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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
惑星に巣くうもの
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作業とくつろぎの夜

 そのままとぼとぼとランドセルへ向かい、荷物の仕分けや配送準備をしている仲間たちのもとへ歩く。カーゴベイではアヤコが大型ドローンを巧みに操縦し、コンテナから次々と荷を下ろしていた。金属の爪がカチリと音を立てて掴み、大まかな配達先ごとに荷を振り分ける。その横ではウェンとノアが黙々と作業を進めている。分けられた荷物を店ごとに仕分け、配達ボックスに収め、メモ書きの伝言を貼り付ける。その一つ一つが次の瞬間にはコンテナ内の所定位置にぴたりと収まっていった。


 並んだコンテナの側面には大きく白いライオンのロゴマークが描かれ、ひと目でホワイトライオン急便とわかるおなじみの印が光を反射している。


 その活気ある光景の中にクロも加わる。無駄のない動きで荷を持ち上げ、運び、所定の位置に収める。額に滲んだ汗が顎をつたい、床に小さな滴を落とすが、手は止まらない。大型ドローンが頭上を通り過ぎ、その影が床を滑る。金属の爪が荷を掴む音と仲間たちの短い声が交錯し、場の空気をさらにせき立てていた。


 やがて最後のコンテナが積み込まれるころには、人工照明が夜間モードへと切り替わり、街全体がやや柔らかな光に包まれていた。長い一日の終わり――皆の顔には心地よい疲労の色が滲んでいる。


「お疲れ様会したいけど……今日は疲れた。また今度にしよう」


 アヤコが提案すると、ノアもウェンも素直に頷き、自然とその場は解散ムードになった。


 ジャンクショップへ戻ると、アヤコは靴を脱ぎながら盛大に肩を回し、次いでこめかみを揉む。


「疲れた~……今日、ご飯どうする~?」


 間延びした声に、カウンター奥のシゲルが短く返す。


「俺は飲みに行く。勝手に食っとけ」


 そう言い放ち、颯爽と玄関に向かい、そのまま背中を見せて出て行った。


 アヤコは唇を尖らせムッとした表情を見せるが、次の瞬間、何かを思いついたように口角が上がる。


「いいもん。クロ、私たちも飲もう!」


「ダメです。それだけは拒否します」


 クロの即答に、アヤコは慌てて手を横に振った。


「ちがうちがう。お酒じゃないよ、ジュース。マーケットでレシピデータを買っておいたんだ。いろいろ試してみようよ。それで、ご飯は……つまみにしよう。じいちゃんのやつで」


 クロは小さく苦笑する。


「……後で何を言われても知りませんよ」


 そう言いながら振り返り、エルデに声をかけた。


「キッチンに行きましょう。私がドリンクメーカーを持ちますので、専用の水ボトルとコップを……と思いましたが、まだ家の中を知りませんでしたね」


 クロは視線を部屋の隅へ向ける。そこには無表情にじっと佇むレッド君がちょこんと控えていた。


「レッド君、コップを三つと深皿を一つ、テーブルに用意してください」


 レッド君は小さく傾いて頷くような仕草を見せ、静かな駆動音を立てて動き出す。そのままクロの後をついて歩き、規則正しい足音が床に響いた。


「クロの姉御、手伝うっす」


 エルデが腰を浮かせかけたところを、クロが手のひらで制する。


「いえ、エルデは座っていてください。……クレア、お姉ちゃんの肩を揉んであげてください」


「はい、クロ様」


 クレアは元気よく返事をすると、クロの肩からふわりと飛び降り、アヤコの肩へ着地。前足と後ろ足で小刻みに踏み込み、リズムよく圧をかけていく。するとアヤコの口から、だらしなく伸びた吐息がこぼれた。


「あぁ~~……気持ちいい……肉球の柔らかさと温かさ……それに、このリズム……踏まれ心地、最高……」


 その様子をじっと見ていたエルデが、ふと思いついたように口を開く。


「アヤコの姉さん、あのレッド君って……ロボットっすか?」


 問いかけられたアヤコは、とろんとした表情のまま、首をゆるく横に振った。


「い~や……ちがうよ~。あれはね、クロが作った……呪物だね~」


「呪物?」


 目を瞬かせるエルデに、アヤコはうっとりと頷く。


「クレア~、今度は反対側お願い~」


「はい、お姉ちゃん」


 クレアが軽やかに反対の肩へ跳び移り、再び同じリズムで踏み込みを始める。アヤコの顔はまたもや蕩けきった幸福の色に染まった。


「あ~~~~……レッド君はね、布袋と綿と水に……なんか赤い石をクロが入れてね~。それから何か文字を書いて……赤い液体をちょんと付けたら出来上がり~~」


 エルデは微妙な顔でその説明を聞き、肩をすくめた。


「……その顔で言われても説得力ないっすけど……クロの姉御の正体を知ってる今なら……まあ、信じるっすね」


「でしょ~~。原理はぜんっぜん分からないけど、目の前で作られたから間違いないね~~~」


 アヤコは蕩けきった笑みを浮かべ、肩を踏まれる感触を全身で味わっている。


 その様子に、エルデもつられるように頬を緩めた。


(……なんか、見てるこっちまで幸せになるっすね)


 クロは一度だけ二人の方へ視線を送り、ほんのわずかに目を細める。


(……まあ、事実ですから)


 何も言わず、そのままドリンクメーカーの準備へと手を動かした。

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