死神の名はクロ
誤字脱字の修正しました。
ご連絡ありがとうございました。
一機、また一機と斬り伏せられ、囲まれようともすれ違うだけで相手は真っ二つになる。アルカノヴァの剣が閃くたび、宇宙に火花が散るように敵影が消えていく。
海賊たちの悲鳴がオープンチャンネルにこだまし、恐慌と混乱が広がる中でも、ノアはただ一心に刀を振るい続けた。
そしてついに、敵の戦闘機と機動兵器はほぼ壊滅。わずかに残った一隻の戦艦が、後退の航路を開いて逃げ出そうとする。
「……逃がさない」
ノアが静かに宣言すると同時に、アルカノヴァのスラスターが火を噴いた。瞬時に加速し、音もなく接近。そのまま滑り込むように戦艦の艦橋へと斬り込む。
切断された艦橋が宇宙に浮かび、船体がふらつきながら制御を失っていく。
ノアはオープンチャンネルを開き、敵全体に向けて初めての“言葉”を放った。
「……もう諦めろ。お前たちは終わりだ」
その静かな言葉が宇宙に響いた直後――
『まだ、甘いですね。本番はこれからですよ』
耳慣れた声が通信に割り込む。
「……えっ、クロさんの声?」
『はい、今、肩にいます』
あまりにもさらりと告げられ、ノアは思わず右のモニターへ視線を送る。すると、そこには服を宇宙服モードに変化したクロの姿が――肩に、しっかりと乗っていた。
「どうやって……!? あの、ここって宇宙ですよ!?」
『転移しました。いつも通りです。中の掃除は私がしますので、ノアは外に逃げてくる敵の処理をしておいてください』
あくまで自然体のクロに、ノアは理解したような、していないような反応で返した。
「は、はい……了解、です」
クロは肩からふわりと跳躍し、無重力空間をまるで歩くように戦艦へ向かっていく。
その姿を見送りながら、ノアはぽつりと呟いた。
「絶対、中の人の方が地獄みたいな戦いになるな……」
ノアの予想は、的中していた。
――戦艦内部は、まさに“地獄”だった。
艦橋を切り落とされて制御を失った海賊船内には、混乱した船員たちが逃げ場もなく蠢いていた。その最中、ふわりと無音で歩くように内部に入り込んだ少女――クロ。小柄なその姿は、戦場に似つかわしくないはずだった。
「敵!? ……何だ、子供じゃねぇか!」
「一人で何ができるッ!」
声が飛ぶ。罵声と怒声、そして銃のスライド音が連鎖する。
しかし――クロの目は、微塵も揺れていなかった。
宙に身を乗せたまま、ただ静かに相手を見据える。彼らが「子供」と侮るその姿は、しかし本質からかけ離れていた。
「どうぞ、好きなように。その代わり、死ぬ覚悟は決めてきてください」
クロはそう言い残し、リボルバーを手にゆっくりと歩き出す。遮蔽物に身を隠すこともなく、ただまっすぐに――敵の正面を、恐れもせずに進む。
一瞬、海賊たちの動きが止まった。だが、すぐに怒号と共にビームと実弾の嵐が降り注ぐ。
しかし――そのすべてが、クロに届くことはなかった。弾丸もビームも、彼女の身体に届く前に、ふっと霧散するように空中で掻き消える。まるで、その存在そのものが物理法則を歪ませているかのように。
「さて――リボルバーの本領発揮と、いきますか」
静かに呟きながら、クロは指を動かす。リボルバーが放つ一発の光弾は、ブレることなく額を撃ち抜き、即座に敵を絶命させる。
引き金を引くたびに、一人、また一人と崩れ落ちていく。クロの動きは一切変わらない。歩幅も速度もそのまま。ただ、確実に、死だけがその場に積み上がっていく。
前方から突撃してきた者に対し、クロは腰のビームソードを抜き放った。鮮烈な蒼い刃が閃き、迫る敵兵の上半身を無造作に切り裂いていく。その動きに感情はなく、殺意すら淡い。だが、そこにあるのは――絶対的な“死”だった。
「シールドだ! 誰か、盾を持ってこい!」
「無駄ですよ」
敵がシールドを展開した瞬間、クロはリボルバーの出力を最大に切り替える。同時に、装填されていたエネルギーCAPを別空間を通じて瞬時に満充電のCAPに装填し直す。生成された極限出力の一撃は、厚みのあるエネルギーシールドを粉砕し、背後の数名をも巻き込んで貫通した。
その場に響いたのは、爆音ではない――静かに焼き切られるような音だけ。断末魔を上げる暇すら与えず、敵の命を静かに、正確に、奪っていく。
「言っておきますけど。誰ひとり逃しません。終わり次第、“塵”にしてあげますので……安心してください」
その声は柔らかく、冷たい。だが、敵にとっては、人生で最も安心できない“死の宣告”に他ならなかった。
パニックに陥った海賊たちが散り、逃げ道を探して通路へと走る。だがその先、角を曲がった瞬間――
「遅いですね」
すでにそこに立っていたクロが、再びリボルバーを構える。反応する暇など与えず、一撃、また一撃。逃げる背を撃たれる者、曲がり角で切り伏せられる者。
艦内は、やがて沈黙と死の香りに包まれていく。