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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
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星獣シリーズと儀式

 最後の言葉には、にわかに空気を引き締めるような気配があった。遊びでは済まされない領域。クロはそこに境界線を引いた。


「……そこまでのものなんだね」


 ウェンは小さく身震いをしながら、呟くように言った。それに対し、クロは静かに肯定する。


「それも、“この武器たちが劣る要因”の一つです。わざわざ死ぬ覚悟で作るなんて、合理性がない。しかも、血が足りないから“一つだけ”しか作れない。……さらに言えば、今はそれすらも難しい事情があって、ほとんど造れない状態なんです」


 言葉を聞きながら、ウェンがふと問いを向ける。


「その事情って……?」


 しかし、クロはすぐに小さく首を振った。


「……申し訳ありません。答えられません。それは、置いておいて」


 表情を引き締めたまま、話を切り替える。


「せっかくなので、この世界でも“ちゃんと使えて”、なおかつ“少し面白い”――そんな武器をお見せしましょうか」


 そう言って、クロはアレクがもって帰って来た大楯を軽く手に取り、光の中へ吸い込ませるように別空間へ仕舞っていく。同時に、別の空間から新たな武器を一つずつ取り出して、調整台の上に並べ始めた。


 今度の武器たちは、これまでのような豪華絢爛な装飾は抑えられていた。だが、その分――研ぎ澄まされた機能美が、ひとつひとつに宿っていた。


 無駄を排した設計。それでいて美しく、鋭い。形状はどれも個性的だが、そこに“使うための意図”がはっきりと見えてくる。


「今回並べたのは、“面白さ全振り”ではありません。そこそこ使えて、尚且つそこそこ面白い――そういう武器や盾になります」


 クロの言葉に、スミスとウェンが興味津々といった様子で武器へと歩み寄る。二人はまるで玩具売り場の子供のように、目を輝かせて一つ一つを手に取り、質感や重さ、細工の入り方を確かめていた。


 アレクもまた、静かに調整台へと歩み寄り、一本の剣を手に取った。刃を横から眺め、剣先を光にかざし、柄の装飾を指先でなぞる。


「クロ。この剣……さっきの“慈愛剣”にちょっと似てないか?」


 スミスは手に取った剣を持ち剣先や柄を確認しつつ聞くと、クロは軽く頷いて返す。


「それは『光剣ライト』です。光ります」


「それで?」


 スミスが眉を上げて問うような口調で聞き返すと、クロはまったく悪びれず、はっきりと答えた。


「それだけです。暗いダンジョンでは、かなり有効ですよ」


 間を置いて、スミスはぽつりと呟いた。


「……ライト機能付きの剣、ね。……インテリアには、いいかもしれんな」


 妙な納得の声が漏れた。光る剣――戦場では微妙だが、飾りとしては映える。そう思うと、まんざらでもない。


(……でも、防犯用としてなら“あり”か……? いや、“なし”か……?)


 スミスの思考はぐるぐると回り始め、思いのほか真面目に“用途”を探し始めていた。


 その時、調整台の向こうで、ウェンがふと何かに気づいたように声を上げる。


「クロ。この動物が彫ってある武器たち、たくさんあるんだけど……なんか、取り付けできそうな溝があるよ? もしかして、組み合わせたりするの?」


 その問いに、クロの目がぱっと輝いた。


「そこに気づくとは、さすがですね。……それらは『星獣シリーズ』といって、私の星の“星座”をモチーフにした、合体武器です」


「合体武器……? 一つの大きな武器になるってこと?」


「はい。たとえば、今ウェンが手にしているその槌――『星獣シュッツタートル』は、叩きつけた後、同じ場所に“もう一度”同じ衝撃を与える効果があります」


「えっ、二発目が遅れて来るってこと?」


「そうです。“衝撃が残る”と言った方が近いかもしれません」


 ウェンは改めて槌を見下ろす。金属の鈍い質感に沿って、甲羅を背負った亀が細かく彫り込まれている。中央には、明らかに何かを接続できそうな溝――連結部が丁寧に刻まれていた。


 クロはその様子を見ながら、さらに説明を続ける。


「星獣シリーズは、全部で五つ。槌、大弓、シールドバンカー、双剣、大槍――それらをすべて組み合わせることで、“星獣バスター”が完成します」


 スミスとアレクが同時に顔を上げた。


「バスター……?」


 クロは満足げに頷いた。


「はい。五つの武器の特性を統合し、合体後は形状が変化します。名前通り、“一撃必殺”を担えるレベルの出力を誇りますが……ただし、合体には専用の儀式とトリガーが必要です。簡単には使えません」


「……またクセが強そうな……」


 スミスがぼそりと、まるで感想とも皮肉ともつかない声を漏らす。その横で、ウェンが楽しげに肩を揺らした。


「儀式自体は単純なんですよ。ただ、全員が所定の位置について、ポーズを決めて――“技名”を揃って叫ばないと発動しないっていうのが難点でして」


 クロが少しだけ肩を竦めながらも、楽しそうに説明を続けた。


「五人必要ですし、恥ずかしさに耐える精神力も必要ですね。でも、その見返りとしての威力は絶大です。山に、風穴が開くぐらいの」


「……代償と威力が、まるで釣り合ってねぇな」


 スミスが呆れ半分で笑いながら、星獣シリーズの中から双剣を一振り手に取る。その刃には、繊細な羽模様が彫り込まれ、中央には翼を広げた鳥のエンブレムが刻まれていた。


 スミスが左右の剣を合わせると、磁力でもあるかのようにカチリと音を立てて接合し、一本の大剣へと変わる。刃の根元には鳥の顔、翼のように広がる鍔が両脇に伸び、まさに一羽の鳥が剣となったかのような意匠だった。


「それは『星獣ソングバード』。二刀でも、大剣としてでも使用可能です」


 クロは誇らしげに語る。


「二刀時は、斬撃と同時に歌のような共鳴音を発して、風の刃を纏わせます。斬れ味が増す上に、振るうたびに追撃効果が乗る仕様です」


「……んで、大剣にした場合は?」


「振るうと、風の刃が飛びます。音と風圧が重なり、射程も意外と広めです」


 クロがさらりと説明すると、スミスは剣を構え直して重さを確かめるように振ってみる。


「……正直、合体させずに二刀で使った方が実用的な気もするな」


 その率直な感想に、クロは苦笑しつつも肩を竦めた。


「まあ、“見た目のロマン”と“使いやすさ”のせめぎ合いですね。コンセプト的には、どちらでも“様になる”ように調整したつもりなんですが……やっぱりロマン寄りかもですね」

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