記録者たち
ヨルハはファステップを背に乗せたまま、トゥキョウ基地へと舞い降りた。夜空を裂くように降下するその姿は、騎兵のごとく――まさしく突撃だった。
トゥキョウ基地の迎撃は即座に始まる。砲台から放たれた粒子ビーム砲が空を白く染め、誘導ミサイルは一直線に迫り、編隊を組んだ無数の大型ドローンが重火器を撃ちながら接近してくる。
そのすべて、あらゆる火力が一斉にヨルハへと殺到した。
だが――
ヨルハの周囲に、渦巻く嵐が生まれる。
ストームアーマーが発動し、風圧が渦を巻き、ビームを弾き、ミサイルを逸らし、ドローンを引き裂く。攻撃は届く前に砕かれ、霧散していった。
「エルデ、防御はするので、気にせず攻撃しなさい」
「了解っす!」
エルデは迷いなく即答し、ファステップの両腕を展開した。甲部に装備されたビームランチャーが起動し、照準を絞る間もなく、次々とトリガーが引かれていく。
放たれたビームが夜空を走り、ドローンが弾けるように落ちていった。撃破、撃破。敵に間を詰める暇すら与えない。
防御を気にする必要がない今のエルデは、まるで無敵の存在だと言わんばかりに、容赦なくトリガーを引き続けている。
一方、後部サブシートのジュンは必死に状況を整理していた。全周囲モニターを切り替え、敵配置を解析し、指示を絞り込む。
「クレアちゃん、右下。管制塔を潰してください」
「ヨルハです。わかりました」
即座の応答。訂正は冷静だが、そこに苛立ちはない。
ヨルハは空を蹴るように進路を変え、低空へと駆け下りる。
「エルデ、無駄な攻撃はしないで。ドローンだけでなく、砲台も狙ってください。マークします」
ジュンの操作に合わせ、敵砲台へ次々とマーカーが表示された。
「おお、判り易いっす!」
エルデは感激したように声を上げ、即座に意識をマークへ集中させアームレバーのトリガーを引いた。
思考を読み取ったファステップが即座に追従し、ビームが正確に砲台とドローンを撃ち抜いていく。
「無為な攻撃は量子がもったいないです。マークを付けた所を攻撃してください」
「了解っす。楽になるっすね」
そうして無駄は削ぎ落とされ、敵は次々と沈黙していった。
ヨルハは空中での攻撃をエルデに任せても大丈夫と判断し、そのまま地表へと突進する。まずは指示どおり、管制塔を真上から踏み潰し、跳び上がる際に爪で引き裂き、完全に破壊し、着地と同時に、大きく遠吠えのように吠える。
口腔が開き、黒い光が凝縮される。
次の瞬間――広範囲に放たれたフレアブレスが、地表を薙ぎ払った。
そこにあった地上戦艦、機体、設備、倉庫。すべてが黒い閃光に飲み込まれ、塵となって消滅していく。
「クレアねぇ、賞金首、確認した方が良いんじゃないっすか?」
「ジュン。あなたがスキャンしてください」
無茶振りだったが、ヨルハは構わず動き続ける。
砲撃とミサイルを躱し、接近してくる機体を、フレアを纏った爪で切り裂く。装甲が裂け、火花を散らし、歪んだ金属が悲鳴を上げるように砕け、鉄くずへと変わっていった。
「ジュン、自分の端末にはギルドのデータが入ってるっす。今使ってるサブシートのパネルで確認できるっすから、ログを付けていってほしいっす」
エルデはトリガーを引き続けながら、時折、思わず驚きの声を上げる。撃破と同時に表示される情報量が、常識の範囲を超えていた。
ジュンは歯を食いしばり、エルデのために優先度の高い敵へ次々とマークを付ける。同時にパネルを叩き、データを呼び出し、スキャンとログ化を開始した。
「なにこれ……真っ赤じゃない!」
思わず悪態をつき、無意識に、軍服に縫い付けられた革命軍のエンブレムへと手を当てる。
エルデも即座に頷きつつ、ファステップの全周囲モニターをぐるりと見回した。
「ホントに全部おかしいっす。IDが二つあるっすからね。たぶんですけど……いつでも抜けられるように、二重登録してるっすかね?」
全周囲モニターに、戦艦と機体から浮かび上がる二種類のID。
一つは――義勇軍。
もう一つは――海賊や犯罪組織の識別コード。
「ギルドのデータだと……全部、賞金首って……」
ジュンの指先が一瞬止まる。敵の数、IDの数、その全てが異常だった。
言葉を失いかけたジュンに、ヨルハの声が被さる。
「ジュン、それは後にしてください。とにかく、これからどうします?」
ヨルハは大地を駆け、戦艦に噛みつくように装甲を破壊する。そのままフレアブレスを叩き込み、完全に揉み消した。
地上戦艦は一瞬で解体され、砲塔の断片が空へと吹き飛んだ。
「……ヨルハちゃんの力なら、鎮圧できます」
ジュンは息を整えながら、即座に思考を切り替える。
「まずは地上の戦力を、潰しておきましょう。ここへ向かっているアリ中将の部隊に被害が出ないよう、徹底的にボロボロにしてから地下へ行きます」
指示が、次々と繋がる。
「ヨルハちゃんは戦艦と機動兵器を中心に。エルデは、私がマークする対象を徹底的に。制限時間は五分です」
「おお、指示がちゃんとしてるっす」
感心したように言ったエルデに、ヨルハが即座に釘を刺す。
「エルデ、それではクロ様が指示できないような反応ですよ」
一瞬の間。だが次の瞬間、三人は同時に動き出した。
この戦場は、もはや“戦闘”ではない。処理と整理の段階へと移行していた。
名簿を塗り潰すだけの作業。敵の名も、所属も、言い訳も――すべてが、ただの記録へと変わっていく。




