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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
地獄の惑星。バハムートが選ぶ未来

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迷いの森と光る導き手

【お知らせ】

12月1日・2日は更新をお休みします。


いつも『バハムート宇宙を行く』を読んでくださり、本当にありがとうございます。

少しリフレッシュをいただくため、12月1日と2日の2日間だけ、更新をお休みさせていただきます。


短い充電期間となりますが、

物語の流れをより良い形で続けるための調整時間として使わせていただきます。


次回更新は、12月3日の朝7時から再開予定です。


お待たせしてしまいますが、

引き続き楽しみにしていただければ嬉しいです。

いつも応援してくださり、本当にありがとうございます。

 場面は切り替わり――人工の森へ向かう途中のキャンピングカーの中。


 クロは別空間にそっと意識を伸ばし、まるで机の引き出しから何かを取り出すように、無造作に“導きの指輪”を取り出した。それをそのままエルデへ差し出す。


「エルデ。これを」


 エルデは反射的に掌を差し出し、クロはその上へ指輪を落とした。


「これなんっすか?」


「導きの指輪です。これを付けてないと、石板の効果で視界が歪んだ森で迷いますよ」


 クロは助手席でのんびり外を眺めながら、実に軽い調子で答える。その横顔は、危険な森へ向かっている者とは思えないほど緩やかだった。


 エルデは慌てて指輪をはめ、じとりとクロをにらむ。


「クロねぇ~。前もって言ってほしいっす」


 しかしクロは、外に流れていく景色に興味を奪われているのか、完全に聞き流していた。


「くろねぇ~……」


 エルデの文句は、虚しくキャンピングカーの車内に響くだけ。クレアは座席で静かに尻尾を揺らし、「クロ様らしい」という顔でため息をついた。


 やがて人工の森へ入ると――


 朝だというのに、木々の間はだんだんと光が弱まり、ほの暗さが強くなる。靄が地表を這い、薄白い影が漂い始めた。


 その異様な空気に、エルデは思わず息をのむ。自然に手がハンドルから離れ、キャンピングカーを止めてしまう。


「クロねぇ……これ、どうやって進むっすか……? 指輪には何も反応はないっすけど……」


 右手にはめた指輪を見つめ、心細そうに眉を寄せるエルデ。靄の奥は濃い霧のように揺れ、視界がみるみる不自然に歪んでいく。


 クロは落ち着いた声で答えた。


「大丈夫ですよ。進んでみてください。私も、指輪の効果を実際に外から見るのは初めてですが……問題ありません」


「いやいやいや、怖いっす! もう誰もいないっすから転移して行きたいっす! 頼むからクロねぇの転移で行かせてほしいっす……!」


「エルデ、しっかりしなさい。クロ様がいるのですから」


 クレアは落ち着いた声で諭したが、エルデの震えは止まらなかった。人工の森に漂う靄は、ただの霧ではない。見えない“視線”のような重さが空気を押しつぶし、キャンピングカー内部にまで染み込んでくる。


「クレアねぇも見てほしいっす! 絶対怖いっすから!」


 半泣きの声に押され、クレアは仕方なさそうに助手席へひょいと飛び乗る。クロの膝に前足をそっと置き、窓の外へ視線を向けた。


「…………なるほど。ですが視界は騙せても、匂いまでは……あれ?」


 クレアは器用に前足でボタンを押し、窓をわずかに開ける。外の空気が流れ込むと同時に、彼女の表情が困ったように歪んだ。


 匂いが、揺れている。木々の香りも、土の湿り気も、自分たちの残り香ですら、四方八方に散って渦巻いていた。


「これは……エルデの言葉通りですね。進むべき方向が、判りません」


 クレアが言うと、エルデはますます顔色を青くする。


 クロは大きく伸びをし、のんびり笑った。


「大丈夫ですよ。迷ったとしても、私がいますから。導きの指輪の効果を見たいので進んでください。それに――迷ったらその時は転移しますので」


 完全に余裕の声だった。エルデとクレアはわずかに顔を見合わせ、同時に「仕方ない」と肩を落とす。


 エルデは気を取り直し、再びハンドルを握ってゆっくりと車を進めた。


 しばらく進むと、森はさらに暗さを増し、靄はまるで来訪者を拒むように絡みついてくる。車体が霧に触れるたび、わずかな振動と冷たさが伝わり、空気は研ぎ澄まされたように静まり返った。


「クロねぇ、本当に大丈夫なんすか? これ……指輪の反応ないっすよ……いやほんと怖いっす……もう転移でいきたいっす……」


 エルデが泣きそうに言いかけたその瞬間――手にした導きの指輪が、ようやく緑色の輝きを放った。


 淡い光が指輪からこぼれ落ちるように漏れ出し、キャンピングカーの前方へ一筋の光が走る。光が地面に触れた瞬間――老人の姿が霧の中に“生成”された。


「……なんすかこれ?」


「クロ様?」


 二人の同時の視線がクロへ向けられる。


 クロはというと、興味深げに目を細め、少年のように口元を緩めた。


「見ていてください。今からあの老人が面白い事をしますよ」


 緑に輝く老人は、まるで芝居がかった動作で腰を落とし――突然、肺の底から叫んだ。


『チェストーーーーーーーーっ!』


 クロは吹き出し、クレアとエルデはぽかんと固まる。老人は続けざまに、地面へ猛烈な頭突きを叩き込んだ。


 衝撃と同時に、靄が左右に弾け――森の闇が裂けるように、一本の光の道が現れた。


 老人は何事もなかったかのように顎を引き、光の道の先を指さすと静かに歩き始めた。


「その老人についていってください。……自分で設定したとはいえ、こうして実際に動くのを見ると面白いですね」


 クロはどこか満足げに頷く。


 クレアは深いため息をつき、尻尾を半分だけ持ち上げた。


「クロ様……今の意味は?」


「ないですよ。エンターテインメントですよ。何事も楽しむことは大事ですから」


 さらりと返すクロに、エルデは即座に否定した。


「時と場合っす! 今のいらないっすよ! 何っすか? あの光る老人!」


「モーさんです。とある“偉人”をモチーフに、ちょっと遊び心を加えた仕様ですよ」


 クロは得意げに胸を張る。エルデは両手を広げて叫ぶ。


「いやいやいや! もっとまともな導き方あったはずっすよ!」


 人工の森の薄暗さの中、三人のやり取りだけが妙に賑やかに響く。その声を背に受けながら、モーさんは何事もなかったかのように黙々と光の道を歩き続けていた。


 そして――靄が薄れ、光が差し込む。そこには、隠しておいたファステップと施錠されたコンテナがひっそりと姿を現した。


「……良かったっす」


 エルデの吐いた安堵の息が、車内にふわりと広がる。胸を締めつけていた緊張が一気にほどけ、ようやく“安全圏に戻った”ことを実感した。


 こうして、人工の森ならぬ迷いの森の突破は、賑やかさと共に幕を下ろした。

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モーさん「いや何でも割るわけじゃないんですよ!?」
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