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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
転生者とマーケット
226/308

露見と理解、店先のささやき

活動報告を更新いたしました。

本日で、投稿を開始してから二か月が経ちました。


ここまで続けてこられたのは、ひとえに応援してくださる皆さまのおかげです。

心より感謝申し上げます。


これからも精一杯物語を紡いでまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 お祭り騒ぎのような歓声の中、警備隊が駆けつけ、クロの拘束していた男の身体検査が行われた。


 男の胸ポケットから、アヤコの端末があっさりと見つかったことで、彼の犯行は確定される。


「――間違いないな。連行する」


 淡々とした隊員の声と共に、男は引きずられるようにして人の波の中へ消えていった。


 それと同時に、興奮冷めやらぬ群衆からは、


「面白かったなあ」「あんなの初めて見た」「もうちょっと続けばよかったのに」


 ――そんな無責任な感想が飛び交いながら、少しずつその場を離れていく。


「クロ~、ありがと! でも、やりすぎ!」


 アヤコが駆け寄り、笑顔のまま苦笑いを浮かべて声をかけた。


 嬉しさと驚き、そして少しの苦言。そのバランスが、今の彼女の正直な気持ちだった。


 ノーブルもゆっくりと歩み寄り、腕を組みながら言葉を投げる。


「うむ。私が見つけなければ、どうしていた?」


 問いかけに、クロは一拍の間すら置かず、無表情のまま答えた。


「さすがに切りはしません。顔面の形を変える程度です。以前も、変えた人がいますから」


 淡々と告げられた“前例”に、アヤコは言葉を失い、ノーブルは思わず額に手を当てた。


「……まあいいでしょう」


 そう締めくくるように呟いたクロは、話題を切り替えるようにノーブルへと目を向けた。


「本当に今日、いらしてたんですね」


 ノーブルは頷きながら、ゆっくりとアヤコのほうへ視線を移す。


「うむ。久しぶりに、アヤコの顔も見ておきたくてな」


 思いがけない言葉に、アヤコは目を丸くする。


「えっ……会ったこと、ないと思いますけど……?」


「そうだな。初めて会った時は、君はまだ生まれたばかりだった。それに、私もまだ幼かったからな」


 ノーブルはそう言いながら、アヤコに手を差し出した。


「私は、ノーブル・レッドライン。遠縁の親戚だ」


 あまりにも自然に名乗られた“レッドライン”の姓に、アヤコは迷いなく手を取る。


「そうなんですね! すみません、親戚の方に会うの、初めてで。アヤコです!」


 二人はしっかりと握手を交わし、ふとアヤコが尋ねる。


「ところで、ノーブルさんはクロに会ってたんですね。何か、用事が?」


 その問いに、ノーブルは苦笑を浮かべる。


「シゲルとクロに聞きたいことがあってな。店に向かっていたところで、ちょうどこの騒ぎに巻き込まれてしまった」


 そして、ゆっくりとクロへと目を向ける。


「警備員を呼びながら様子を見に来たら……ビームソード片手に大立ち回りをしているクロがいてな」


 その言葉に、クロはまるで心当たりがないかのように首をかしげる。


 ノーブルはくすりと笑い、言葉を続けた。


「ここで会ったのも、何かの縁だ。少し、そこの店で話をしないか?」


 ノーブルが指さした先には、マーケットの喧騒とは趣の異なる、静かで落ち着いた佇まいの店があった。


 アヤコは首をかしげ、目を細める。


「……あそこ、初めて見る店構えだ。それに――獣人さんだ!」


 驚き混じりに声を上げるアヤコの視線の先では、犬のような耳と尻尾、あるいはタヌキに似た特徴を持つ獣人たちが、手際よく店の中で働いていた。


 店の入口には風変わりな布飾りが揺れ、香のような甘い香りが微かに漂ってくる。並べられている道具の形状も、どれひとつとして見慣れたものではなかった。


 そんな異国情緒あふれる光景を目にしながら、クロは静かに呟く。


「……魔族のいた地方にも、似たような種族がいました。懐かしいですね」


 その瞬間――


「ちょ、ちょっとクロっ!」


 アヤコは慌ててクロの口を押さえた。


 顔を引きつらせながら、素早く耳元に顔を寄せ、小声でささやく。


「だからそういうの、ダメなの! 正体バレるような発言は控えてってば……!」


 囁きを終えると、アヤコはそっと手を離し、ノーブルの方へ振り返った。


「いや~、クロってちょっと不思議な子なんですよね、あははははぁ~~……」


 笑いながらも、内心では冷や汗をかいているのがありありと伝わるアヤコの様子に、ノーブルは目を細め、ほんのわずかに口元を緩めた。


 そして、静かに一歩近づくと――今度は彼女が、アヤコの耳元に顔を寄せる。


「安心しろ。昨日、シゲルから強制的に聞かされたよ。この子が“バハムート”だということをな」


 囁くようにそう告げてから、ノーブルはそっと顔を離し、正面からアヤコの瞳を見つめた。


 次の瞬間、アヤコの表情が固まる。


 目を見開き、口を半開きのまま――


 そして、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。


 それは、驚きと動揺、そしてある種の恥ずかしさが一気に押し寄せた結果だった。

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