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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
閑話 それぞれの目線
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閑話 ノーブルワール・ゲイツ 5 正体の記録、名前の衝撃

誤字脱字修正しました。

ご連絡ありがとうございました。

 クロの見送りを終えたノーブルは、クリスタルドラゴンの運搬任務を応援に来ていた近衛部隊に引き継ぎ、アトラと共に現場を離れた。


 向かった先は、この宙域で最も近い近衛軍の中継拠点――巨大な軍事ステーション。その一室にある秘匿通信室を借り、ふたりはようやく一息をつく。


 静寂の中、ノーブルが椅子に身を沈め、天井を仰いだ。


「さて……どこから手をつけたものか」


 ぼそりと零れた声に、アトラはすぐさま答える。


「まずは、今回の宙域封鎖に関する報告と記録精査が優先と考えます。ただ……」


「……確たる証拠となる海賊船は、もう塵だ。唯一の物的証拠がなければ、こちらに残されたのは状況証拠と記録ログだけ」


 ノーブルの言葉に、アトラは静かに頷いた。


「すでにリモリアの軍上層部は、情報統制の不備を“交代時の隙を突かれた”としています。そして、“情報はすでに統制前に漏洩していた。クリスタル社が起因だ”という……かなり強引な主張です」


「逃げ道を確保した言い回しだな。責任の所在を曖昧にしている」


 ノーブルはそう言うと、短く息を吐いた。


「……海賊船が拿捕できていれば、話は違っただろう。だが――クロの判断は的確だったし、私もあの場では、あれ以上の選択肢はなかった。下手に撃ち合っていれば、クリスタルドラゴンごと吹き飛ばされていたかもしれん」


「その判断に異論はありません。私も同意見です。それに、あの場で海賊と交戦できる戦力は、こちらにはありませんでした。唯一動けたのは、クロの……狼型機体。たしか“ヨルハ”という名だったかと」


 アトラの声はぶれず、事実を冷静に確認していた。現場の対応は正しかった――だが、それでも納得できない結果がある。それは、事実と正義の乖離という、軍務の現実でもあった。


 ふたりはそれぞれ椅子に腰を下ろすと、室内を秘匿モードに切り替えた。外部との通信を完全に遮断し、暗号化された回線と軍専用の端末を起動する。


「……しかし、クロというハンターの名は聞いた覚えがない。あれほどの動きを見せる者なら、どこかで記録に残っているはずだが」


「確認します」


 アトラが即座に操作に入り、端末に軍内のハンター登録情報を呼び出す。数秒の後、ホログラムが浮かび上がった。


「――“クロ・レッドライン”。」


「……レッドライン?」


 ノーブルの声がわずかに低くなる。その反応に気づき、アトラが視線を上げる。


「ご存知ですか?」


「いや……同じ姓の者を知っていた。関係は断定できないが、何か胸騒ぎがするな」


 わずかに眉を寄せながらも、ノーブルは再び端末に視線を戻した。


「続きを」


「はい。クロ・レッドライン。年齢は十二歳。登録ハンターランクは“F”。登録日は十九日前。つまり――まだ一ヶ月も経っていません」


 ノーブルの表情に、目に見えて困惑の色が差した。


「……それで、あの機体。どうなっている?」


「確認中です……登録機体はこちらです」


 アトラが指を動かすと、新たに投影された映像が現れる。そこに映っていたのは、ヨルハではなかった。


「……登録名、バハムート。全長三百メートル。現在記録されているあらゆる人型起動兵器を大きく上回ります。しかも……この外見……」


 投影されたその機体は、まるで悪夢の具現だった。漆黒の装甲。二本の鋭角な角。広がる黒翼に、長く伸びる尾。洗練された“兵器”というよりは、“威圧”そのもの。あまりに異質で、ノーブルとアトラの第一印象は一致していた。


「……まるで、悪役のロボットだな。英雄譚に出てくる“魔”そのものだ」


「ふざけて登録できるものではありません。これは正規の登録記録です。……本物と見るべきかと」


「それだけの機体が、これまでどこにも報告されていないというのは、どう考えてもおかしい。帝国の宙域で動いていれば、誰かが記録しているはずだ」


「そこなんですが――クロの活動拠点は、帝国ではなく隣国・フロティアン領です。それも、かなり外縁部にある小規模コロニー。登録拠点は……」


 一度区切って、アトラが確認する。


「F18番、です」


 その番号を聞いた瞬間、ノーブルの表情が凍りついた。すぐに彼女は端末を操作し、クロの個人記録に含まれる家族構成を検索する。


 そして――


「……っ、シゲルの養子……だと?」


 その言葉には、驚愕と、かすかな戦慄が入り混じっていた。

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