表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
二度目の目覚め
40/463

猛獣の逆鱗と武器選び

 クロは、階段を降りて一階の受付へと向かう。カウンターの奥では、大柄な体に似合わぬ手つきでデータを整理するグレゴの姿があった。


 降りてきた気配に気づいたのか、彼は顔だけをこちらに向ける。


「……猛獣」


 一言。それだけで、場の空気がぴんと張りつめる。


 グレゴの頬が、わずかに引きつった。


「死にたいのか、クロ」


 その声音には、低く押し殺した怒気が滲んでいた。どうやら、あの呼び名は――彼の逆鱗らしい。


 クロは、すぐに判断を切り替える。


「依頼を受けました。スライムタッカーを貸してください」


 しかし、グレゴは手元の書類に目を落としたまま、無言で首を横に振った。


「嫌だ。その前に、言うことがあるだろう」


 少しだけ呆れをにじませたその声に、クロはわずかに瞬きを返す。


「……ごめんなさい」


 素直な謝罪。それを受けて、グレゴは深く溜息をついた。


 やれやれ――そんな仕草を見せながら、彼はようやく端末を操作し、装備リストをクロの前に表示した。


「どれがいい? おすすめは小型の奴だ。軽くて扱いやすいが――スライムの容量が少ない。追加でカートリッジが必要になる」


 グレゴは端末を操作しながら、いくつかの機種を表示させていく。


「今回は借りられるんですよね?」


 クロの問いに、彼は小さくうなずいた。


「ああ、そうだ。……まさか、お前――」


「はい。それぞれ一種類ずつ、貸してください。それでどれが合うか決めます」


 真顔のまま告げたクロに、グレゴは机を叩きそうになるのをぐっと堪えた。


「遊びじゃない! ダメだ!」


 その叫びには、職務に対する真剣さと、どこか呆れの入り混じった怒気が込められていた。


 だが、クロはまったく動じない。


「では、小型で。カートリッジ一本で、何人まで拘束できますか?」


 唐突に現実的な質問が飛び出し、グレゴはわずかに眉を寄せた。


「……疲れる。一本で、大体7~10人だな」


「そうですか。では、念のため予備を五本、お願いします」


 即断即決。感情の起伏のなさが、逆にプレッシャーを生んでいた。


「……わかった。用意する。お前、優秀なんだが……ほんと、疲れる」


 小さく呟きながら、グレゴは端末に手を伸ばし、いくつかの操作を行う。しばらくすると、奥のドアから職員が現れ、小ぶりな箱を両手で抱えてクロの前に置いた。


「いいか、壊すなよ。壊したら買取だ。今回、カートリッジは依頼人持ちだから、金は要らん」


「買うと、いくらですか?」


 クロの問いに、グレゴはわずかに口角を上げる。


「15万Cだ。……買うか?」


 数秒の沈黙が流れる。クロは真剣な面持ちで思案したあと、首を横に振った。


「……いえ、今回は見送ります」


「ちっ……わかった」


 舌打ちまじりにそう返しつつ、グレゴは内心でため息をついた。少しばかり期待していたのだ。だが――どうせ一度使えば、いずれ買うことになる。そう確信しながら、彼は再び端末に目を戻した。


「一応、カタログを送っておく。欲しくなったら買え」


「わかりました。では、行ってきます」


 クロはスライムタッカーを丁寧に受け取り、ビームガンとは逆側――ジャケットの内側ホルダーへと装着する。カートリッジは数本、無造作にポケットへと滑り込ませた。


「いいか。無茶はするな」


 その一言に、クロは無言のまま小さく頭を下げ、受付を後にする。足取りは軽やかだが、どこか浮世離れした雰囲気をまとっていた。


 その背中を見送りながら、先ほど装備を持ってきた職員が、ふと不安そうに呟いた。


「あの子……大丈夫なんですか?」


 だが、その問いとは対照的に、グレゴの表情は落ち着いていた。眉一つ動かさず、淡々と答える。


「問題ない。面倒で、常識もない奴だが――もう、この依頼は終わったようなもんだ」


 その言葉には、数日しか関わっていない少女に対する、揺るぎない信頼が滲んでいた。


「なんせ、シゲの子だ。安心して待てる」


「ならいいんですけど……迷子にならないか、ちょっと心配で」


 ぽつりと漏れた言葉に、グレゴは一瞬きょとんとした表情を浮かべ――そして、腹の底から笑い出した。


「……それは、確かに心配だ。迷子センターから連絡があるかもしれんぞ」


 その笑いは、どこか嬉しそうで、優しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ