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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
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選択の果てに

 そしてクロが導き出した結論は、静かな一言だった。


「毎度あり。ウルフとオプションに、フォトン社のビームガンとビームソードだな」


 スミスはカウンター越しに薄く微笑み、ウェンは子どものように満面の笑みを浮かべる。


「さすがだね! ウルフとオプションの思考制御装置に、専用収納ボックスは大体一週間以内に入荷予定だよ。届いたらすぐに連絡する」


「連絡はエルデにお願いします。取りに行かせますので。では、ビームガンとビームソードは持ち帰ります。私の装備のメンテナンスは、どのくらいかかります?」


 クロは支払いを終え、してやったり顔を隠そうともしないウェンに、わずかに苦々しげな声音で尋ねた。


「二日もあれば仕上げておく」


 スミスが代わりに淡々と答える。その声には職人らしい自信が滲んでいた。


 そして視線をウェンに移し、短く命じる。


「ウェン。お前は試作品を仕上げろ。いいか、クロの言ったことはすべて反映できるよう努力してみろ」


「わかった! じゃあ私は工房に戻るよ。またね、クロ、クレア、エルデ!」


 軽快な声を残し、ウェンはカウンターの奥へ一目散に駆けていった。


 ――と思いきや、すぐに戻ってくる。


「ちょっと待って! なんで父さんが、クレアが喋るのを知ってたの!」


「今更ですか……」


 クロの呆れ声に、場の空気が一気に崩れる。小さな爆発のように笑いが起こり、ロック・ボムでの賑やかでひと悶着あった買い物は幕を閉じた。


 その余韻を胸に抱いたまま、クロたちは夜を迎える。


 食事を終え、のんびりとした時間の中でシゲルが口を開いた。


「とりあえず軽く、いくつか候補の組み合わせを作ってみた。片手間だから粗は多いがな」


 テーブルの横で稼働していたモニターには、さきほどまでエアバイクバトルが映し出されていた。派手に吹き飛ぶバイクの映像が一瞬残像を残すが、シゲルはそれを容赦なく閉じ、代わりにいくつもの組み合わせ案を映し出す。


 アヤコはすかさず茶々を入れた。


「じいちゃん……推してる選手が失格したからって、消さなくてもいいでしょ」


「ちげぇ! そんな子どもじみた理由じゃねぇよ!」


 声を荒げたものの、僅かに焦りが滲む。


 アヤコがニヤリと笑う中、シゲルは咳払いをして話題を強引に戻した。


「とにかく、見ろ」


 そうしてモニターに映し出されたのは、膨大な数の組み合わせ案だった。片手間と言いながら、その数は20機近く。思いつきの域を超えた緻密さに、クロは驚きに眉をわずかに上げ、クレアは小さく尻尾を揺らして目を瞬かせる。エルデも口を半開きにして息を呑んだ。画面を埋め尽くす機体の姿に、三人の視線が釘付けになる。


 だが、アヤコは違う反応を見せた。


「さすがだね、じいちゃん。……でも、私もいくつか考えてみたんだよね」


 そう言い、パジャマのポケットから端末を取り出し、空中に投影する。そこに浮かび上がったのは10機ほどのパターン。


「う~ん、悔しいけどかぶってるなぁ」


 アヤコは笑いながら肩をすくめ、どこか楽しげに言う。


「いや、微妙に違う。比べてみるのも面白いぞ」


 シゲルはビールを片手に、愉快そうに並んだ映像を見比べていく。


 クロは二人の仕事の速さに驚き、思わず眉を上げた。映像を繰る指先の速さと、画面に並ぶ案の多さ。その中には要望を正確に反映したものもあれば、思わず口元が緩むほど奇抜なものもあった。


「これらはすべて、私の要求を兼ねそろえているんですか?」


 クロの問いかけに、シゲルが頷く。


「そうだ。だが、中には面白さに全振りしたのもある。結局はこれらをさらに組み合わせて、最適解を導き出すって寸法よ」


 そう言って、漬物をかじりながらまた一口ビールをあおる。


 一方でアヤコは肩をすくめ、別の視点を示した。


「私はね、要望を軸にしつつ、そこからさらに踏み込んだものを出したつもり。……この中からベースを選んで、さらにブラッシュアップしていく算段だよ」


 親子でアプローチの方向性が違うことに、クロは静かに頷いた。


「私はそこまで多くの可能性はないと思っていましたが……意外とあるものですね」


 戦場に立つ者としては選択肢の多さを歓迎すべきなのだろう。だが同時に、その分だけ最適解を見極める難しさも増す。――だからこそ、自らが選び抜く責任がある。クロはその重さを胸の奥で静かに受け止めた。


「コスト面が無制限なら、さらに広がるがな」


 シゲルは苦笑混じりに言い、間を置いて続ける。


「だが――面白くない。決められた予算の中で、求められた以上のものを作り出せたときの快感は忘れられねぇ」


 その言葉には、長年の経験を背負った者だけが持つ確信が宿っていた。アヤコも小さく笑みを返し、クロは二人の横顔を見ながら、静かにその重みを噛みしめていた。

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