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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
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変形の発想

 二階に消えていくクレアとエルデを見送ったのち、クロはひと息ついて正面へと視線を戻す。そこでは、待ちかねた様子のアヤコとシゲルが「さあ早く話せ」と言わんばかりに目を光らせていた。


 やれやれ、と肩をすくめながらクロは端末を取り出し、軽く操作する。グレゴから送られてきたカタログデータを呼び出し、テーブル上に投影した。


「まずは基礎フレームです。変形機構に対応したフレームになります。えっと……これですね」


 グレゴのメモに記された型番を入力すると、立体映像がふわりと浮かび上がる。骨格を形作る各部が光のラインで描かれ、関節部には球状の可動ユニットが複数配置されていた。


「このフレームは、関節や骨格部の一部に可変ジョイントとしてボールジョイントを採用していて……」


 言いかけたところで、クロは思わず首を傾げる。投影映像のジョイント部分が滑らかに回転し、複数の軸へ自在に切り替わる動きを見せていたからだ。


「……どういう原理なんでしょう、これ?」


 クロの素直な疑問に、テーブルを挟んだ二人の目が一層輝きを増すのだった。


 シゲルは「仕方ねえな」という顔をして、ビールを机に置いた。その口元にはどこか誇らしげな笑みが浮かび、得意満面で語り出す。


「正式名称は――エレクトロマグネティック・レヴィテーション・ジョイント。静電浮遊式と磁場制御式の“いいとこ取り”をしたハイブリッドのジョイントだ。それをボール型に仕立てることで、浮遊関節として機能させられる。つまり、人間には到底できないほど滑らかな移動や、常識では考えられねえ角度での関節の可動が可能になる。略してEMLJ、あるいはデュアルレヴィジョイント。通称DLJとも呼ばれている」


 胸を張りながらの説明に、クロは呆れ半分で耳を傾ける。だが、隣にいたアヤコが待ちきれないとばかりに声を挟んだ。


「でも弱点も同じよ。外部からの強力な電磁干渉や磁気嵐にはどうしても脆いし、消費エネルギーも大きいの。けれど、きちんと防護処理を施してやれば――強力な雷の中でも、磁場の乱流に包まれても、十分に耐え抜けるわ」


 アヤコの言葉に、シゲルが「俺の台詞を取るな」とでも言いたげに肩をすくめ、すぐに言葉を奪い返す。


「デメリットは確かにでかい。だが、ちゃんと保護してやりゃあ問題ねえ。むしろこのジョイントを使えば、常識じゃ考えられねえ変形も可能になる。極端な話――顔を背中側に回しても、自然に動かせるくらいの柔軟性を持ってるんだ」


 投影されたホログラムの関節が滑らかに回転し、通常の骨格では不可能な軌跡を描く。その様子に合わせるように、シゲルの声もますます熱を帯びていった。アヤコも黙ってはいられないといった顔で、次の説明を狙って身を乗り出す。


 クロはそんな二人の様子を見やり、小さく息を吐いた。


「では極端な話、折りたたんで箱のような形にもできる、ということですか?」


 アヤコが「無理よ」と口を開きかけたそのとき、シゲルが先に声を上げた。


「――出来る」


「じいちゃん?」


 驚いたように目を丸くするアヤコに、シゲルはにやりと口角を上げる。


「出来るんだよ。やらないだけでな」


 そう言い放つと、勝ち誇ったようにビールをあおる。その様子にアヤコは悔しげに眉をひそめた。


「なら、なんでやらないの? 私、そんなの見たことも聞いたこともないんだけど」


 食い下がるアヤコに、シゲルはあっさりと答える。


「簡単な話だ。需要がねえ。こいつは戦う機械だぞ。箱型に変形してどうする? 盾にも武器にもならんだろう」


 一度言葉を切り、残り少なくなった缶を軽く回す。


「だが――やりよう次第で出来るのは確かだ。意味がねえから誰もやらないだけでな」


 その声音には自信と経験に裏打ちされた重みが宿り、アヤコは口を噤んだまま、悔しそうに視線を逸らすしかなかった。


 シゲルは勝ち誇った笑みを浮かべ、クロに向き直る。


「……そう聞いてくるってことは、箱型にしたいってことだな?」


 残りのビールを一気に飲み干すと、シゲルは迷いなく新しい缶に手を伸ばす。


 クロは静かに頷き、はっきりと自分の考えを口にした。


「はい。四段変形のうちの一つとして、組み込みたいと思っています」


 その堂々とした言葉に、確信を持っていたシゲルでさえ眉を上げ、アヤコは思わず目を丸くした。


「……四段変形?」


「クロ、本気なの?」


 二人の反応を受けても、クロは真顔のまま大きく頷く。


「箱型――とまではいきません。ただ、ある程度四角い形態にしておけば、クーユータの物資搬出入口からの出入りが可能になります。そのためにも、そのサイズに収まる範囲で設計したいんです」


 真剣に説明するクロの言葉に、シゲルは「なるほどな」と頷き、想定していたかのように缶のプルタブを開けた。


 一方、アヤコはまさかの提案に言葉を失い、シゲルの平然とした態度に悔しさを覚える。自分の視野が狭かったこと、口にしかけた「出来ない」という言葉――その全てが胸に刺さり、彼女の心を熱くしていた。

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