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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
351/471

役割確認と作戦会議

急なお知らせとなり申し訳ございません。

明日の更新は「8時のみ」とさせていただきます。


楽しみにお待ちくださっている皆さまには大変心苦しい限りですが、

何とぞご理解いただけますと幸いです。


改めまして、ご不便をおかけしますことを深くお詫び申し上げます。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 宇宙の海を滑るように進むクーユータ。航行は順調で、目的地――ノードスパイアの設置ポイントまでは、まだわずかに時間がある。


 その静かな船内で、クロが口を開いた。


「エルデ。貴方には、私とクレアのサポートをお願いしたいと思います。今日はその役割の確認です」


「はいっす!」


 エルデは反射的に返事をしながらも、操縦席から身を離すことなく、手元の操作を続けていた。その様子に、クロは小さく頷く。思った以上に集中力が保たれていることに、内心わずかな感心を覚えていた。


「エルデにお願いしたいのは、私が戦闘に入った際の周囲状況の確認と、戦闘データの記録です。ただし――映像の記録は禁止です」


「了解っす……って、なんで映像はダメなんすか?」


 素直な疑問に、クロはひと呼吸置いてから問いを返す。


「エルデ。私と戦った時のこと、どう思いました?」


「えっ……ああ……異常だったっす!」


 言った瞬間、自分で気づいたらしい。エルデは慌てて口を押さえるが、クロは淡々と頷いた。


「そういうことです。あまりにも“バハムートらしさ”が出過ぎるんです。映像に残れば、どんなにぼかしても誤魔化しきれません。……攻撃力も、規格外ですし」


 その声はあくまで静かだが、自分の力を正確に認識した者だけが持つ、冷静さが宿っていた。


「だからこそ、記録はアヤコが作ってくれたこの端末経由で。ログのみを記録して、必要最低限にとどめてください。……万が一に備えて、監視の意味もあります」


「……はいっす。気を引き締めるっす」


 エルデが真剣な表情で頷くのを確認し、クロは視線を隣に移した。


「クレア。あなたにも指示があります」


「はい、クロ様」


「基本的には、私と一緒に戦闘へ入ってください。ただ――それに加えて、クーユータの防衛をあなたに任せます」


「……えっ? でも……クロ様と一緒が、いいです……」


 クレアは少しだけ眉尻を下げ、名残惜しげに言葉をこぼす。その声音には、任務以上の“感情”がにじんでいた。


 クロはそんなクレアに、静かに言い聞かせるような口調で続けた。


「……クレア。ずっと一緒に行動するな、という意味ではありません。けれど役割として、事前に線引きしておく必要があるんです」


 クレアは黙って、じっとクロを見つめる。


「クーユータには一応の防御シールドがありますが、万が一狙われたとき……正直、バハムートの状態の私では、“守る側”に回るのは難しいんです」


「……難しい、ですか?」


 クレアがわずかに首を傾げると、クロは淡々と事実を述べた。


「はい。私のサイズではクーユータに接近すると逆に動きが制限されてしまいます。瞬時の防御行動ができず、最悪、自分の攻撃や動きで艦を損傷させるリスクもある」


 クレアの目が少し見開かれる。だが、その視線はまだ揺れていた。


 そこでクロは、わずかに微笑を浮かべた。


「だからこそ、あなたに任せたいんです。ヨルハとしての小柄で俊敏な機動性。それに――」


 クロはクレアの肩にそっと手を添える。


「あなたは、私よりずっと“護る”のに向いている。だから信頼しています」


「……護れる、私が……」


 クレアはぽつりと呟いた。その瞳に浮かぶ光は、少しずつ迷いを越えていく。そして次の瞬間、きゅっと胸元に手を当てて、静かに頷いた。


「……わかりました。クーユータは、私が護ります」


「ありがとう、クレア」


 クロの声は穏やかで――その響きに、エルデがちらと横目を向けた。ブリッジに満ちる静けさの中、どこか居心地の良い空気が流れている。


「……今は、こんなもんですかね。いかんせん、人手が足りませんし」


 エルデが苦笑まじりに呟くと、クロもわずかに口元を緩めた。


「そうっすね。で、今回の依頼はどう動くっすか?」


 操縦席から問いかけるエルデに、クロは一瞬だけ考えるように目を伏せ、そして手元の端末に指を滑らせる。


「……まずは、これを確認しましょう」


 ホログラフィックモニターに投影されたのは、ノードスパイアの立体イメージ。細身の筐体は全長五メートルほど。各所に計測機器と通信アンテナが集約され、光を反射する装甲表面にはギルドの識別コードが刻まれていた。


 クロはその全体像を見つめながら、静かに考える。――これを、指定された宙域に二十本。ひとつずつ運び、起動させる。


(……バハムートの状態で持ったら、折れそうですね……。かといって、このままでは運搬効率が……)


 内心でひとつ小さく溜息をつき、思考を切り替えるように軽く頷いた。


「今回は、バハムートの出番はなしでいきましょう。……ヨルハは狼ですから、くわえるには繊細すぎます。運搬には不向きです」


 クロの言葉に、エルデとクレアがほぼ同時に視線を向けた。


「ですので、運搬は私が担当します。ヨルハは私を乗せての移動、そして周囲の警戒をお願いします」


 静かで簡潔な指示。だがその中には、全体を見据えた判断と明確な役割分担が込められていた。


「了解っす! 任せてくださいっす!」


 エルデが元気よく答え、少しだけ首を傾げながら続ける。


「でも……クロの姉御、持てるんすか? あれ、デカいっすよ?」


 その問いに、クロは小さく笑った。そしてほんの一拍の沈黙を置いたのち、静かに――しかしどこか誇らしげに言い切る。


「人では無理でしょう。ですが――」


 そこで言葉を切り、口元ににやりと笑みを浮かべた。


「私は“人”じゃありませんから――これくらい、問題ありません」


 その一言に、エルデは目を瞬かせ、クレアはどこか得意げに尻尾を揺らす。頼もしさが、チームの中心に確かに根を張っていた。

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