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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
362/475

災害と海賊と、迷子の懸念

誤字脱字修正しました。

ご連絡ありがとうございました。

 クロは、静かにグレゴへ視線を向ける。


「つまり――私と同等の殲滅力が必要ってことですね」


「ああ。災害はまだ前兆だから、後回しでも構わねぇ。ただな……」


 グレゴの目は深く沈み、何かを天秤にかけるように悩ましげに揺れている。


 その様子を見ながら、クロはクレアとエルデに視線を移す。そして腰のポーチから自分の端末を取り出すと、通信を維持したままクレアにくわえさせた。


「ふろはは?」


 口にくわえたまま喋ろうとしたクレアが、むぐむぐと器用に喉を鳴らす。


 その様子に、思わず笑いをこらえつつ――クロはグレゴへと向き直った。


「災害のほうは、私が対処します。クレアとエルデには、海賊の相手を任せます。ただし……他のチームとぶつからないよう、離れた場所に潜伏している連中に限って、という条件で」


 提案を受けて、グレゴはしばらく思案に沈む。


 一方その頃――クレアの口元から垂れそうな涎を慌てて拭きながら、エルデは「えっ、マジっすか……」という顔でクロを見上げていた。


 やがて、グレゴが口を開く。


「……ひとつ、懸念がある」


 その声は、先ほどよりもずっと真剣だった。彼の視線が、まっすぐにクロを貫く。


「クレアとエルデは問題ねぇ。信頼もしてる」


「ということは、私に対しての懸念ですか?」


 クロがわずかに不快げな声色で問い返すと、グレゴは毅然とした態度のまま、重々しく確認を入れた。


「――迷子にならねぇよな?」


 そのひと言に、一瞬場が静まり返る。


 グレゴの顔は真剣そのものだった。それだけに、クロもまた真面目に――そして自信たっぷりに頷く。


「舐めないでください。今の私はこのゴーグルが――」


 意気揚々と取り出したゴーグルを掲げた瞬間――


「おい、てめぇの端末、今誰が持ってる?」


 グレゴが、容赦なくそのセリフを遮った。


「それは……クレアですが……あっ」


 その様子を見て、グレゴは頭を抱えるように深くため息を吐いた。


「――気づいたか。……はぁ~~~~~……」


 溜めに溜めたその嘆息のあと、グレゴはカウンター奥の職員に声をかける。


「悪い、カウンター業務。代わってくれ」


 声をかけられた女性職員が目を丸くする。


「えっ、ってことは……?」


「ああ、俺とジンが出る。久々に動くしかねぇみたいだ」


 重い腰を上げるように言って、グレゴはジンを呼びに歩いて階段を上る。


 代わってカウンターに立った女性職員は、クロに微笑みながら小さく肩をすくめた。


「良かったですね。これで迷子の心配はなくなりますよ」


 その言葉に、クロは一瞬言葉を詰まらせ――


「…………反論したいところですが……どこまで真顔で返すべきか悩みますね」


 困惑気味に呟いたクロの言葉に、女性職員はくすりと笑った。


 その直後、ギルドの階段から足音が聞こえてくる。二階からグレゴとともにジンが降りてきた。


「宇宙で合流だ。俺とジンは後から行く。お前らは先に出て、状況を詰めておけ」


 その口調はもう、すべてが決定事項であることを示していた。


「あっ……やっぱり決定だったんですね」


 肩をすくめながらクロが言うと、グレゴは無言で頷く。


 その横で、ジンはどこか楽しげに目を細めた。


「ふふ……久しぶりね、あなたと出るの」


「うむ。それに、クロの戦いぶりも見ておきたかったところだ」


 そう言いながら、二人は並んでギルドを後にする。グレゴは重々しく、ジンは軽やかに。


 その背中を見送りながら、クロたちも屋根裏へと向かう。


 カウンターに立っていた女性職員が不思議そうに一行を見やるが、特に何かを言うこともなく、すぐに自分の業務へと意識を戻した。


 階段を上がり、クロたちは転移する。


 一瞬、視界が白く跳ね――次の瞬間、冷えた空気に包まれた。


 着いた先はクーユータのリビング。


 非常灯の柔らかな光が、リビングの壁や床を穏やかに照らしていた。それはまるで、主の帰還を静かに待ち続けていたかのような、寂しげで優しい明かりだった。


「ふろはあ、ふぉうひはしょう……」


(なにか一生懸命に伝えようとしているが、くわえた端末のせいでよく聞き取れない)


 口に端末を咥えたまま、クレアが不明瞭な声で何かを伝えようとする。


「クレア、一度取りますね」


 クロはそう言って、クレアの口元から涎まみれの端末をそっと取り上げる。ポーチの布で丁寧に拭き取りながら、ふたり――クレアとエルデの方へ向き直った。


「ちょうどいい機会ですね。ふたりだけで、ひとつ海賊討伐をやってみましょう」


 その声はいつも通り淡々としていたが、どこか“信頼”の色が滲んでいた。

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