チーム結成の提案
ギルド側のカウンターに入ったグレゴは、そのまま椅子へと腰を落とす。木製の脚が床をきしませ、ドカッという重い音が響いた。
そして、背もたれに深く身を預けると、肺の底から搾り出すような、長く深い溜息を吐く。
「……疲れる……」
その声音には苛立ちよりも、やや諦めの混じった重さがあった。カウンター越しにその様子を見ていたクロは、わずかに眉を寄せる。
「申し訳ないですね」
頭を下げ気味にそう告げると、グレゴは視線だけを持ち上げ、短く吐き捨てるように答えた。
「そう思うなら、ちゃんとしろ」
言葉と同時に、机上の端末置き場を指先で示す。その動きは無駄がなく、しかしどこか力が抜けている。クロは頷き、いつものように自分の端末をスキャン台に置いた。淡い光が走り、登録と照合の音が小さく響く。
グレゴはその情報を目で追いながら、端末を操作する。確認作業を進める指は機械的で、しかし時折画面に視線を戻すと、僅かに目元が鋭くなる。そして、ふいに顔を上げた。
「クロ。お前、エルデをサポートに付けるんだな」
「はい。正直、色々と面倒ですし……移動用の戦艦も手に入れましたから。なので、サポートと雑務は全部、丸投げしようかと」
あっけらかんとしたクロの返答に、グレゴは眉をわずかに動かし、端末から視線を外す。しばしの沈黙の後、低くしかしはっきりと提案を放った。
「……なら、お前はチームを作れ。クロとエルデのチームだ。クレアもそのうち入るかもしれんし、他に拾ってくるやつも出てくるだろ」
相手の未来まで見通すような口ぶりに、クロは口元をわずかに引き締めた。
「……否定はできませんね。それで構いませんが、チーム……ですか」
「そうだ」
グレゴは椅子に深くもたれ、視線をクロに据える。
「今は依頼を全部お前一人でこなしてるだろ。それをサポート専用に雇うなら、最初からチームを組んでおく方がいい。依頼の分配も、あらかじめ決めておけば楽になる」
クロは軽く首を傾げ、腕を組む。提案の意味を吟味するように。
「……まあ、今すぐじゃなくてもいい。ただな、依頼料や報奨金を受け取るたびに、エルデ分をその場で計算して渡すのは面倒だろ。先に割合を決めておけば、あとはギルドが自動で分配してくれる」
面倒事を減らすという実利と、先を見据えた管理。その両方を一息で差し出すのが、このグレゴらしい――クロはそう思った。
「……なら、チームを作ります」
短くそう答えると、グレゴは「話が早い」とでも言いたげに口元をわずかに緩め、端末の画面を操作した。登録用のデータフォームがクロの前に表示される。
「まずはチームのキャプテン。そこにクロと、お前のハンターIDを入力しろ」
クロが視線を画面に移すと、グレゴはさらに確認するように言葉を重ねた。
「で、エルデは直接戦闘することはないんだよな?」
クロは軽く頷くが、そこで言葉を添える。
「将来的には分かりません。ただ、現状では予定はないですね」
その答えにグレゴは短く「ふむ」と唸り、画面の下部を指さす。
「なら、そこの“サポート要員”の欄に、エルデの名前とIDを入れろ」
クロは画面をスクロールしながら首を傾げた。
「……エルデのIDは知りませんが?」
「後でも構わん。ただし、依頼を受ける前には必ず登録しておけ」
低い声で念を押すグレゴの目は、面倒を未然に潰すための鋭さを帯びていた。クロは小さく息を吐き、素直に頷く。
「……後は、チーム名と、サポートに支払う割合だな」
「20%でいいです」
即答に、グレゴの眉がぴくりと動く。
「……多いな」
短くそう呟き、端末を操作しながら淡々と相場を提示する。
「大体、サポートは5%から10%が多い。中には3%で回してるやつもいる」
クロはそこでわずかに口角を上げた。
「いいんです、20%で。……私の秘密料も含んでいると思っていただいても」
その言葉に、グレゴは一瞬だけ言葉を飲み込み、眉間に皺を寄せた。
「……そういう言い方をされると、変に納得しちまうな」
小さく鼻を鳴らし、画面に数字を入力する。
「で、チーム名は?」
「………………」
クロは黙り込み、視線を宙に漂わせる。机の上で指先が無意識にリズムを刻むが、頭の中はあまり乗り気ではない。
(……名前か。別に呼びやすければ何でもいいんだけど)
その様子に、グレゴは何も言わず椅子の背もたれに体を預け、腕を組んで待った。