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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
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託す力、託される想い

 そうして三人が話を続けていると、ブリッジのレーダーに反応が現れた。モニターには、クーユータのシルエットがじわじわと接近してくる軌跡が映し出されている。


「……おっと。とりあえず話はここまでだな。続きはまた今度、詰めるとして――」


 グレゴが顔をレーダから外し、クロの方へ視線を送る。


「クロ。お前の機体の設計、シゲルに頼んどけ」


 クロは素直に頷く。が、その瞬間、グレゴがピタリと手を伸ばして彼女を指差し――ものすごい形相で釘を刺した。


「ただしっ!――絶対に、『俺が払う』とは言うな!」


 一瞬きょとんとするクロ。その顔に向かって、グレゴは語気を強めて念を押す。


「金は出す。出すけどな。あいつに“俺が払う”ってバレた瞬間、絶対に――無駄に高性能にしやがる!」


 指先をぷるぷると震わせながらの訴えに、クロは姿勢を正し、まじめに頷いて見せた。


「……了解です。絶対に、内緒にしておきます……多分」


「多分ってなんだ!?」


 思わず詰め寄るグレゴに、クロは予感に満ちた未来を静かに語り始める。


「いえ。恐らくですけど、私が頼むのであれば――経験上、ほぼ確実に“盛られ”ます」


 その断定に、グレゴは沈黙したまま眉間に手をやる。言葉を返す気力さえ、少し奪われたようだった。


 隣でジンが、堪えきれない様子で小さく笑みを漏らす。


 クロは、過去の記憶を思い出すように少しだけ目線を泳がせた。


「私の端末を改造した時も、ですね。頼んでない部分に色々と……追加されていました」


「やべぇな……想像が容易にできやがる……」


 グレゴの眉間の皺がさらに深く刻まれる。


 クロは顎に手を当て、思案顔のまま、ふと二人へ問いかけた。


「そもそも、機体制作って高いんですか?」


 ジンとグレゴが視線を交わす。互いの表情を一瞬だけ読み合い、そしてクロの方へ向き直った。


「ピンキリね」


 ジンが答える。落ち着いた声で、情報を整理するように。


「フレームさえあれば、初心者ハンターが最初に手を出すようなものは、比較的安価で済むわ」


 その言葉を受けて、グレゴが端末を操作しながら補足を入れる。


「それと、メーカーにもよる。これを見てみろ」


 グレゴの端末から、ホログラムが投影される。無数の機体パーツとメーカー名が並ぶ、カタログのインターフェースがブリッジの空中に浮かび上がった。


 スペック、用途、互換性、価格――専門用語がびっしりと並び、説明欄には組み合わせによる相性の善し悪しや、フルセット割引の記載も見て取れる。


「これは……組み合わせて作るんですね。そして、フレームごとに“対応”と“非対応”がある。値段もまちまちで、選び方次第でポンコツにも傑作にもなる……そういうことですか」


 クロはカタログの一部に手を伸ばし、項目をなぞるように眺めた。転生前――まだ“ただの子供”だった頃に、自分でプラモデルを組み合わせて“理想の機体”を作っていた記憶がふとよみがえる。


「そうだ。だから、ここでシゲルの出番だ」


 グレゴが思いついたように言葉を挟む。


「癪だが――あいつの腕は確かだし、資格もある。設計にも組み上げもあいつの知っている所なら文句はない。だから……シゲルに頼むのが一番確実なんだが……」


 そこで、ふとグレゴの口調が止まる。


「……そうだ、アヤコちゃんに頼めばいいんじゃねぇか? あいつなら無茶はしねぇし、話も通じる」


 自分の中で名案が浮かんだらしく、グレゴはどこか安心したように頷いてみせた。


 しかし、その安心も一瞬だった。


「あなた、考えが甘いわよ」


 ジンがため息混じりにそう言う。クロも同意を示すように頷いた。


「アヤコちゃんならきっと、“要望以上”のものを設計するわよ」


「ですね。私の端末を改造した時も、しれっと追加装備がいくつか組み込まれてましたし……」


 グレゴの口元が引きつる。さっきまでの自信は見る影もなく、表情にはじわじわと苦悶の色が滲み始めていた。


 それを見かねたクロが、ふと声をかける。


「グレゴさん。一つ、提案なんですが」


 言葉の調子はやや優しく、どこか気遣うようでもあった。


「……なんだ?」


 返すグレゴの声には、警戒と疲労が混じっていた。


「フレームだけ、提供してもらえれば充分です。あとの費用は、私が出します」


 クロの申し出に、グレゴはさらに顔をしかめる。ありがたいと思う一方で、何かを奪われたような、悔しさと情けなさが混ざった複雑な表情を浮かべていた。


 その顔を、ジンはくすりと笑いながら眺めている。どこか微笑ましげに。


 クロはさらに言葉を続けた。


「これからも使う機体にするつもりですし……できれば、エルデに使わせたいんです」


 視線をまっすぐにグレゴへ向ける。そこには真剣な意志が宿っていた。


「だから、可能な限り最適化した設計にしたいんです。もちろん、大気圏突入や移動運用のことも考えます。その方が――いいと思いませんか?」


 静かに、けれど確かな調子で語るクロの説得に、グレゴは何も返さず、唸るようにわずかに息を漏らす。そして、視線をジンへと向けた。


 ジンは黙って頷く。その頷きを確認してから、グレゴはクロの方へと目を戻し、短く言った。


「……それでいこう。情けなくて済まないな」


 その言葉に、クロは首を横に振って、穏やかな笑みを浮かべた。


「情けなくなんてありませんよ。むしろ……こちらこそ、いつも怒っていただき、ありがとうございます」


 思わぬ返答に、グレゴの表情がふっと和らぐ。肩に乗っていたものが少しだけ軽くなったようだった。


「……怒られない努力をしろ。だが――こちらこそだ」


 照れ隠しのように言いながらも、その声はどこか優しかった。

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