試射評価と適性の現実
エルデは、スミスから手渡されたスナイパービームガンをそっと両手で受け取り、まるで壊れ物でも扱うかのように慎重な動作で抱えた。重量を確かめるように手のひらでバランスを測りながら、彼女は試すようにそのまま構えを取る。スコープの位置、トリガーの感触、銃床の当たり――そのすべてを、真剣な眼差しで確認していた。
そんなエルデの動きを、スミスは黙って観察していたが、やがて短く言葉を挟んだ。
「ストックは、肩の少し下。高すぎても低すぎても安定しねぇ」
「は、はいっす!」
言われた通り、エルデは構えを調整する。ぎこちなくも、彼女なりに忠実に再現しようとする様子が伝わってくる。
続けてスミスがもう一つ指示を出す。
「それと――スコープを見るときは、両目で確認しながらだ」
「えっ? 両目っすか?」
エルデが一瞬戸惑った顔で振り返る。だが、スミスは苦笑しながら小さく首を振った。
「……いや、片目だけでいい。混乱させたな」
一拍置いて、今度は静かな声で補足する。
「だがな、スコープを片目だけで覗いてると、視野が狭くなりすぎる。集中しすぎて、周囲の変化に気づけなくなるんだよ。……スナイパーってのは、“撃つまでに何が見えてたか”で決まる。撃ち方より、“視る力”だ」
「……なるほどっす……」
真剣な表情で頷きながら、エルデはそっと息を整える。そして改めて、スナイパービームガンを両手で構え直した。肩のラインに合わせて、エルデはそっと銃床を押し当てる。頬を寄せ、スコープを覗き込む――その所作はまだ拙く、わずかにぎこちなさを残していたが、先ほどまでの“ただ撃つ”だけの動きとは、明らかに違っていた。
視界の中で、ターゲットが照準の中央に浮かび上がる。
エルデは深く一度、息を吐いた。そして、静かに、まるで空気ごと凍らせるかのように――呼吸を止める。指先が、緊張の中でほんのわずかに動いた。
パシュッ。
音とともに、青白い閃光が真っ直ぐに放たれ、的へと吸い込まれていく。その直後、エルデは再び息を吐き、小さく吸って整えると――再び、トリガーを引いた。
吐く、止める、撃つ、吸う。まるで呼吸そのものを弾に変えるかのように、彼女の射撃は静かなリズムを刻んでいく。
一発。
二発。
三発――
過剰な力みは、ない。声も、動きも、過剰な反応もない。ただ、エルデの世界の中で、照準と引き金だけが意味を持っていた。
試射終了の合図とともに、照準データがモニターに反映されていく。その表示を一瞥したスミスが、淡々とした口調で数字を読み上げた。
「……六割か」
スミスは、端末に映る命中データをざっと確認すると、わずかに眉をひそめて静かに呟いた。
その言葉を聞いた瞬間、エルデはスナイパービームガンをそっと下ろし、がっくりと肩を落とす。
「やっぱり……ダメっすか……」
声は小さく、悔しさと情けなさを押し殺したような響きがあった。
そんな彼女に、クロが静かに言葉を投げかける。
「六割って、十分すごいと思いますけど?」
実際、前回の四割からは明らかに改善している。集中の度合いも、姿勢も、撃ち方も確実に成長していた。
だが、スミスはその言葉を首を振って否定する。
「照準補助装置付きで六割は――よくはねぇ」
淡々とした口調ではあったが、その言葉は明確に“評価ではない”という色を帯びていた。
そして、視線をエルデに戻し、釘を刺すように言い放つ。
「だから、最初に言っただろ。たしかに“支援役”という立場から見れば、スナイパーは理にかなっている。だが――お前には合わねぇ」
「でも……」
エルデはしょんぼりと視線を落としながら、それでもぽつりと訴える。
「クロねぇやクレアねぇのサポートをしたいっす……前に出るより、遠くから撃った方が……」
その言葉には、ただの選択ではなく、“自分なりの覚悟”が滲んでいた。
スミスはその気持ちを否定はしなかった。だが、技術者としての現実を、あくまで冷静に告げる。
「気持ちはわかる。だがな――合わねぇ武器を無理に使えば、いざってときに命取りになる」
そして、表情を変えぬまま、言葉を続ける。
「練習次第で多少は伸びるだろうが、補助装置付きでこの結果じゃ――正直、期待はできねぇ」
その厳しい言葉に、エルデの背がほんのわずかに縮こまる。