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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
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試射指導とスナイパーキットの導入

 試射場のターゲットが自動制御で設置され、数秒の静寂を挟んで、射撃の合図が鳴る。


 それを受けて、エルデがビームガンを構えた。


 緊張に唇を引き結びながら、彼女は息を止める。重たげな空気を纏うように、一歩前へ出て――


「行きますっ!」


 その掛け声とともに、試射が始まった。


 エルデの指がトリガーを引くたび、短く鋭い発射音が室内に響く。青白い光条が一直線にターゲットを狙うが――


 結果は、明白だった。


 射撃終了と同時に、モニターにリアルタイムでデータが表示される。スミスがその表示をざっと確認すると、無表情のまま短く言い放った。


「命中率、四割だな」


「ううっ……申し訳ないっす……!」


 項垂れながら答えるエルデの声には、明確な悔しさと情けなさが滲んでいる。だがスミスは容赦なく、次の指摘を重ねる。


「まず――撃つときに、片目を閉じるのをやめろ。距離感と視界が狂う」


「はいっす……」


「それと――撃つたびに声を上げるな。いちいち反応するたびに体勢が崩れる。次の行動が遅れるだけだ」


 矢継ぎ早に投げかけられる指導に、エルデは真剣な面持ちで耳を傾ける。姿勢を正し、まっすぐスミスを見据えていた。


「お前は、狙いすぎだ。狙いに入るまでが長すぎて、撃つ前に迷っている。そういう奴は、“当てにいく”より“感覚で撃つ”ほうが合ってる」


「か、感覚っすか……?」


「そうだ。今の撃ち方は、お前には合ってねぇ。もっと、体の感覚を信じろ」


 そして、最後に――スミスはじっとエルデの構えを見つめ、短く言い放つ。


「それからそのへっぴり腰、やめろ。腰が引けてるせいで、銃口が安定しねぇ。好きな姿勢で撃つのはいい。だが“下がるための構え”は戦場じゃ死を意味する」


 言葉に鋭さはあるが、怒気はない。そこにあったのは、“教える者”としての厳しさ、そして“生き残ってほしい”という願いだった。


 エルデは深く頷きながら、小さく拳を握る。


「わかりましたっす……! 次は、ちゃんとやってみせます……!」


 その言葉の端に、わずかな震えが混じっていた。だが、それは恐れでも、怯えでもない。自分の甘さを認め、それでも前を向こうとする“覚悟の揺れ”だった。


 クロはそっと視線を送る。迷いながら、叱られながらも、それでも真っ直ぐに立ち上がろうとするエルデの横顔に、静かな温もりが胸の奥に滲んでいくのを感じていた。


 やがて、新たなターゲットが試射台に設置される。


 エルデは再び立ち上がり、肩で息を整えながら構えを取った。今度は指摘された点を修正しようと意識しているようで、目元の力みも、腰の引けも、先ほどよりはいくらか改善されていた。だが――結果は、決して十分とは言えなかった。


「……それでも、命中率は六割か」


 スミスが端末を操作し、淡々と数値を読み上げる。


「ううっ……が、頑張ったんですけど……」


 エルデが肩をすくめながら視線を落とすと、スミスはため息ひとつ。そして、無言で彼女の手からビームガンを受け取った。


「少し見せろ」


 言葉少なにそう言うと、スミスは傍らに置かれていた収納ケースを開く。そこには、分解された状態のスナイパーキットが丁寧に納められていた。


 彼は無駄のない動きでパーツを取り出すと、長めの銃身をビームガンへと接続し始めた。スコープ、照準補助装置、安定性を高めるリアストック――


 その手際はあまりに流麗で、無駄が一切ない。


 部品が一つずつ、まるで“決まっていた場所に帰る”かのように、静かに収まっていく様子に、エルデはぽかんと口を開けたまま見入っていた。


「……す、すごいっす。なにこれ……」


「さすがですね……」


 エルデがぽつりと呟き、クロもその動きに感嘆の息を漏らす。スミスは一度も言葉を返さず、組み立てに集中したまま作業を続けていた。


 一方――クレアはクロの肩の上で、少し退屈そうに顎を乗せ、興味なさげに目線をそらしている。そしてウェンはと言えば――父の作業を、目を凝らして見つめていた。まるで一つも見逃すまいとするかのように、構造の変化を観察し、時折、端末に素早くメモを書き込んでいく。


 その様子は、技術者としての矜持と、娘としての誇りを内に秘めているようでもあった。


 やがて最後のパーツが固定される。


 元はただの汎用ビームガンだった機体が、今や全長を延ばし、冷却ユニットと光学スコープを備えた“スナイパービームガン”へと変貌していた。


 スミスは完成したそれを静かにエルデへと差し出す。そして、短く一言だけ付け加えた。


「――これで撃ってみろ」


 その声には、技術者としての期待と、導こうとする者の責任が、静かに込められていた。

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