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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
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人型モード完成とその美

 アヤコは端末を操作しながら、次の指示を送る。


「エルデ、次は人型だよ。視点が一気に変わるし、振動もさっきの比じゃないから注意して」


『わかったっす! ……アヤコの姉さん!』


 勢い込んでそう呼んだエルデに、アヤコは思わず吹き出しそうになりつつも微笑んだ。


「私も“アヤコねぇ”でいいよ」


 軽く手を振って機体から距離を取り、安全圏まで下がる。その背を見送りながら、エルデは胸の奥に熱を込め、甲板中に届くほど大きな声で叫んだ。


『アヤコねぇ、やるっすよ!!』


 宣言と同時に、飛行形態の巨体が軋むような駆動音を響かせ、変形を開始した。左右に広がっていた大翼が折りたたまれ、メインスラスター部分だけが残って形を小さくする。


 続いて、収納されていた脚部がせり上がり、甲板に残されたタイヤユニットから独立して展開する。金属の接合部が噛み合うたびに、空気が震えるような重低音が響いた。


 脚部が完全に形を成すと同時に、ノーズ部分が内側に沈み込み、胸部へと折りたたまれる。その下、腹部装甲の中央に量子ビームキャノンのスリットが覗いた。装甲の隙間からわずかに赤い光が脈打ち、今にもエネルギーが解放されるかのような圧を放つ。


 さらに、上半身のフレームが大きく回転し、腰部と連結する。肩の上に配置されていたスラスターは音を立ててスライドし、背面へと位置を移した。最後に、独立していたタイヤユニットがスライドしながら太腿部の後方へと収納される。


『――完成っす!!』


 歓喜に弾けるエルデの声が響き渡った。


 だが、クロは思わず瞬きを繰り返し、信じられないものを見るように口を開く。


「……後ろを向いてますが?」


 指を差し示すクロに、シゲルは肩を揺らし、豪快に笑った。


「ははっ、腰の位置的にどうしてもな。理屈の上でこれが限界だった」


 そう言いながら、ちらりとクロへ視線を送る。


「だからよ、変形のタイミングは間違えるなよ。戦場で正面を向いてると思ってたら後ろ向き、なんて事態になったら洒落にならん」


「……それは、エルデにちゃんと伝えてあげてください」


 クロの冷静な突っ込みに、機体の中から「ひぇっ」と短い声が返る。甲板には思わず笑いが広がり、緊張が少し和らいだ。


 だが、その巨体は確かに“人型”として堂々と立ち上がっていた。


「エルデ、コックピットの具合はどう? 一応、必ず正面を向くように可動式になってるけど」


 アヤコの声に、返ってきた答えは弾むように明るい。


『大丈夫っす! ちゃんと機能してるっすよ!』


 その声にアヤコは胸を撫で下ろし、さらに指示を飛ばす。


「じゃあ――こっちを向いて。正面の姿を見せて」


『了解っす!』


 返事と同時に、巨大な両脚が重々しい駆動音を響かせて動き、滑らかな動作でクロたちの方へと向き直った。甲板の鉄板がきしむほどの重圧が伝わってくる。


 そして、ようやくその“顔”が正面から露わになった瞬間、クロは思わず目を見開いた。


「……モノアイ、なんですね」


 バイザーの奥、光を帯びて輝く一つの眼。鋭い光芒が暗い内部を貫き、見る者の心を射抜くように存在感を放っている。その印象は確かにモノアイと呼ぶにふさわしいものだった。


 しかし、シゲルはすぐに否定する。


「いや、複眼だぞ。モノアイに見える部分――あれは複合センサーだ。カメラ自体は全身に隠して配置してある。でなきゃ全周囲モニターなんざ成り立たねぇ」


 説明に合わせてシゲルが指を突き出すと、複数の小さな発光部やパネルの縁がわずかに瞬いた。まるで無数の瞳がこちらを見据えているようで、クレアは肩を震わせて思わず耳をぴんと立てる。


 クロは唇を引き結び、バイザー越しに輝く光を見据えた。モノアイのようでありながら、それ以上の情報量を抱えた“眼”。それはただの兵器のセンサーではなく、意思を持つ存在のようにすら感じられた。


 頭部は黒を基調に鋭いラインで構築され、額から頭頂部にかけて走るオレンジのラインは、まるで闇夜を裂く稲光のように輝いていた。頬の段差は岩肌を削った跡のように力強く、顎は刃を思わせる硬質さでまとめられている。その中心に光るモノアイが、冷ややかに世界を射抜いていた。


 全体は黒を基調としながら、要所に差し込まれたオレンジが猛禽の鋭さを思わせ、まるで闇を切り裂く閃光のような印象を与えていた。光るモノアイはその中心で冷たく輝き、見る者の胸に言い知れぬ緊張を走らせる。


 クロの瞳の奥にきらめく光を見て、クレアの耳が小さく震えた。尻尾も落ち着かずに左右へ揺れ、驚きと緊張、そしてほんのわずかな期待が混じった感情が仕草に表れる。


(……間違いなくクロ様のお気に入りですね。ふふ、きっとまた――名前を巡って一悶着ありそうです)


 未来を予見するように心の中で呟き、クレアは小さくため息をこぼした。

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