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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
二度目の目覚め
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偽りの少女と最初の依頼

 階段を下りると、グレゴが声をかけてきた。


「クロ。こっちに来い」


 案内されたのは、窓口の奥――備品管理スペースのような一角だった。


 そこには、一台の携帯端末と、小型のビームソード、ビームガン。それに、服と端末を吊り下げるためのベルトが、簡素に並べられていた。


「支給品だ。無くしてもいいが、次はない。補充はできんから注意しろ」


 そう言いながら、グレゴは端末を手に取る。


「それと、これにお前のギルドデータが入ってる。これだけは絶対に失くすな。討伐データや依頼の達成記録、報酬計算……全部ここに蓄積される。命より大事だと思え」


「わかりました。ありがとうございます」


 クロは小さく頷き、端末と装備を丁寧に受け取ると、静かに頭を下げた。


 その仕草は礼儀正しく、どこか古風ですらある。


「……お前、無関心なのか、それとも社交的なのかわからんな」


 グレゴは苦笑を浮かべながら、向かいのドアを顎で示す。


「着替えはそこの更衣室を使え。今は誰もいない」


 クロはもう一度お辞儀をし、静かに更衣室へと入っていった。


 その背を見送りながら、グレゴはぽつりと呟く。


「……変な奴だが、悪い奴じゃなさそうだ。……たぶん、な」


 クロは更衣室に入ると、そっと扉を閉め、室内を見回す。周囲に気配がないことを確認すると、小さく息を吐いた。


「……うまくいったのかは微妙だけど、なんとか職にはありつけた」


 先ほどまでの無表情が嘘のように、頬をゆるめ、表情がコロコロと変わっていく。


「もう、緊張した。っていうか、コロニーで野宿して襲われたって……無理あるだろ、あれ。いい案だと思ったんだけどなー。よくよく考えたら、突っ込みどころ満載じゃん」


 そう言いながら支給された服を広げ、目を細める。


「しかしさすが、SFって感じの服だな」


 無地の白いTシャツとジャケット、足首が絞られた作業用パンツ。端末を確認すると、どうやらカラーやロゴは自由に設定できるらしい。


 クロはTシャツを黒に、ジャケットは赤、ズボンは青に設定した。シンプルだが、動きやすそうな組み合わせだ。


 ベルトを締め、右腰に端末、左腰にビームソードを装着する。ジャケットの内側にはビームガン専用のホルダーもあり、そこに差し込んだ。


「……いい感じ」


 鏡を見て、軽く身体をひねって確認する。


 その表情がふと曇った。


「まさか、俺が……賞金首のトップとはな」


 呟きながら、端末を操作する。画面には、賞金首一覧の一番上に――あの黒いドラゴン、バハムートの姿が映し出されていた。


「うざかったから壊しちゃったけど……まさか、こんなことになるとはね」


 その声には、後悔も反省もなかった。ただ、ほんの少しだけ――面倒そうな響きが混じっていた。


 クロは端末の画面をスクロールし、バハムートに関する詳細データに目を通す。


 ――最高ランクのハンター部隊、全滅。その後も数多のハンターが挑むが、すべて失敗。わずかに生還した者たちの証言では、『対処は不可能』との結論。ただし、こちらから攻撃しない者には一切手を出さず、逃げる者も追わなかった。“手を出さなければ無害”という判断により、警戒対象としての記録は継続。存在自体が脅威とされ、注意喚起のためにも――最高額の賞金首として登録。


 そう、はっきりと記載されていた。


「大丈夫。もう現れないよ。なんせ……俺だし」


 クロは小さく笑うと、画面を閉じる。


 本体は、ロボットに姿を変えて隠れてるし。まさか、それがバハムート本人だなんて思うやつはいない。


 クロは肩をすくめて、小さく息を吐いた。


「この分身体も、意識リンクは問題ないし、ちゃんと動いてる」


 手を見つめ、開いたり握ったりを繰り返す。生体感覚も完璧。神経伝達も違和感なし。


「……ただ、なんで“女の姿”にしか分身体が作れなかったのかは謎。まあ、しょうがないけどさ。今さら戻す気もないし」


 苦笑を浮かべると、端末を腰のホルダーに戻す。


 更衣室を出ると、カウンターにいたグレゴがこちらに気づき、声を上げた。


「おお。中々に似合ってるじゃないか」


「ありがとうございます」


「依頼は端末からでも受けられるが、できればギルドに顔を出すことをおすすめする」


 クロは小さく首をかしげる。不思議そうな表情。


「更新は定期的に行われているが、ギルドでしか受付できない依頼もある。将来的に指名依頼が来たときは必ずギルドで契約が必要になる。今のうちに慣れておいたほうがいい。それに、先輩から直接アドバイスをもらえることもあるからな」


「なるほど……」


 クロは静かに頷いた。


「以上だ。依頼はあそこの掲示板か、各テーブルの端末で確認できる。まずはFランクからこなしてもいいし、腕に自信があるなら賞金首を狩っても構わん。ただし、すべて自己責任だ。それを頭に入れておけ」


「わかりました。いろいろとありがとうございます」


 クロは丁寧に頭を下げ、ギルド内のテーブル席に向かう。


 その背に、グレゴがもうひと声かけた。


「あと一つ。後でいいから、クロの機体をギルドに登録しておいてくれ」


「了解です」


 短く答え、ようやく会話が終わった。


 クロは静かに腰を下ろし、端末を操作する。次々と表示される依頼の一覧。その中で、ひとつの小さな依頼が目に留まった。


『猫探し:白い猫を探しています。耳に赤いリボン、尻尾に鈴。14地区の住宅区で行方不明になりました。報酬:1万C』


 画面下部には「承諾」のボタンが表示されている。


「……手始めに、これにするか。依頼主は14地区か。直接、話を聞いたほうが早そうだな」


 そう呟いて承諾ボタンをタップすると、端末に依頼主の住所が表示された。


「……真上? ああ、コロニーだからか」


 座標を見て軽く目を細めると、クロは静かに立ち上がった。

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― 新着の感想 ―
ほうほう?本体をロボにして分体を人に!これは良いアイディアですね(๑•̀ㅂ•́)و✧ めちゃ強ロボに美少女パイロットはなかなか萌え…じゃなくて燃えますね! それにしても少女にしかなれない....つまり…
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