演出の意味と実用の選択
活動報告を更新いたしました。
あらためて――皆様、本当にありがとうございます。
クロはワイヤレス給電ブースにビームソードとビームガンを預け、再びカウンターへと戻ってきた。
「……今、専用エネルギーCAPの在庫はありますか?」
そう尋ねると、ウェンが苦笑を浮かべて首を横に振る。
「ごめん、今は在庫切れ。取り寄せになるから――だいたい一週間くらい見てほしいかな」
「了解です」
クロはあっさりと頷くと、すぐに次の注文を口にした。
「では、本体と充電器セットを二個。それと、専用エネルギーCAPを五セット、お願いします」
即決ともいえる発注に、横にいたアヤコが思わず声を上げた。
「ク〜ロ〜っ! その前にさぁ! うちの支払い〜〜!」
わざとらしく肩を落とし、泣きそうな顔でアピールするアヤコに、クロは一瞬だけ小さく苦笑して答えた。
「大丈夫です。……すぐに、稼いできますので」
その言葉は、淡々としていながらも、妙な説得力と静かな決意を宿していた。
「このビームガンの名前って、何て言うんです?」
クロが視線を逸らさずに尋ねると、ウェンはニヤリと笑いながら答える。
「リボルバー。名は体を表す、ってやつだよ」
「……試射、できますか?」
少しだけ声のトーンを落として尋ねるクロに、ウェンは一拍置いてから大きく頷いた。
「いいよ。ついてきな」
軽く指を振りながら、ウェンはリボルバーを手に取り試射ブースへ向かって歩き出す。クロも無言のまま、それに続いた。
「ちょっと、無視しないでよ! クロ〜! ウェン〜!」
アヤコはぷりぷりと抗議の声を上げながら、慌ててふたりの後を追いかける。演技がかった拗ねた様子を、早足で追いつきながらも維持しようとしていた。
そんなアヤコを振り返り、クロが静かに言葉を返す。
「大丈夫です。……明日は、少し大物を狙いに行こうと思ってます。上手くいけば――ですが」
その一言に、アヤコの顔がぱっと明るくなる。
「ほんと!? なら、まあ……いっか!」
気持ちの切り替えが早いのは、アヤコの長所であり、強さでもあった。そんな彼女の素直な反応に、クロもわずかに口元を緩める。
「……コント終わった? 行くよ」
ふたりのやり取りに呆れたような声を漏らしつつ、ウェンが足を止めずに催促する。その背を見ながら、クロが歩を進める。
「今行きます。――行きますよ、お姉ちゃん」
「行く行く。……お姉ちゃんのために、いっぱい稼いできてね?」
アヤコはからかうように笑いながら、背中を押すような声をかける。その声音には、冗談半分、期待半分の気配がにじんでいた。
隣接する試射室に足を踏み入れた瞬間、クロは無意識に周囲へと意識を巡らせていた。分厚い壁に囲まれた空間。反響を吸収する内装材に、堅牢な構造。訓練用というには過剰とも言える設備。
(……なるほど。反動音と被害の拡散を抑えるため、ここまで造り込んであるのか)
淡々とそう結論づけながらも、その手はすでにビームガン――“リボルバー”を握っていた。
「いい? リボルバーの反動はけっこう強いから、まずは両手でしっかり構えて。反動を殺すように撃って」
隣でウェンが指示を飛ばす。
「わかりました」
クロは小さく頷き、言われた通りに両手で銃を構える。
「前のターゲットグラフィック、そこに撃って」
「了解です」
目標を視界に捉えたその瞬間、クロはためらいなく引き金を引いた。
――バン、と爆ぜるような破裂音。伴う反動は確かに強烈だったが、クロの身体は一切ブレなかった。
(なるほど。反動はあるが、問題ない。重さも、発射までのレスポンスも良好)
彼女は続けて数発を撃ち込んだ後、片手に持ち替えて同じように発射した。着弾精度は変わらず、姿勢にも乱れはなかった。
(扱いやすい。……ただ)
眉をわずかにひそめながら、再び引き金を引く。そのたびに鳴り響く――やけに耳に残る、破裂音。
(この音……明らかに“火薬の発砲音”を意識して作られてる。わざわざビーム兵器で、なぜ……?)
「……ウェンさん。この音、なぜ“火薬の破裂音”にしてるんですか?」
クロが首を傾げながら問いかけると、ウェンは思わず笑い出した。
「それ、それ! そこに気づくあたり、さすがクロって感じ」
少し肩をすくめて、彼女は答える。
「これ、ユニーク武器だからさ。“演出”なんだよ。性能は実用だけど、見た目も音も、徹底的にロックにしてあるの。ロマンってやつね」
クロは銃口をわずかに傾け、じっとそのフォルムを見つめる。
(……つまり、“感情”を引き出すための無駄な要素。だけど、それが“選ばれる理由”になる)
感情ではなく、理屈として――クロは静かに頷いた。
「了解しました。……演出重視、という点も設計意図として理解はできました」
クロは静かに頷きつつ、視線をリボルバーの銃口からウェンへと移した。
「ですが――その“演出”、不要です。通常の発射音に戻してください」
「えっ……味を殺しちゃうの……?」
ウェンがショックを受けたように目を丸くする。その問いかけを前に、クロは表情ひとつ動かさず、静かに続けた。
「はい。必要ありません。むしろ――可能な限り、無音に近い方が依頼の最中には望ましいです」
その口調にためらいはなかった。
「“味”は、見た目だけで十分です」
クロはきっぱりと言い切った。
「もったいないってば! あの破裂音あってこそでしょ!」
ウェンは目を丸くし、思わず声を張り上げる。
「いえ。不要です」
即答。間もためらいもなかった。
どちらも一歩も引かず、視線を交わしたまま静かな攻防が続く。
「……この、頑固者~!」
ぷいっとそっぽを向くウェンに、クロは静かに首を傾げた。
そのやりとりを横で見ていたアヤコは、苦笑まじりに肩をすくめる。
(まったく、うちの妹は……でも、こういうの――悪くないかも)
言い合いに見えて、その実どこか噛み合っている二人の姿に、アヤコは心の中で小さく笑っていた。