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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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罠と悪魔

誤字脱字修正しました。

ご連絡ありがとうございます。

 クロは、来た通路を淡々と進む。歩調は変わらない。急ぐでもなく、警戒を誇示するでもない。


 遠くから、ヨルハが暴れているのだろう振動が断続的に伝わってくる。重たい衝撃が床を揺らし、そのたびに天井の継ぎ目から、ぱらぱらと埃のようなものが降ってきた。


「アニメみたいだな」


 呟きは軽い。クロはそれを視界の端で捉え、わずかに口元を歪める。


 さらに大きな振動が響く。壁の奥から、何かが叩き潰されるような音が遅れて伝わってきた。


 クロは小さく笑う。


「ヨルハも、狩りがはかどっていそうだな」


 そのまま足を止めることなく、少し前にクチグロに案内された――最奥の区画へ。


 足を踏み入れた、その瞬間だった。


 視界が、一斉に閃く。


 パワーアーマーを着込んだ兵士たちの軍団が、正面にいた。数だけは揃っている。だが、隊列は乱れ、間隔も不揃い。互いの位置すら把握できていない。


 統率された陣形ではない。あれは――追い詰められた集団だ。


 次の瞬間、砲火が叩きつけられた。


 銃声が重なり、空気が引き裂かれる。自動火器、バズーカ、ビームランチャー様々な、火線が交錯し、視界が白く焼ける。


 狙いも照準もばらばら。弾道は乱れ、着弾点も定まらない。


 それは戦術ではなく、恐怖に押し潰されないための、必死な発砲だった。


 ただ一人に向けるには過剰すぎる火力。なりふり構わず、持てるものすべてを叩きつけている。


 だが――クロにとって、それは意味をなしていない。


「だから無駄だと……」


 クロがそう呟いた、その刹那。


 足元が、割れた。床材が悲鳴を上げるように砕け、支えを失った空間が大きく口を開ける。そこには光の届かない、深淵が覗いていた。


「は?」


 間の抜けた一言とともに、クロの身体が落ちていく。一瞬、兜がふわりと浮き上がりかけ、反射的に手で押さえた。


「っと……」


 視界が一気に急降下する。上下の感覚が反転し、砕けた床材の破片と埃が舞い、すべてが奈落の底へと吸い込まれていった。


「マジでか……いや~、まさかだったわ」


 呟きは、落下の最中でも妙に落ち着いている。驚きよりも先に、感心が滲んでいた。


「さすがに落とし穴は予想してなかった。この技術が進んだ世界で、こんな古典的な罠にかかるとはな」


 自嘲混じりの独白。だが、その声に焦りはない。


 次の瞬間。


 クロの身体は、空中で止まった。


 急停止ではない。慌ても、力みもない。


 まるで、そこに見えない床が最初から存在していたかのように、自然体のまま、静かに立ち止まる。


 落下の慣性すら、なかったかのようだった。


 クロは宙に立ったまま、周囲を見渡す。暗闇の奥へと続く縦穴。崩れた床の断面。上から、まだ銃声と叫び声が微かに届いてくる。


 肩をすくめ、小さく息を吐いた。


「いっそ、清々しいわ」


 皮肉とも、感想ともつかない一言。罠は、確かに成立した。だが――狙った相手が、あまりにも悪すぎた。


 クロは、ふと上を見上げる。


 縦穴の縁。割れた床の向こうで、こちらを覗き込むパワーアーマーと目が合った。落下を確認しに来たのだろう。その動きには、安堵と、疑念が入り混じっている。


 クロは、無言で片手を上げた。軽く、ひらひらと振ってみせる。


 次の瞬間。悲鳴が聞こえその後すぐに、大量のグレネードが、雨のように投げ込まれた。


 金属製の筒が縦穴の縁から次々と落ち、壁面に弾かれては甲高い反響音を立てながらクロの頭の上に落ちてくる。


 グレネードが跳ね、壁にぶつかり、落ちてくる。


 無数の金属音が、狭い縦穴の中で反響し、重なり合って耳を打す。本来ならそれは、死を数えるためのカウントダウンになるはずの時間。


 だがクロはそれを見下ろし、わずかに首を傾げる。


「まぁ、定番か?」


 呟きは呑気ですらある。状況に対する驚きも、焦りもない。ただ、“よくある手順”を確認しただけの声。


 だが、その直後に訪れる結果を、この上にいる者たちは、まだ想像できていない。


 グレネードの信管が、次々と作動を始め小さな電子音が反響する。


 クロは、宙に立ったまま視線を巡らせた。


「……うん。ここだな」


 独り言のような確認すると、次の瞬間――グレネードが一斉に炸裂する。


 閃光と轟音に爆圧が縦穴を満たし、炎と破片が渦を巻く。


 その中心から、クロが飛び出した。


 爆炎を背負い、煙を切り裂き、まるで地獄そのものが跳躍してくるかのように。


 それは、爆炎を纏った悪魔だった。


 床に着地する前から、パワーアーマーたちの視界は、完全に奪われている。


 視界が焼き切れ、思考も追いつかない。誰かが悲鳴を上げるより早く、“それ”が眼前に迫っていた。


「……」


 言葉を失う時間すら、与えられない。


「まだ、やる?」


 静かな問い。だが、それは選択肢ではない。


 戦うか。逃げるか。あるいは、その場で崩れ落ちるか。


 どれを選んでも、絶望しか残らないということを突きつける一言だった。


 この瞬間、改めて彼らは理解する。


 罠は、失敗したのではない。


 最初から――相手を間違えていたのだと。

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