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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
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必殺技というもの

 スカーレットのブリッジ。通信モニターに映し出された光景を前に、グレゴは黙して言葉を発さず、ジンはただ素直に目を見張っていた。


 映るのは戦場に躍動するバハムートの姿。周囲には、ぞろぞろと湧き出るデストロイヤーたち――その数は視界に収まらないほど膨大だった。


 確かに一体一体の個体性能はさほどではない。しかし“無限湧き”とも言うべき量と持続、それこそが奴らの脅威だった。


 通常、こうした災害宙域では複数のハンターやチームが連携し、分担して当たるのが定石。だが――バハムートはただ一機でそれを成し遂げていた。群がられ、取り囲まれ、四方八方から攻撃を受けながらも、ただの一撃も通させず圧倒的な力で捻じ伏せていく。


 その姿は、もはや“戦っている”というより“蹂躙している”に等しい。


「……うむ……」


 グレゴはそれだけを呟いた。あらゆる言葉が状況に追いつかなかった。


 そして、次の瞬間――通信映像に映るバハムートが空中でぴたりと動きを止めた。両腕を大きく広げ、そして……ゆっくりと胸の前で交差する。その動作は妙に堂々としていて――明らかに“何かの演出”だった。


「――フレアソード」


 そして映像の中、バハムートは異空間から取り出した黒き剣を高々と天へ掲げていた。


 その様子を見てジンはふと目を細める。


「ふふっ……まるで子供みたいね」


 思わず笑みが漏れる。育ててきた子供たちの、小さな“ヒーローごっこ”を思い出していた。


 それはグレゴも同じだったようで、懐かしげに口を開く。


「そういやぁ……よく俺、敵役やらされたっけな……。最後、すっげぇ大げさに吹っ飛ばされてさ」


 ブリッジの中に、わずかな笑いと静かなノスタルジーが広がる。


 ――そして、同時に悟る。


「なあ、ジン……恐らくだけどよ……」


「ええ、分かるわ。あの構え、あの演出……」


 ジンはすでに計器から目を離し、画面を見つめながら続ける。


「これ、必殺技ね。それであなたが『やられたぁ~~!』って派手に倒れるところまでがセット」


「……やらねぇぞ」


 肩を竦めつつ、どこか居たたまれないような顔で言い返すグレゴ。だがその直後、映像内のバハムートが――予想通りの行動に出た。


 闇が剣に吸い込まれるように集束していく。圧縮され、凝縮され、刀身が次元そのものを歪ませるかのように黒く光を呑んでいく。


 ジンが、ふと計器へ視線を戻した。そして次の瞬間――


「……うそ。出力……判別不能って……!」


 驚愕の声に、グレゴも思わず身を乗り出す。


「おいおい……マジかよ。何だよ、それ……」


 だが、そんな二人のやり取りをよそに――画面の中の“彼”は完全にその気だった。


「偽物よ……巣ごと消え失せろ!」


 その叫びがスカーレットの通信スピーカーに響き渡る。掲げられた黒き剣――


「――散れ!! 塵滅の終断剣(ディエンドブレイカー)!!」


 一刀が振り抜かれた瞬間、偽バハムートの巨体とその背後に口を開いていたワームホールが――空間ごと真っ二つに断ち割られていた。


 光と闇がせめぎ合い、やがてすべてが霧散していく。虚空に残されたのは、ただ静寂だけだった。


「……これは、なんだ?」


 ぽつりと漏れたグレゴの言葉がスカーレットのブリッジに響く。圧倒的な映像を前に、言葉を選ぶ余裕すらなかったのだろう。目の前の光景が現実だとは、まだ頭が追いついていない。


 隣で立っていたジンが、ふっと小さく笑った。


「……子供だからよ」


「は?」


 怪訝そうに眉をひそめたグレゴが横目で彼女を見る。だがジンはすぐには説明せず、少しだけ視線を映像から外して言った。


「思い出して。昔……子供たちとヒーローごっこをしたとき、最後はどうしてた?」


 その言葉に、グレゴの表情がわずかに緩む。


「あー……ああ。必殺技でやられてたな……」


「そう。最後は、技の名前を叫んでから、思いきり――ね。……ところで、グレゴ。必殺技の“原理”って、分かる?」


 唐突な問いかけに、グレゴは一瞬眉をひそめた。だが、すぐに真剣な表情で考える。何か理屈があるのか、裏があるのか。だが――


「いや、原理なんて……ないな。……いや、違う。必殺技ってのは……そういうもんなんだ」


 ふっと呟いたその言葉に、自分でもハッとする。頭の中に、かつて夢中で観ていた“ヒーロー”の姿がよみがえる。理由もなく、理屈もなく――ただ叫び、振るったその一撃。それが“必殺技”だった。


 子供のころ、胸を熱くしたあの瞬間。技の意味も理屈も関係なかった。ただ、その叫びと一閃に、世界が震えた。


「……それで、いいんだよな。そういうもんなんだ、必殺技ってのは」


 誰に向けるでもなく、グレゴは呟いた。まるで遠い昔の“あの頃”を肯定するように。

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