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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
閑話 それぞれの目線
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閑話 ノア&ウェン 7 工具と夢と空間プリンター

 ウェンはマーケットの中を、物珍しそうにきょろきょろと歩いていた。ノアもまた、コロニーでは見たことのない商品や人々のざわめきに、思わず目を見開いてしまう。


 見たこともない工具や、独特なデザインの武器、さらには食品データやプログラムのようなデータ類まで、あらゆるものが露店や商店で取引されている。その雑多でにぎやかな空気に、“宇宙には、まだまだ知らない世界があるんだ”――そんな感覚が、二人の胸を高鳴らせていた。


 ふと目についた小さな店舗に興味を惹かれ、ノアと一緒に足を踏み入れると、工具同士がぶつかる乾いた金属音や、電子タグの読み取り音が天井に反響して耳に届く。


 照明は棚ごとに色温度が微妙に異なり、最新型の陳列棚は半透明の樹脂パネルと合金のフレームで組まれている。表面を撫でれば、ひんやりとした感触と滑らかなエッジが心地よい。ところどころ、奥まったガラスケースには希少な部品が静かに光を放ち、通路の床には店主手製らしい滑り止めの布が無造作に敷かれていた。


 ウェンは思わず息を呑む。


 中はプロ向けの工具やパーツが所狭しと並ぶ専門業者だった。


「……すごい! これ、共和国製のレーザーカッターだ!」


 陳列棚の一角で、珍しいラベルが貼られた精密な工具を見つけて、思わず声を上げる。


「それって、そんなにすごいの?」


 ノアが何気なく問いかけると、ウェンは一気に熱を帯びた声でまくし立てた。


「そりゃすごいよ! フロティアンからは遥か遠く離れた共和国の工具なんて、普通は手に入らないんだ。何カ国も経由して、送料も関税もばかみたいに上乗せされるのに……この値段、標準品より安いくらいだよ! しかも共和国の技術はフロティアンにほとんど流れてこない。そう考えると、このレーザーカッター一つとっても、詰め込まれてるノウハウや加工技術――もう、ロマンが詰まってるんだよ!」


 ノアが思わず苦笑いするほど、ウェンは早口で熱弁を振るう。


「もう、わかった。すごいってことは十分伝わった。でも……肝心の性能はそんなに違うの?」


 ノアが少し困ったように問いかけると、ウェンは肩に手を置き、真剣な目で首を横に振った。


「違う違う。ノア、そこがわかってないんだよ。性能は二の次なんだよ。大事なのは――その工具に込められた技術や発想、それ自体を手に入れることに価値があるの」


「……ってことは、やっぱり性能は微妙なんだね」


 ノアがぼそりとつぶやくと、ウェンは「ちがーう!」とちょっとむくれたように返す。そんな二人のやり取りを、店主が面白そうに眺めていた。


「……ま、いいや。これ、買っちゃおう!」


 勢いよく共和国製レーザーカッターを抱え上げると、ウェンは満足げにノアのほうへ差し出した。


「はい、ノア。荷物持ち、お願い!」


「……はいはい。どうせそうなると思ってたよ」


 ノアは苦笑しながらも、しっかりと工具を受け取る。ウェンは全く悪びれる様子もなく、もう一度店内を見回した。


「あと、これも買おうかな……」


 ウェンが新たに手に取ったのは、小型の四角い機械だった。


「それは?」


 ノアが興味半分で尋ねると、ウェンは得意げに胸を張る。


「空間プリンター! これと専用カートリッジがあれば、どこでもモデリングしたものが即座に出力できるんだよ!」


 興奮気味に説明するウェンを横目に、ノアは静かに説明文を読み込んでいた。そして、冷静な声で鋭く問いかける。


「へぇ、そんな便利なのがあるんだ……で、その専用カートリッジって?」


 その質問に、ウェンはあっけらかんと、当たり前のように答えた。


「共和国製じゃないと規格が合わないんだよね」


 その瞬間、ノアは眉をひそめ、即座にツッコミを入れる。


「じゃあ意味ないじゃん!」


「え、でも……夢があるじゃん?」


「いやいや、実用性ゼロじゃん!」


 ノアが思わず肩を落とすと、ウェンは「えー、使ってみたいのにな~」と残念そうにプリンターを棚に戻す。


 そんな二人のやりとりに、カウンター奥の店主はますます面白そうな笑みを浮かべ、他の客もちらりと彼らを振り返る。一部の常連客は、二人の初々しさに思わず嫉妬の炎を抱きかけたものの、やがてそのやりとりに微笑ましさが勝り、静かに視線を外す。


 しかし、当の本人たちはそんな周囲の空気にまるで気づくこともなく、興味の赴くままに店内を見て回っていた。

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