金首が三人いて――合計180万C。それと、行方不明者の捜索依頼が12件。これで1,100万Cだ」


「……残りの1,000万は?」


 クロが尋ねると、グレゴは周囲をちらりと見回し、手招きして小声で続けた。


「ここだけの話にしろよ。――今回の調査で、このコロニーのトップが逮捕された。相当悪質だったらしくてな。国家機関が極秘案件として処理を進めていて、情報封鎖のための“機密保持報酬”って名目で、1,000万Cが支払われることになった」


 グレゴの声は、さらに低くなる。


「クロ、お前は当事者扱いだ。だから受け取れる。ただし――この件については、一切誰にも話すな。それが条件だ」


 クロは静かに頷いた。


「……わかりました。それでは、また依頼をこなしてきます。――ところで今日は、静かですね。いつもよりハンターが少ない気がしますが」


 視線を軽く巡らせながら、クロが呟く。ギルド内には、普段なら賑やかに喋っているハンターたちの姿がほとんどなかった。


「お前の発破が効いたんだよ」


 グレゴがニヤリと笑いながら答える。


「今は全員、依頼で飛び回ってる最中だ。……やっとギルドらしくなってきたな」


「それは、良かったです」


 クロは軽く一礼すると、掲示板の横にあるターミナル席へと向かい、静かに腰を下ろした。端末を起動し、依頼一覧をスクロールしていく。


「……ホエールウルフの討伐。宇宙クジラ級サイズの狼種、群れで行動……報酬、1,500万C。これにしよう」


 短く呟きながら、任務を予約する。続けて、別の依頼にも目を通した。


「今度こそ、宇宙シャークの討伐。報酬は300万C……。そうか――前回、300万Cもらえなかったのか。もったいない」


 小さく自分に言い聞かせるように呟きながら、クロは端末に手を伸ばし受付をすます。その表情に、迷いはなかった。いつも通り、人目も監視も届かない場所へと足を運ぶと、クロは静かに宇宙へと転移した。そして同時に、バハムートも転移によりその場へ現れる。


 無音の虚空に、光のうねりと共に浮かび上がる漆黒の巨躯。クロはそのバハムートに触れると、ゆっくりとその身を溶け込ませるように、バハムートと融合していく。


 だが――その直後、ふと何かを思い出して、再び姿を現した。


「……カメラ、セット忘れてた」


 額に手を当て、小さくため息をつくと、クロは端末を操作してドローンを起動。二機の超小型ドローンが端末から外れ起動音と共に移動し、角の付け根付近にある隙間へ、器用にドローンを取り付ける。


 セットを終えたのを確認すると、再びクロは本体へと戻った。


「……いちいち面倒くさいな。いっそ、シゲルに頼んで角にカメラ着けてもらった方が早いか。一緒に住むようになったら、その時にでも相談しよう」


 小さく呟きながら、バハムートは静かに軌道を移動する。目的地は、ホエールウルフの目撃地点。報告によれば、周囲に大きな抜け毛が観測された区域だ。


 だが――その途中。


 宇宙に溶けるような沈黙のなか、バハムートの感知領域に、微かで奇妙な感覚が差し込んできた。遠くから見られているような感覚。それに混じる、ごく僅かな敵意の気配。


 バハムートはその場で動きを止め、ゆっくりと周囲へ意識を巡らせる。空間にはぽつぽつと隕石が浮かぶだけで、目に見える範囲に異常はない。音もなく、匂いもなく、ただ静寂だけがそこにあった。


 それでも――身体の奥で、何かが引っかかっていた。


(……おかしい)


 宇宙の匂いも、空気の重みも、何ひとつ変わっていない。だが、確かに何かがこちらを見ていた。はっきりと姿はない。けれど、わずかな圧のようなものが背中に触れている。


 目にも、耳にも届かない。けれど、そこに“いる”という確信だけが、確かに存在していた。


「……まあ、気にするほどでもないか。まずは目的地点だ」


 小さく呟くと、バハムートは再び滑るように前方へと進み出す。星々の流れに沿うように、虚無の空を静かに滑っていく。


 だが、その遥か後方――


 薄闇のなかに、微かに揺れる影があった。その巨躯ゆえ、遠くからでもはっきり見えるバハムートの背を、幾つかの機体が忍ぶように追っていた。スラスターの閃光は抑えられ、姿を隠すような移動。けれど、その進路は明らかだった。


 ――追っている。狙っている。


 確かな敵意を帯びたいくつかの存在が、バハムートの背を、ゆっくりと追っていた。

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