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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
転生者とマーケット
211/468

死神の名はクロ

誤字脱字の修正しました。

ご連絡ありがとうございました。

 一機、また一機と斬り伏せられ、囲まれようともすれ違うだけで相手は真っ二つになる。アルカノヴァの剣が閃くたび、宇宙に火花が散るように敵影が消えていく。


 海賊たちの悲鳴がオープンチャンネルにこだまし、恐慌と混乱が広がる中でも、ノアはただ一心に刀を振るい続けた。


 そしてついに、敵の戦闘機と機動兵器はほぼ壊滅。わずかに残った一隻の戦艦が、後退の航路を開いて逃げ出そうとする。


「……逃がさない」


 ノアが静かに宣言すると同時に、アルカノヴァのスラスターが火を噴いた。瞬時に加速し、音もなく接近。そのまま滑り込むように戦艦の艦橋へと斬り込む。


 切断された艦橋が宇宙に浮かび、船体がふらつきながら制御を失っていく。


 ノアはオープンチャンネルを開き、敵全体に向けて初めての“言葉”を放った。


「……もう諦めろ。お前たちは終わりだ」


 その静かな言葉が宇宙に響いた直後――


『まだ、甘いですね。本番はこれからですよ』


 耳慣れた声が通信に割り込む。


「……えっ、クロさんの声?」


『はい、今、肩にいます』


 あまりにもさらりと告げられ、ノアは思わず右のモニターへ視線を送る。すると、そこには服を宇宙服モードに変化したクロの姿が――肩に、しっかりと乗っていた。


「どうやって……!? あの、ここって宇宙ですよ!?」


『転移しました。いつも通りです。中の掃除は私がしますので、ノアは外に逃げてくる敵の処理をしておいてください』


 あくまで自然体のクロに、ノアは理解したような、していないような反応で返した。


「は、はい……了解、です」


 クロは肩からふわりと跳躍し、無重力空間をまるで歩くように戦艦へ向かっていく。


 その姿を見送りながら、ノアはぽつりと呟いた。


「絶対、中の人の方が地獄みたいな戦いになるな……」


 ノアの予想は、的中していた。


 ――戦艦内部は、まさに“地獄”だった。


 艦橋を切り落とされて制御を失った海賊船内には、混乱した船員たちが逃げ場もなく蠢いていた。その最中、ふわりと無音で歩くように内部に入り込んだ少女――クロ。小柄なその姿は、戦場に似つかわしくないはずだった。


「敵!? ……何だ、子供じゃねぇか!」


「一人で何ができるッ!」


 声が飛ぶ。罵声と怒声、そして銃のスライド音が連鎖する。


 しかし――クロの目は、微塵も揺れていなかった。


 宙に身を乗せたまま、ただ静かに相手を見据える。彼らが「子供」と侮るその姿は、しかし本質からかけ離れていた。


「どうぞ、好きなように。その代わり、死ぬ覚悟は決めてきてください」


 クロはそう言い残し、リボルバーを手にゆっくりと歩き出す。遮蔽物に身を隠すこともなく、ただまっすぐに――敵の正面を、恐れもせずに進む。


 一瞬、海賊たちの動きが止まった。だが、すぐに怒号と共にビームと実弾の嵐が降り注ぐ。


 しかし――そのすべてが、クロに届くことはなかった。弾丸もビームも、彼女の身体に届く前に、ふっと霧散するように空中で掻き消える。まるで、その存在そのものが物理法則を歪ませているかのように。


「さて――リボルバーの本領発揮と、いきますか」


 静かに呟きながら、クロは指を動かす。リボルバーが放つ一発の光弾は、ブレることなく額を撃ち抜き、即座に敵を絶命させる。


 引き金を引くたびに、一人、また一人と崩れ落ちていく。クロの動きは一切変わらない。歩幅も速度もそのまま。ただ、確実に、死だけがその場に積み上がっていく。


 前方から突撃してきた者に対し、クロは腰のビームソードを抜き放った。鮮烈な蒼い刃が閃き、迫る敵兵の上半身を無造作に切り裂いていく。その動きに感情はなく、殺意すら淡い。だが、そこにあるのは――絶対的な“死”だった。


「シールドだ! 誰か、盾を持ってこい!」


「無駄ですよ」


 敵がシールドを展開した瞬間、クロはリボルバーの出力を最大に切り替える。同時に、装填されていたエネルギーCAPを別空間を通じて瞬時に満充電のCAPに装填し直す。生成された極限出力の一撃は、厚みのあるエネルギーシールドを粉砕し、背後の数名をも巻き込んで貫通した。


 その場に響いたのは、爆音ではない――静かに焼き切られるような音だけ。断末魔を上げる暇すら与えず、敵の命を静かに、正確に、奪っていく。


「言っておきますけど。誰ひとり逃しません。終わり次第、“塵”にしてあげますので……安心してください」


 その声は柔らかく、冷たい。だが、敵にとっては、人生で最も安心できない“死の宣告”に他ならなかった。


 パニックに陥った海賊たちが散り、逃げ道を探して通路へと走る。だがその先、角を曲がった瞬間――


「遅いですね」


 すでにそこに立っていたクロが、再びリボルバーを構える。反応する暇など与えず、一撃、また一撃。逃げる背を撃たれる者、曲がり角で切り伏せられる者。


 艦内は、やがて沈黙と死の香りに包まれていく。

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― 新着の感想 ―
うーん無理ゲー。いや、ゲーム成立する余地もない圧倒的戦力差。 ま、日頃の行いが悪かったって事で。
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