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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
閑話 それぞれの目線
331/493

神々の三派と女神の決断

いつも『バハムート宇宙を行く』をお読みいただき、誠にありがとうございます。

このたび活動報告を更新いたしましたので、よろしければご覧いただけますと幸いです。


そして、あらためまして――

本当にいつも応援いただき、心より感謝申し上げます。


次回の更新より、いよいよ新章がスタートいたします。

これからも物語を楽しんでいただけるよう、丁寧に紡いでまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


※追記

申し訳ございません。新章の開始日についてのご案内が抜けておりました。

新章は8月12日より開始いたします。


どうぞ引き続き、よろしくお願いいたします。

 女神は、すでに嫌気がさしていた。最高神の座を巡る争い――だが、それは剣や矢が飛び交う戦ではない。言葉が武器となり、果てしない議論が繰り広げられる場で、ひとつの議題が生まれた。


「人は、果たして存在してよいものなのか」


 議場に落とされたその一言は、静かな湖面に投げ込まれた石のように、神々の間へ波紋を広げていった。


「人類は不要だ。自然を蝕む邪悪の化身にすぎぬ。滅ぼすべきだ」


 ――破滅を望む声。


「人類どころか、生命そのものが不要だ」


 さらに極端な声が上がる。


「人類は必要だ。生命は彼らによって維持されている」


 擁護する声。


「人類は必要だが、すべて我らの導きの下で生きるべきだ」


 支配を望む声。


 やがて無数に枝分かれした意見は収束し、三つの大きな派閥が形を成した。滅ぼすべきとする〈破壊派〉、維持を掲げる〈維持派〉、どちらにも与せぬ〈中立派〉。細分化すればさらに多くの流派があるものの、この三派こそが最大勢力である。そして、いずれその頂点に立つ者が次代の最高神となる。それを決めるのは現最高神の一存だ。


「くだらない……なぜ、私達の浅ましい争いに、この宇宙の人々が巻き込まれねばならないのか……本当に……」


 女神は胸の奥で吐き捨てた。さらに、この争いには明確な“ルール”が存在する。〈破壊派〉は標的とする宇宙に“災害”と呼ばれる破壊の化身を送り込めるが、その量と質には厳しい制約があり、召喚には莫大な力を宝玉へ注ぎ込まねばならない。一度でも注入が途切れればすべてが水泡に帰し、最初からやり直しだ。


 一方、〈維持派〉は別世界から“守り人”となる人間を転生させられる。しかし条件は三つ。第一に複数の世界へ適応できる魂であること。第二に本人の同意が必要であること。第三に与えられる力・知識・技はいずれも限られること。さらに、一度転生を行えば当人が生涯を終えるまで次の転生はできず、最大の制約として転生者に戦いを強制できない。自由に生きること――それが絶対条件だった。


 〈中立派〉も同じ制約を課せられるが、転生を行う義務はない。ただし行う場合には必ず“幾年かの縛り”を設けねばならず、その縛りが厳しいほど転生は強力になるものの、耐え得る者でなければ意味を成さない。ゆえに中立派がこの手段を用いることは滅多にない。


 争いが始まって数百年。人類が宇宙へ進出し始めたころ、本格的に〈破壊派〉の妨害が動き出し、それを防ぐため〈維持派〉は守り人の転生を開始した。


「宇宙は、私たちの玩具じゃない……ですが、もう止められない。このままでは――破壊派の暴走、守り人が力に酔い、秩序は崩壊する。そうなれば、この宇宙に生きるすべての生命が滅びの渦に飲み込まれる……なら――」


 その瞬間、女神は決意した。神界から姿を隠し、宇宙を破壊から守るため、そして力に溺れた守り人の暴挙を打ち砕くために。己の身を削り、その力を注いで転生を行い、その子を隠し守るために――傷つくであろう身体を癒やすべく“引きこもる”道を選んだ。


 その静かな空間に、一つの魂が訪れる。淡い光を帯びて漂う魂は、やがて眩い輝きを放ち始めた。


「世界が崩壊しないよう監視してください」


 魂は応えるように輝きをさらに増す。


「同意していただけますか?」


「はい。頑張ります」


 女神は己の力を惜しみなく注ぎ込み、魂を転生させた。


「……痛い……いたい……イタイ……」


 女神の全身が痛みに悲鳴を上げる。魂が震え、その光は揺らぎ、注ぎ込まれる力は命そのものを削るように容赦なく神経を貫いた。やがて身体全体に亀裂が走り、熱を帯びた血が溢れ出す。鉄の匂いが広がり、滴るたび硬質な床を叩く音が響く。その血は細い糸となって魂に絡みつき、淡い光の中に赤い筋を刻み込んでいったが、女神は一瞬たりとも手を止めなかった。


 ――今から、この魂が背負う縛りは、この痛み以上に深く、果てしなく長い孤独をもたらすだろう。終わりの見えぬ時間を、ただ一人、世界を見守り続ける孤独を。


「……ごめんなさい。こんな母親で……だけど、見つからぬよう、あなたを守ります……せめて縛りが解ける、その日までは……」


 女神の言葉と共に魂は世界へ産み落とされる。与えられたのは女神が持つ力と正反対の力――精神が崩壊してもおかしくないほどの孤独という苛烈な縛り。しかしその瞬間、奇跡が起こった。女神の血を浴びた魂は、この世界で唯一の特別な力を宿したのだ。その事実を知るのは当人だけ。女神すらも、まだ気づいてはいなかった。

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― 新着の感想 ―
子は親を見て学ぶ。神々が傲慢だからこそ、人類は神々から学んで傲慢となった。被造物が意にそぐわないというだけで、破壊、支配、維持など分かたれているのは、実に人類と同じく身勝手で傲慢な存在ですね。だからこ…
物語上の神とされている者達は、例えば未来から過去の時代の自分に干渉したり出来る神柱も居たりするのかな? そうなると・・・
良かった…バハさんクラスは神様パゥワでも量産できるようなヤバいもんじゃなかったのね。 いやまぁ仮に出来てたら、とうの昔に誰かやらかしてるか。
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