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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
地獄の惑星。バハムートが選ぶ未来
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創造と終焉

 バハムートは、次の技を試すために、ゆっくりと首を巡らせた。


 その瞳が新たな標的――近くの一隻を捕らえる。戦場の残響が遠のき、砲火の閃光もミサイルの残滓も、ただ静かに吸い込まれていくようだった。


 その間にも、残存するヴェルカスが勇敢にも攻撃を仕掛けてくる。だが、バハムートは微動だにしなかった。ビームが体を掠めようが、機体がぶつかろうが、まるでそよ風に当たるかのように無視して突き進む。その圧力はまるで宇宙そのものが彼に道を譲るかのようで、周囲の空間が震えた。


 フレアソードを掲げると、刀身に再び漆黒の光が走る。まるで闇が形を得たかのように、刃が淡く脈打つ。次の瞬間、刃全体を包むようにフレアが纏われた。


 ――一閃。


 真空を切り裂く閃光とともに、標的の戦艦が断ち割られる。だが、爆発もなく、先ほどと同じように崩れ落ちるだけ。光の残滓がゆらりと散り、空間に消えていった。


「おかしいな……。さっきの必殺技と同じか……」


 バハムートは小さく首を傾げ、低く呟く。声に焦りはない。あるのは、まるで実験の途中経過を記録するような淡々とした響きだけだった。


「どうも、フレアソードにフレアを纏わせても――ほとんど同じ効果にしかならないかもしれないな」


 漆黒の巨体が静かに腕を下ろす。その仕草の滑らかさに、残存する艦隊の者たちは息を呑んだ。目の前で“神”が試行錯誤をしている――それはもはや戦闘ではなく、創造の儀式に見えた。


 バハムートは今度は掌を広げ、大きなフレアを生み出す。その光は瞬く間に膨張し、三隻の戦艦を丸ごと包み込むほどに広がった。掌をゆっくりと握ると、包み込んだフレアが内側に向かって集束を始める。


 圧縮、歪曲、崩壊――。


 たった数秒で、三隻の戦艦が圧力に押し潰され、微塵となって消えた。


「これじゃ……つまらん」


 バハムートの声は、ため息にも似ていた。破壊の光景を前にしてなお、その口調は穏やかで冷静。試すことに意味はあるが、結果が同じでは退屈だ――そんな調子だった。


「う~~ん……刀身に嵐を巻き付けてみるか」


 呟くと同時に、嵐が生まれる。フレアソードの周囲に風が渦を巻き、雷が走る。まるで“嵐そのもの”が刀身に宿ったようだった。攻撃の雨が降り注ぐが、バハムートはそれを意に介さず、ただ一歩前へ踏み出す。


 次の瞬間――振り抜き。


 空間を切り裂く音が轟き、刃が触れた戦艦の船体が削り取られた。嵐が侵入し、内部構造を引き裂き、光の破片が散る。その爆発は鮮やかで、まるで宇宙の花が咲いたかのように散り散りに爆ぜた。


「これはこれで“アリ”だが……ヨルハの必殺技と被るのも良くない気がするな」


 バハムートは軽く息を吐きながら、爆光を見つめる。戦場を実験場のように歩くその姿は、畏怖と静寂を同時に生み出していた。


 そして、残った艦の中で一番奥に位置する旗艦へと視線を移す。バハムートは右手をゆっくりと掲げ、フレアソードを軽く投げ放った。刀身は光の矢のように疾り、戦艦の中心部に突き刺さる。


 次の瞬間、刀身に蓄えられたエネルギーが爆発的に放出された。光の衝撃波が広がり、艦体が一瞬で爆発する。


「……違うな」


 短く呟く。その声には、哀れみすら宿っていた。まるで“破壊の正解”を探している途中のように。


 周囲に残っていた敵艦隊は、その光景を見て沈黙した。指揮官の声も途切れ、通信は途絶える。革命を名乗る海賊たちの戦意は、旗艦の消失とともに完全に消え失せた。


 虚空に残るのは、ただ――静かに佇むバハムートの影のみ。砲火も爆発も消え失せ、戦場を支配するのは凍てついたような静寂。


 その背後で、生き残った戦艦と、バハムートにより破壊された数々の艦体や機体の残骸が、デブリとなって漂っていた。まるで子供が壊したおもちゃが散乱するように、ゆっくりと宙に舞い上がりながら、宇宙の深層へと散っていく。まるで戦いの終焉を告げる静かな祈りのように。


「アレク、どうやら終わりだ」


 低く響いた声は、虚無を貫くように確かだった。バハムートの眼差しは冷えたまま、なおも空の奥へと向けられている。


「オープンチャンネルで、まだやるかどうか確認しろ。もし戦う意思がないなら、生き残りは全員一つの戦艦に集めろ。物資と機体、それから――戦艦を二隻ほど頂く」


 淡々とした口調。だがそこには“当然の報酬”としての重みがあった。


 その言葉に、アレクが通信越しに少し間を置いて返す。


『物資や機体は分かりますが……戦艦、いりますか? 下手をすれば足枷にしかなりかねませんが』


 皮肉とも忠告ともつかない口ぶりだったが、そこにはバハムートへの遠慮も伺える。それに対して、バハムートはほんの僅かに息を吐くように呟いた。


「いや、戦艦は本来いらんが……売れないか? 宇宙ステーションあたりで」


 その場の誰でもなく、自分自身に語りかけるような口調だった。実利を重視するその思考に、アレクがすぐに返す。


『アンジュ、どうだ?』


 呼びかけられたアンジュは、間髪入れずに宇宙ステーションの市況を確認し、応答した。


『売れますね。しかも今は内戦状態ですから、フロティアンで売るより高くなる可能性はあります』


 その一言に、バハムートは小さく頷き、散り残る戦艦へと目を向けた。五隻。その全てが、もはや沈黙し、ただ暗黒の宙海をゆらゆらと漂っている。


「なら、なるべく一隻に海賊を纏めて詰め込み、残りの四隻は頂いて――売り払おう」


 声は静かだったが、決して交渉の余地は残されていなかった。


「機体も物資も、それでいいな」


 問いかけに対して、アンが冷静に応じる。


『はい。それが一番いいと思います。ただ、ブラックカンパニーで支援の幅を広げたいので戦艦一隻は保持しておきたいです。機体と兵装も、最新式ですので手元に残しておくべきだと思います』


「……なら、それでいこう」


 バハムートは即答する。既に次の行動へと思考を巡らせている様子だった。


「アレク。アンジュの案で行く。海賊どもは一隻の戦艦に詰め込んで、俺が消す」


 その声に、ためらいは微塵もなかった。まるで塵を払うように――当然の結末を告げるだけだった。

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