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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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指令中枢、動く

 クロの消えた影を追うように、クチグロは仲間を伴い、別の隠し通路へと身を滑り込ませていた。クロが進んでいる正面ルートではない。非常時のみ開放される裏動線。革命派が最後に縋る、トゥキョウ基地の最深部――最深防衛区画。


 監視統括室の扉が開いた瞬間、クチグロを含め、ついてきた仲間全員が言葉を失った。正面の壁一面を占める巨大ホロディスプレイ。そこに映し出されていたのは、鎧を纏った一人の人物。彼女が進むたび、送り込まれたドローンやオートマンが次々と破壊されていく映像だった。


 ビームが弾かれ、実体弾が潰れ、機体が分断される。抵抗の余地はない。それは戦闘ではなく、映像越しでも理解できるほどの一方的な“排除”だった。


 管制卓に張り付くオペレーターたちの間に、怒号が飛び交う。


「だからもうドローンもオートマンを送っても意味がねぇって言ってんだ!ビームも銃弾も何もかも効かねぇんだ、分かれよ!最新のパワーアーマー着て向かえって言ってんだろうが!」


『ふざけるな!オートマンですら傷つけられないのにパワーアーマーの意味ねぇだろうが!』


「うるせぇ!足止めにすらなってねえから行けって言ってんだ!」


『なら俺達でも足止めできる訳ねぇだろう!考えて言え!バカが!』


 怒鳴り合う声が、金属と配線に覆われた室内に反響する。戦術卓の光が明滅し、焦りと混乱が渦巻く中で、誰もが理解していた。


 この議論自体が、もはや無駄に等しいということを。時間の浪費でしかない。今この瞬間にも、あの“何か”は迫っている。


「これは、なんだ……あいつなのか?」


 クチグロが、まるで誰に問うともなく呟く。ホロディスプレイに映る鎧の影を見据えながら、あえて言葉に出した。だが、誰も応じない。返せる言葉が見つからないのだ。それが“クロ”であることを、誰もが察していたから。


 クチグロはすぐに視線を切り替える。即座に思考を切り替え、混乱する監視統括室全体に向かって声を張り上げた。


「落ち着け!!」


 その一喝は、銃声に近い鋭さだった。場に漂っていたざわめきが、ピタリと止まる。沈黙が流れ、オペレーターたちの動きが止まり、視線が一斉にクチグロへと集まった。


 その様子に満足げに頷きつつ、クチグロは状況を掌握するために次の号令を飛ばす。


「現状報告!」


 監視統括室の中央。管制卓が階段状に配置され、一番手前には司令官席があった。そこにどっかと腰を下ろし、前方を一望できる姿勢を取る。ホロディスプレイも、各オペレーターの入力画面も視界に収めたまま、即座に命令が下せるように。


 椅子の背にもたれつつ、クチグロは掌で膝を軽く叩いた。その静かな動作に呼応するように、場の空気が徐々に落ち着きを取り戻していく。


「報告!」


 再びクチグロが発すると、今度は迅速に応答が返る。複数のオペレーターが一斉に情報を整理し、状況をクチグロに向けて叩き込むように伝えた。


「現在、突如現れたエネミーワンに対し、各種ドローンと警備ロボ、警備・軍用オートマンを展開し排除作戦を実施中です!」


 音声越しでも緊張が伝わる。だが、成果は芳しくない。


「エネミーワン。鎧を纏ってて分からねぇが……他に心当たりがねぇ。あれがクロって前提で動け。で、今どこに向かってる!」


 クチグロは忌々しそうに顔をしかめ、映像の鎧へと視線を戻す。歯を食いしばるその横顔には、怒りと焦りが滲んでいた。


「現在、作戦統合所の正面ゲート方面に進行中と推定されます!」


「なら、正面ゲートに“あれ”を向かわせろ!」


 クチグロはモニターを操作しながら、続けざまに吐き捨てるように言った。


「……ディング社の重装甲高速戦車のテスト機。ボルトテック社の新型――Bブレイク。それからフォトン社の改良型ヴェルカス。全部だ、正面ゲートに向かわせろ!」


 指を立ててひとつずつ数えながら、クチグロは矢継ぎ早に命じていく。その声は、混乱を押し切るような迫力に満ちていた。


「あと、データ取りたいメーカーがあるだろう。それも至急向かわせろ!」


 命令の語尾が響くと同時に、すかさず返答が返る。


「了解です!」


 オペレーターの声が重なり、各端末に緊急通達が次々と走る。通信ラインが光り、複数の企業チャンネルと軍用回線が同時に開かれる。クチグロの口調は粗暴だったが、その指示は混乱の中でも的確だった。


 最短経路、迎撃可能な戦力、テスト対象の兵装。それらすべてを瞬時に精査した上で、出撃準備が進行していく。


「それと――地上、地下共に防衛レベルをレッドに!全エリアに対して非常配備を発令!各部隊、戦闘準備を急げ!」


 クチグロが机越しに怒鳴るように叫ぶと、指示は次々と実行に移されていく。ホロディスプレイ上の防衛ラインが赤に染まり、対応レベルが数段階上昇。基地全体が臨戦態勢へと突入する。


 だが、その最中――一人のオペレーターが、思わず呟くように疑問を口にした。


「本気ですか……あれ一人に?」


 たった一人に対し、ここまでの戦力を?その声には戸惑いと疑念、そして恐怖が混ざっていた。


 次の瞬間、クチグロは激昂する。拳が机を叩きつけ、その重い音が室内に鋭く響き渡った。


「バカか!」


 怒声と共に、戦術卓の表示が一瞬だけ揺れたようにさえ見えた。響き渡るその一言には、苛立ちと警告、そして焦燥が込められている。


「忘れたのか!前に奴を消そうとしたが失敗した作戦のことを!」


 声は一段と強まる。クチグロの口調は荒れていたが、それは怒りだけではなかった。過去の敗北を想起し、いま目前にある脅威の“可能性”が現実となる前に、それを言葉にして捻じ伏せるような勢いだった。


「万が一――万が一を想定しろ!奴が近くに機体を置いていたら……!」


 オペレーターたちの顔がこわばる。クチグロの声は怒気だけではなく、微かな恐れと、そして――情けなく焦る部下たちへの苛立ちに震えていた。


「いくら強固なこの基地でも、無傷では済まねぇんだぞ!壊される前提で考えろ!俺たちが今まで築き上げてきた、儲けの錬金術が崩れる可能性すらあるんだぞ!」


 重く響くその言葉に、室内は沈黙した。誰もが、反論できなかった。


 この施設がただの軍事拠点ではないことを、全員が知っている。ここは“拠点”であると同時に、莫大な利権を生み出す心臓であり、企業からの出資と契約で成り立つビジネスの心臓部だった。


 この歯車が一時でも狂えば、流れる契約も、集まる資金も、一瞬で滞る。その心臓が、今、たった一人の影によって脈を乱されようとしている。


 沈黙が場を支配する中、クチグロは、わずかに息を整えると、声の調子を落として周囲を見渡した。


「大丈夫だ。奴は一人で、機体の反応はない……」


 その口調には、現状を正確に把握した者の冷静さがにじむ。


「こちらは万単位の兵。戦艦も、戦闘機も、機動兵器も唸るほどある。しかも、どれも最先端のものばかりだ」


 あいつは化け物だ――それは認める。だが、それでも、ここを落とせるわけがない。この規模、この装備、この数。戦争は“個”ではなく“力の総量”で決まる――それが現実だ。


 椅子の背にもたれつつ、ゆっくりと笑みを浮かべ、室内を見回す。


「お前ら、これで負けるとでも?」


 その言葉に、張り詰めていた空気がわずかに和らぐ。オペレーターたちの表情から緊張が抜け、室内には安堵の気配が漂い始めた。


「――わかったみてぇだな」


 クチグロは、少しだけ頷きながら続けた。


「万が一を想定はしておくが。被害が及ばないように警戒することこそ、金を守るってことだ」


 その最後の一言が、革命派らしい現実的な締め括りとなった。

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