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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
359/473

帰宅と静かな手仕事

消えていた部分を書き直しました。

ご連枠ありがとうございます。

 ジャンクショップへ帰ると、まだネオンサインの灯りが瞬いていた。店先から漏れるやわらかな光が、静まり返った通りをほんのりと照らしている。


 クロたちはそのまま玄関から入り、靴をそろえて店舗スペースを覗いてみた。


 奥の作業場では、シゲルがひとり黙々と手を動かしていた。マーケットで仕入れた各種パーツが、作業台の上に整然と並べられている。小さな金属の軋み音や、洗浄液に浸されたときのくぐもった水音が、夜の空気を静かに震わせていた。


 シゲルは、目の前のパーツを一つずつ手に取り、洗浄し、専用の乾燥機に入れて完全に乾かしてから動作を確認する。正常なものは丁寧に梱包材へと詰め、不具合のあるものは脇に分けて後日の修理に回す。


 その作業は、まるで精密機械を扱う技術者というより、小さな命を手のひらにのせる医師のようだった。


「……何すか、あれ?」


 エルデがぽつりと呟いた。目を細めるその表情には、呆れと興味、そしてわずかな尊敬が混じっている。


「わかりません」


 クロがまっすぐに答える。その端的な返事に、エルデが小さく吹きそうになる。


 その声が届いたのか、シゲルが顔を上げた。


「クロ、クレアに……エルデか。ちょうどいい。エルデ、手伝え」


 言いながら、手袋の入った箱を指さす。


「手袋つけて、パーツを洗浄液で綺麗にしろ」


「今、帰ったばっかりっすけど……」


 エルデが肩を落としながら呟く。


 だが、シゲルは一歩も譲らない視線で睨み返す。「だから何だ」とでも言うように。


「知らん。お前も家族なら、手伝え」


 そのひと言に、エルデは目を丸くし、ほんの一瞬だけ固まった。


 そして、ふっと口元を緩め、小さく笑う。


「……はいっす、親分」


「親分じゃねえ。シゲル様だ」


「わかったっす。親分」


 冗談めかした返しに、シゲルも思わず口元を緩める。その笑みは、気の抜けたようでいて、どこかくすぐったそうだった。


 エルデは手袋をつけながら作業台の隣へ回り込み、手際よく洗浄を始める。二人は自然な間合いのまま、言葉を交わしながら黙々と作業を続けていった。


 クロはそのやり取りを横目に見つつ、静かに作業場を離れた。ふたたび店側に足を向け、入口そばのカウンターへと向かっていく。


 そこにはアヤコがいた。


 淡い照明の下、彼女はドローンの製作に集中していた。テーブルの上には組みかけのフレームと、精密な部品が丁寧に並べられている。


 アヤコは何も言わず、ピンセットを使って小さなセンサーを一つひとつ所定の位置へと取り付けていく。その手つきは慎重でありながら、無駄のない速さと正確さを備えていた。


 成形されたボディをそっと取り上げ、ゆっくりとフレームにかぶせる。そして、継ぎ目を指先でなぞるようにして確認する。


 ……一ミリの狂いも許さない、という空気が漂っていた。


 クロは声をかけることなく、その様子をしばし見守っていた。アヤコの指先が、仕上がったドローンの継ぎ目を最後になぞる。満足げに小さく頷いたその時、ふと、気配を感じたように顔を上げる。


「おわっ……クロ? クレアも……帰ってたんだ」


 声のトーンがわずかに跳ねた。完全に集中していた分、意識が急に引き戻された驚きが、アヤコの声にそのまま滲んでいた。


 クロはカウンターに並べられた三基のドローンを見やりながら、静かに尋ねる。


「ドローンの製造が多いみたいですね」


 その言葉に、アヤコは少し照れたように笑いながら、一台のドローンを手に取った。


「今回は、一からじゃなくてね。競技用の改造依頼なんだ。見てよ、これ」


 そう言って、アヤコは手に持っていたドローンを、わざと床に落とす。


 ドローンは衝撃に反応して起動し、機体下部のスラスターを噴かせながらふわりと浮かび上がると、静かに着地した。


 アヤコは迷いなく専用のゴーグルを装着し、コントローラーを握る。


 その瞬間、ドローンはまるで意志を持ったかのように動き始め、店内をすばやく疾走した。棚の隙間を抜け、低空で旋回しながら、軽やかに空間を飛び回る。


「このゴーグル、カメラでドローンの視点をそのまま見ながら操作できるんだけど――」


 アヤコは視線を外さずに、語り続ける。


「私の改造では、小型の360度カメラセンサーを内蔵させて、三人称視点で見れるようにしてあるんだ。周囲のドローンの位置も把握しやすくなるし、障害物も見逃さない。もちろん、切り替えれば一人称視点にもできる」


 クロは頷きながら、ドローンの動きを静かに目で追う。


「ボディもね、軽量化と耐久性の両立、こだわってるんだよね。素材選びから見直してるから、フレームの反応も格段に良くなってる」


 アヤコが得意げに語ると、クロが静かに問いかけた。


「……デメリットは、操作する人の技量が高くないといけないことでしょうか?」


 その指摘に、アヤコは「ちっちっちっ」と指を振りながら笑う。


「私に死角なし! 初心者モードも完備!」


 だが――


「……意味ないのでは? 使う皆さん、プロなんですから」


 淡々と返された一言に、アヤコの動きがピタリと止まる。


「…………」


 無言のまま、そっぽを向いてドローンの方へ視線を逸らす。あからさまな現実逃避だった。


 そんな様子に、クロは一拍置いて言葉を添える。


「……わかりました。すごいですよ、お姉ちゃん」


 棒読み気味のその声に、アヤコは小さく肩を震わせる。


「やめて……なんか、負けた気になる……」

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― 新着の感想 ―
誤字というか、アヤコのセリフが途中切れちゃってます…
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