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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
閑話 それぞれの目線
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閑話 ノア&ウェン 2 任された背中と“ナイト”の誓い

 その宣言通り、シゲルはきっちりと動いていた。それは、ランドセルの発艦準備が始まるよりも前――ブリッジに全員が揃ったあの場から、すでに仕掛けられていた。


「お前はウェンの護衛だ。絶対に守れ! 傷でもつけたら、アルカノヴァをクロに頼んでバラバラにしてやるからな!」


 やや芝居がかった口調だったが、その“冗談めかした圧”がノアにとっては完全に指令として響いたようだった。ノアはぴしりと姿勢を正し、真剣な眼差しで言い切る。


「……分かりました! 必ず、命に代えてもお守りします!」


 あまりにもまっすぐな気迫に、ウェンの頬がほんのりと染まった。


 シゲルとアヤコは黙ってその様子を見守っている。からかうでもなく、止めるでもなく――それがかえって、余計に気恥ずかしい。


「も、もう、そんなに気を張らなくてもいいってば。ノア、よろしくね」


「はい、ウェンさん……お願いします」


 丁寧すぎる返答に、ウェンは小さく笑って首を振る。


「“ウェン”でいいよ。改まると変な感じだし、友達なんだから」


 照れ隠しのような微笑みだったけれど、気持ちは本物だった。


 ノアは一瞬きょとんとしたあと、少しだけ頬を赤くしながら、素直に頷いた。


「……うん、分かった。よろしく、ウェン」


 そのやり取りを、アヤコはにやにやと面白がりながら眺めていた。そして、当のシゲルも同じように、口元にわずかな笑みを浮かべている。


 こうして、ランドセルでの旅が、静かに――けれど確かに、始まった。


 そして、海賊の襲撃が始まった――。


 シゲルは、あえてクロではなく、ノアを出撃させる決断を下していた。それは試練であり、信頼でもあった。


 艦内に鋭い警告音が響き渡る。重低音の電子音が鳴り終わると同時に、艦内通話用スピーカーから、シゲルの低く鋭い声が放たれる。


『――ノア、仕事だ。背後に海賊が接近中。戦艦は中身が欲しいから“航行不能”で構わん。それ以外は、容赦するな』


 リビングの空気が、瞬時に張り詰める。壁のスクリーンにはまだ映画が映っていたが、誰もその続きを見る者はいなかった。


「ノア、遠慮はしないように。賞金首がいれば、すべて貴方の手柄です」


 クロはソファに深く腰を沈めたまま、視線を逸らさずに静かに言った。


「私は今回は戦力外。なので、任せましたよ」


 口調こそ穏やかだが、その言葉には“重さ”があった。それは単なる任務ではない。ノアならやり遂げる――そう信じる者にしか放てない、揺るがぬ言葉だった。


 ノアはその真意を感じ取り、わずかに息を吸い込むと、静かに立ち上がる。その背にクロの信頼と、もしものときは自分が片をつけるという“影”の覚悟すら感じ取れた。その重さを理解した上で――ノアは応える。


「ノア、頑張ってね」


 ウェンのその一言に、ノアの目の色が変わった。


(――ウェンを守る。そのために力を使う)


 覚悟は、確かな決意に変わった。


「――行ってくる」


 静かに、しかしはっきりと告げると、ノアは足早に下部の積載スペースへと向かっていく。その背を、ウェンはじっと見送っていた。唇をかすかに噛みしめ、視線の奥には拭いきれない不安が滲んでいる。


 一方、その様子を見ていたアヤコは、肩をすくめながらにやりと笑った。


「……なんか、青春してるじゃん」


 誰も返事はしなかった。三者三様の思いが交差し、リビングの空気は、確かに変わっていた。


 やがて、クロが一度席を立ち、リビングにはウェンとアヤコのふたりだけが残された。スクリーンは無音のまま流れ続けている。だが、そこに意識を向ける者はいない。


「……心配?」


 アヤコが、少し茶化すような笑みを浮かべて問いかける。


 ウェンは小さく首を振り、けれどすぐに――正直に答えた。


「心配。心配だよ! だって海賊なんだよ?」


 その反応は、想像以上に真剣だった。


 アヤコは目を瞬かせる。クロが軽くあしらうように敵を退けてきたため、感覚が麻痺しかけていた自分に気づき、苦笑がこぼれた。


(あれ……もしかして私、クロに常識壊されてる?)


 そう思いながらも、アヤコは静かに、優しく言葉を返す。


「大丈夫だよ。そろそろ片付いてる頃だと思う」


「なんでそんなこと言えるの……?」


 不安に揺れるウェンの声。その横顔を見ながら、アヤコは言い切る。


「だって、ノアはハンターだよ。それに、あの専用機を持ってる。負けないよ。こんなところでやられてるようじゃ、おじいちゃんが連れてきたりしないし――ウェンの“ナイト”に指名したりもしないって」


 その言葉に、ウェンは一瞬、目を見開いた。


 不安は消えない。けれど、その言葉は確かに、胸の奥に温かく灯をともした。

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