表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
二度目の目覚め
56/463

打撃武器に込めた願い

 クロは静かに口を開いた。


「打撃武器が欲しい理由は――単に、血を出したくないからです」


 一瞬、場に沈黙が落ちる。


「は……?」


「え?」


 アヤコとウェンが、ほぼ同時に声を漏らした。


 クロは微動だにせず、まっすぐに言葉を継ぐ。


「斬れば、血が出ます。けれど――殴るだけなら、骨を砕くだけで済みますし……相手も、死にません」


 淡々と語られた言葉は、冷静で、しかしどこか底知れぬものを感じさせた。


「……クロって何? バーサーカーなの?」


 ウェンがアヤコの方を振り返り、思わず確認するように問いかけた。


「…………正解」


 アヤコはわずかな間を置いてから、苦笑まじりに頷く。


「でも、それならさ。普通に伸縮式のロッドとかでよくない?」


 あくまで現実的な提案として、ウェンが続ける。


 クロはその言葉に静かに頷いた後、補足を加える。


「はい。それでも良いのですが……もう少し機能が欲しいんです」


「例えば?」


「硬化時間を変えられたり、柔軟性を調整できたり――状況に応じて、いろいろな使い方ができればと思いまして」


 その一言に、アヤコとウェンが顔を見合わせた。言葉はなくとも、その視線に宿るものは――完全に一致していた。


(ああ――これは確実に、“おもしろ案件”だ)


 次の瞬間、ウェンの瞳がさらに輝きを増す。


「でさ、具体的にはどんな使い方を想定してるの?」


 開発者としての興味が爆発しそうな勢いで問いかけてくる。


 クロは少しだけ考える素振りを見せたのち、落ち着いた声で語り出す。


「例えばですが――相手に攻撃した際、スラコンが触れた瞬間から硬化が始まって、攻撃が終わる頃には完全に固まり、動きを封じられるような仕様に」


 ウェンとアヤコの目が、同時に鋭くなる。だがそれは否定ではなく、真剣さの表れ。


「あるいは、スラコンを伸ばして、天井や壁に貼り付けて登ったり、渡ったりできれば――機動性にも活用できると思います」


「……なるほど」


 ウェンは思わず頬を押さえた。興奮を抑えきれない表情。


「それ、夢あるね……いや、ロマンあるわ。粘着型支援ギアと捕縛装備のハイブリッド……」


「実用性もあるし、遊び心も感じるし……」


 アヤコもすでに、頭の中で設計図が回り始めていた。


「ただし、条件があります。――小型であること。そして、ギルドで取り扱われているスライムカートリッジが使用できることが前提です」


 クロは淡々と、だが明確に言い切った。


「えぇ〜? なんで? 工業用のカートリッジじゃダメなの?」


 アヤコが不満げに唇を尖らせる。肩をすくめてブーイングの姿勢。


 だがその横で、ウェンがすっと目を細めた。


「……そういうことか」


 彼女は静かに頷き、納得の声を漏らす。


「ギルド製のスライムカートリッジなら、基本どのコロニーや都市にもある。補給もしやすいし、管理の手間もない。工業用は確かに高性能だけど、大容量でサイズも大きい。携帯性に欠ける」


 クロの意図を読み取ったウェンが言葉を継ぐ。


「要は――“どこでも調達できて、常に使える”ってことが大事なんだよね?」


「はい。それが、理想です」


 クロは短く頷く。


 そのやりとりに、アヤコも渋々納得したように肩を落とす。


「うーん……それは確かに便利だけどさ……技術者泣かせだよ、まったくもう!」


 文句を口にしつつも、アヤコの口元には笑みが浮かんでいた。


「それと――もう一つ条件があります。違法性のない範囲での改造に限ります」


 クロがきっぱりと付け加えると、ウェンは即座に肩を跳ねさせる。


「なにそれ!? もう新規開発しか道がないじゃん!」


 半ば叫ぶような声に、クロは小さく首を傾けて返す。


「そうなんですか? ……グレゴさんは“お父さんに言えばいい”って言ってましたけど」


「ああ……じいちゃんなら、違法スレスレくらいは余裕でやりそうなんだけどなぁ……」


 アヤコがため息まじりにこぼし、ウェンも肩をすくめて静かに息を吐く。


「ほんと残念。もし今すぐ必要なら、既存装備の改造しか手がないもんね」


「急ぎではありません。ですので――造ってみますか?」


 クロは静かに、しかし迷いのない声で提案した。


「ただ、資金はまだありません。ですから……少し先の話にはなりますが」


 その言葉に、ウェンの顔がぱっと明るくなる。


「造る! 決まりだね! アヤコ、いいでしょ?」


「もちろん! 今は設計図だけでも十分。やれるうちに、やっちゃおう!」


 二人の勢いに、クロも静かにうなずいた。


「では、お願いします。資金は貯まり次第、順次お渡しします。そこから必要な分を捻出してください」


 打ち合わせと呼ぶには、あまりにも即興で、粗削りなやり取りだった。けれど――そこには確かに、挑戦を始めたふたりの意志があった。手探りでも、未完成でもいい。今この瞬間から、彼女たちの“試行錯誤”はもう動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
開発回アガるぅー
液体金属に電流を流すことで硬化してワイヤーアンカーになったり物理武器になるSF作品があった気がします!イメージ的にターミネーター2の敵みたいな感じ?…え?これ完成したら万能つよつよ武器になるんじゃ…(…
なんか理想はスパイダーマンな気がする
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ