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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
閑話 それぞれの目線
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閑話 ノア&ウェン 17 新入りエルデと告白の朝

誤字脱字修正しました。

ご連絡ありがとうございました。

 夜のパレードが熱気を残したまま終幕し、街はそのまま夜の賑わいへと滑り込んでいった。光と音に満ちた祝祭の余韻をまといながら、アヤコたちは街での買い物や食事に興じ、クロは――“小遣い稼ぎ”と称して海賊狩りに精を出していた。


 そして翌朝。またしても、彼女は何の前触れもなく“やらかして”みせた。


「初めましてっす! 自分、エルデ。親に売られて、海賊初日にクロの姉御に拾われたっす! よろしくお願いしますっす!」


 明るく屈託のない笑顔と、テンポのいい自己紹介。何がどうなってそうなったのか――何一つ分からないのに、本人だけはいたって元気そうである。


 アヤコとウェンとノアは、互いに顔を見合わせる。


「え、なにこれ……?」


「わかんない。クロの行動なんて、予測できないよ」


「クロさんに“普通”ってあるのかな……」


 昨日、あれだけ“不思議”を見せつけられたばかりだというのに。新たな存在は、それをさらに飛び越えてきた。どこかで感覚の針が壊れたような、そんな感覚すら覚える。


 そんな三人の横で、ため息混じりに聞こえた呟き。


「……またか。……俺が言ったからか?」


 その声は、シゲルだった。どこか諦めに似た調子でぼやくその姿に、クロは静かに頷く。


「はい。あの時の言葉で、少し――考えました。ウェンさんにもお話ししておきますね」


 不意に名を呼ばれたウェンは、朝食のパンを咀嚼したまま目を見開き、なんとも言えない表情で固まる。


 ノアはその様子を見て、複雑な感情を覚えた。クロの正体をまだ知らなかったのはこの場でウェンだけ。その彼女に真っ先に打ち明けるというクロの選択が、どこか嬉しいような――でも、急に真実を突きつけられるウェンが少しかわいそうなような、そんな入り混じった気持ちだった。


 そしてアヤコが眉をひそめ、クロへ向き直る。


「いいの? 本当に」


「ええ。だって……どこかの誰かさんが、この惑星の命まで賭けて、命懸けで暴露して、全力で説教してくれましたから。――ちょっとだけ、前に進んでみようかと」


 その淡々とした言葉に、場の空気が一瞬だけ止まる。ウェンは状況を掴めずに目を泳がせ、ノアは内心「やっぱりやると思った」と苦笑し、アヤコは――察した。


 そして次の瞬間、するどい眼差しがシゲルに向けられる。


「じいちゃん!!


 もうお酒捨てるからね!!」


「やめろォォォォォ――ッ!!」


 朝のリビングに、悲鳴に近い絶叫がこだました。


 その間、ぽかんとやりとりを眺めていたウェンが、こっそりノアに訊ねる。


「……これ、どういう流れ?」


「色々あってね」


 苦笑しながらもどこか楽しげに、ノアはそう答えた。


 そしてクロは、静かに、包み隠すことなく真実を語る。自分が“人間”ではないこと。この宇宙で最も危険とされる賞金首“バハムート”の本体であり、今ここにいるのはその分身体であるということ。


 最初は呆然としていたウェンも、シゲルの肯定、アヤコの証言、そしてなによりノアの静かな説得を受け――やがて真顔で、こくりと頷いた。


「……なるほど。うん、信じる。でも、もっと早く教えてくれてもよかったのに」


 少しだけふくれっ面になりながら、そう口を尖らせる。


 それに対して、クロは苦笑を浮かべながら話す。


「……自分をさらけ出すには、勇気がいります。……案外、難しいんですよ」


 その言葉に、ウェンははっとする。


(……たしかに。自分を全部さらけ出せって言われたら……私だってきっと無理。ノアだって、まだ話してないことある気がするし……)


 そう思いながら、静かにクロを見つめた。


 そう思いながら、静かにクロを見つめていると、シャワーを終えて戻ってきたエルデが、軽やかにリビングへと姿を現した。その瞬間――空気が、音もなく凍りつく。


 誰もが思わず動きを止め、自然とそのスタイルに視線が吸い寄せられていた。


 ウェンもまた、ぽかんとしたまま、じわじわと視線を落とす。自分の胸元、ウエスト、腰回り……。


(……え、負けてる。アヤコと優れている所を交換したとしても負け。これでも胸は大きいし、ウエストもそこそこ凹んでるんだけど……ノアは……あっ!)


 思わず横目でノアを盗み見ると、彼はうっすらと頬を染め、気まずそうに視線をそらした。


(なんで顔なんか赤らめてんの! 私だけにしなさいよ! ……あれ、なんでそう思っちゃったんだろう……もしかして……)


 その思考を断ち切るように、空気を読まない声が、唐突に響いた。


「なるほどな……そりゃ、男に変装させられるわけだ。親なりに、最後の情けだったのかもな」


 肩を揺らしながら笑っていたのはシゲルだった。


 そして、ちらりとアヤコとウェンに目をやると、口元にニヤリとした笑みを浮かべながら、とどめの一言を放つ。


「……にしても、お前ら――スタイル、完全に負けてるぞ」


「じいちゃんのつまみ、全部捨てるからね!!」


 アヤコの怒号が炸裂し、リビングに響き渡る。


 ウェンも同時に顔をしかめて頭を抱えた。


(むかつく! むかつく~! デリカシーのない爺め~~~!)


 賑やかな朝の空気のなかで――こうして、クロに“エルデ”という新たな家族が加わっていった。

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