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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
地獄の惑星。バハムートが選ぶ未来

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前線の光とティラ

【更新予定のお知らせ】


今週は1日4回更新ができそうですので、更新時間を一部変更いたします。


・本日:7時・8時・12時・18時 更新


・15日〜19日:1日4回更新

 (8時・12時・16時・20時 更新)


その後、22日からは通常通りの1日3回更新に戻ります。


少し変則的な更新となりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 ジュンは、いわばアニマルセラピー――いや、正確にはクレアセラピーを続けるうちに、ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。クレアを撫でる手つきは、さっきまでの必死さを失い、次第にゆっくりとしたリズムへ変わっていく。それに合わせるように、クレアも目を細め、喉を小さく鳴らし始めた。緊張が解けていく空気が、コックピットの中に静かに広がっていく。クロはその様子を横目で確認しつつ、ちらりとホロディスプレイに映る現在位置へ視線を走らせた。想定より余裕はない。今は、立ち止まっている時間ではなかった。


「ジュン。そのままでいいので、話の続きをします。端末はどうしたらいいですか」


 クロの声は穏やかで、必要以上に刺激しないよう配慮された調子だった。


 問いかけに、ジュンの手が一瞬だけ早まる。だが、先ほどのように感情が噴き出すことはない。深く息を吸い、落ち着いた声で応じる。


「……先ほどは、すいません。私は……」


「いいです、今は急ぎましょう。クロ様が悪いので」


 即座にクレアが割って入る。腕の中に収まりながらも、声音ははっきりしていた。


「そうっすね。ジュンは悪くないっす」


 今度はエルデが、操縦席から自然体で続けた。先ほどまで怨嗟のように吐き出された言葉を、まるで気にしていない様子でさらりと受け流し、いつもの笑顔を浮かべている。深く考えず、たいていのことは水に流す。その軽さがエルデらしかった。クレアとエルデ、どちらの擁護にも迷いはなかった。ジュンは一瞬きょとんとした顔をし、それから小さく苦笑を浮かべる。


「……ありがとうございます」


 肩に入っていた力が、ほんの少しだけ抜けたのが分かった。腕の中にいるクレアの温もりと、二人の言葉が、確かに効いていた。ジュンはクレアを撫でる手を止めずに、視線だけをクロへ向ける。


「その……別空間、というものが特に検知されることがないのであれば、いったん仕舞っておいた方がいいと思います」


「わかりました」


 クロは即座に応じ、手にしていた端末を別空間へと仕舞った。光も音もなく、端末は消える。その瞬間、ジュンのクレアを撫でる手がわずかに早まる。だが先ほどのように感情が溢れることはなく、すぐに自分で制御し、ゆっくりとした動きに戻していった。


「クロねぇ、残り一時間っす」


 エルデが現在地を確認しながら、ホロディスプレイを大きく表示する。時刻は二十一時を過ぎていた。本来であれば、規制が入り、人の流れは減り、トゥトリのように都市の明かりは段階的に落ちていく時間帯だ。だが――目の前に映るトゥキョウは、なおも煌びやかに光り輝いていた。中心部だけでなく、その周囲の街区にまで明かりが広がり、夜という時間帯を感じさせない。それは上空から見ても顕著だった。雲の切れ間から覗く世界では、疎開地が静かに闇へ沈み、都市の中心部へ近づくにつれて、ぽつり、ぽつりと明かりが増えていく。そして――そのすべてを飲み込むように、トゥキョウだけが異様なほど明るく浮かび上がっていた。さらに、その先。トゥキョウの遥か向こう側では、時折、空が一瞬だけ白く染まる。遠距離で何かが衝突し、炸裂している――戦闘の光だった。


「……前線ですかね。まだ戦闘中ですか」


 クロは断続的に走る閃光を見つめたまま、静かに問いかける。


「あそこが、今の前線なんですね」


 ジュンは小さく頷いた。だが、その声には隠しきれない怒気が滲んでいた。


「はい。あそこの地域はトゥドウです。そこは、常に最前線なんです。現在は、黄金の聖神の支配地ですが……良質なナノメタル、ティラが産出されています」


 一度、言葉を切り、唇を噛みしめる。


「そのため、利権を奪還すべく攻勢をかけては奪取し、その後、また侵略のため紛争が始まる……それを繰り返しています」


「ティラ?」


 クロが短く問い返す。ジュンは頷き、できるだけ簡潔に説明を始めた。


「テラフォーミングされた大気と大地には、環境を維持するためのナノマシンが常時増殖、稼働しています。それらは基本的に安定していますが、稀に異常増殖を起こすことがあります」


 一拍置き、要点を絞る。


「異常増殖が起きると、大地の鉱石を変質させ、自己修復機能を持つ特殊鉱石になります。採掘しても、休眠期間を置けば再生する――ほぼ無限機関に近い性質を持つ鉱石です」


 クロは短く頷き、続きを促すように視線を向けた。


「それを精製したものがティラです。軽く、頑丈で、柔軟性が高い。他の金属と組み合わせて合金化され、主に戦艦や戦闘機、機動兵器のフレームに使われています」


 クロは即座に理解した。それが争いの火種にならないはずがない。ジュンの語り口には、軍人としての知識だけではない、この争いに巻き込まれ続けてきた人間としての実感が滲んでいた。


「ちなみに、ナノマシンの異常増殖は、人や植物、人工物には影響しません。影響を受けるのは……人が住めるよう整えた大地そのものだけです」


 そう説明し終えると、ジュンは再びクレアを撫で始める。さきほどよりも落ち着いた動きで、無意識に心を整えるように。クロはその説明を静かに咀嚼しながら、視線をホロディスプレイへ戻した。だが、今はまだ深入りしない。思考をトゥキョウへと切り替える。


「ちなみに……トゥキョウの、どこに行けばいいんですかね」


 クロの問いに、ジュンはすぐ答えた。


「マルティラⅡ最大規模の軍事基地です」

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