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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
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フレアの檻と痛みの代償

 バハムートの拳が、再びカクトガの腹部にめり込んだ。拳の形のまま肉を押しつぶすように沈み込むと、カクトガの身体が大きくのけ反る。


 だが――そのまま上体を引き起こし、両腕を高く掲げて交差させると、振り下ろすようにバハムートの頭部へ叩きつけた。激突音と共に、バハムートの顔が沈む。


 その隙を逃さず、カクトガは跳躍――鋭く折れ曲がる膝を、沈んだ頭部めがけて叩き込んだ。だが――次の瞬間、響いたのはカクトガの悲鳴にも似た“打撃音”。


「ガヂャッ!!」


 膝がめり込んだバハムートの顔面は、まるで衝撃を吸収するように沈黙を保っていた。逆に返す一撃のように、バハムートの角がカクトガの両腕に突き刺さり、腹部は拳によって変形し、膝には明らかな裂傷が浮かぶ。


「……まずい」


 カクトガが小さく呻いた刹那――バハムートの顔が、ゆっくりと持ち上がる。その顔面からはマスクが外れ、むき出しの口元には、食いちぎったと思しき肉片が血糊と共にこびりついていた。


 だが、バハムートもまた無傷ではない。振り下ろした両腕の動きに合わせるように、背中――ちょうど肩甲骨の間に、カクトガの鎌が突き刺さっていた。


 刃がめり込み、斜めに引き裂かれた背面の裂傷から、濃い血があふれ出す。


 バハムートは咆哮と共に、翼を大きく広げた。


 瞬間、まばゆい閃光と共に放たれるレイン・フレア。幾筋もの漆黒の破壊光線が迸り、カクトガを焼き払わんと襲いかかる。


 だが――カクトガの背から、羽根が一斉に羽ばたく。そこから舞い散る鱗粉のような微粒子が空間に漂い、宙で光の粒子へと変換されていく。


 粒子は磁場のようにカクトガの前面へと引き寄せられ、即座に半透明の光の盾を形成。バハムートのレイン・フレアを、ことごとく受け止め、拡散し、無効化した。


 やがて光の幕がゆっくりと霧散すると、カクトガの姿はそこにはなかった。


「……!?」


 背後――


 カクトガはバハムートの背後に回り込み、両手の鎌を大きく広げ、翼を狙って振り下ろす。


 だが、その動きを見切っていたかのように、バハムートの尾が閃いた。流れるような反撃。尾がしなる鞭のように高速で振るわれ、カクトガの胴体を横から強打する。


 鈍い打撃音。体勢を崩したカクトガはそのまま斜めに回転しながら後退。


 その隙に、バハムートも距離を取る。翼を畳み、ゆっくりと後退しながら、正対する位置へと戻る。


 互いに呼吸はない――だが、確かに空気が、張り詰めていた。無音の宙域に、ただ殺気と熱だけが漂う。


「いいよ、いい。流石は“神のおもちゃ”。すぐに再生するし、しぶといな」


 静かに呟くと、バハムートの両腕に嵐が纏われる。青白い風が唸り、粒子が拳に凝縮される。


「ダブル! シュツルム・ナッコゥッ!!」


 叫びと共に、双拳から破壊の嵐が解き放たれる。だがその一撃を、カクトガはまるで時間の隙間に滑り込むように、難なく躱した。


 すぐさま反撃――両腕の鎌を、ブーメランのように投げ放つ。回転する刃が宇宙を切り裂き、バハムートへ向かう。バハムートはそれを両腕で掴んだが、無防備になった腹部へ――カクトガの拳が突き刺さる。


 内部に響いた、久しく忘れていた“痛み”。


(……忘れていたな。これが、痛みだ)


 バハムートは鎌を握り砕く。そのままカクトガの顔面に、両拳を左右から挟み込むように叩き込むと、連打が止まる。


 好機と見て、両腕を掴み、左右に引き裂く。脇の付け根から一気に腕をもぎ取り、胴体へ跳び蹴りを放つ。圧力で吹き飛ばされたカクトガは、爆発するように宙を滑った。


 その瞬間、クロの端末に連絡が入る。


『そろそろアレクさん達の手入れが終わるっす』


 その文面を見て、バハムートは戦闘中にも関わらず冷静に呟いた。


「ヨルハ、そろそろトドメだ。アレクたちの方が先に終わりそうだ」


「承知しました!!」


 即座に応えるヨルハの声を背に、バハムートは再生中のカクトガを見据える。


「名残惜しいが、そろそろお別れだ」


 両手にフレアを収束させ、カクトガとは逆方向に放る。そして、さらにもう一発、また一発と。


 やがて空間に幾重にも展開された“フレア”が、カクトガの周囲を包囲する。


 カクトガが異変に気づいた時にはもう遅い。自らの周囲を取り囲むように展開されたそれらは、やがて連結し、まるで“巨大なシャボン玉”のような球体を形成していた。逃げようと羽ばたいた瞬間、外周のフレアが緩やかに収束を始める。


 バハムートは左手をゆっくりと掲げ、開いた掌を徐々に閉じていく。


 同時に、フレアの檻が縮まり始める。カクトガは羽根を振るわせ、鱗粉を散布して防御を展開するが――すでに閉じ込められていた。


 身動きが取れぬその怪物に向かって、バハムートは宣言する。


「……本当に久しぶりに“痛み”を思い出した。その代償、払ってもらう」


 右腕をゆっくりと引き、掌底を構える。そして、力を籠めたその瞬間――空間が軋み、バハムートは翼を羽ばたかせ、一気に接近する。


 解き放たれたその一撃が、フレアの檻を突き破り、カクトガの胸部へと叩き込まれた。


 次の瞬間、内部で爆発的な咆哮のような衝撃。それはもはや“衝撃”ではなく、“地震”だった。


 そして、再生機能が追いつかない速度で、身体が崩れていく。


 残るは、左手。閉じかけていた左手が一気に握りしめられると同時に、巨大なシャボン玉のような檻が一気に収束。


 閃光と共に、カクトガの存在そのものを呑み込み、消滅させた。


「……技名か。ま、考えるのはあとでいいか」


 バハムートはすでにカクトガの存在をどうでもいいものとして、静かに新たな技名に思案を巡らせていた。

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