ノア、罪と共に斬り拓く空
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ノアはアルカノヴァのコックピットで、輸送艦の背後から接近する三隻の海賊艦を捉えていた。すぐに武器スロットを操作し、長距離射撃用のクォンタムライフルを選択する。右腕のユニットが反応し、光の粒子が凝縮されるとともに、機体の腕部にライフルが展開されていく。機構音と共に形成されるそれを、ノアは一度静かに見つめた。
「……ゲームじゃない。これは、現実だ」
誰に言うでもなく、己へ言い聞かせるように声が落ちる。あの時の記憶が、指先に残っていた。何の意味も分からず、命を奪った日々。無数の光が、自分の手で消えていった感触。
「……無差別に命を奪ってきた僕に、誰かを裁く資格なんて、ない。言葉を向ける資格すら、本当はない」
言葉と共に、胸の奥に鈍い痛みが広がっていく。けれどその痛みは、もう“後悔”だけではなかった。
「でも……だからこそ。今度こそ、間違えたくない」
彼の中に宿ったのは、背負った罪をただ悔やむのではなく、向き合って生きるという決意だった。
ノアはライフルを構え、照準システムを起動させる。敵艦の艦橋がスコープに捉えられ、照準マーカーが赤く染まった。
「あの輸送艦には……僕を救ってくれた人たちが乗ってる。信じてくれる人がいる」
クロ、クレア、アヤコ、ウェン、そしてシゲル――誰ひとりとして、自分を“道具”扱いせず、名も過去も奪わなかった。その存在が、今の自分を形作っている。
「君たちは殺戮者だ。そう選んで、そう生きている」
――けれど、それでも、迷いがないわけじゃない。引き金を引くという行為は、今も怖い。誰かを撃っていいなんて、自分にその資格があるのか……答えはまだ出ていない。
けれど、それでも。この輸送艦には、僕を信じ、僕を救ってくれた人たちがいる。その人たちを、今度こそ守りたい。
だから――僕は撃つ。
もう、操られたりはしない。僕は僕の意志で、この道を選ぶ。
「だったら……僕も、僕の道を行く」
トリガーに添えた指に、静かに力がこもる。ロックオンマーカーが点滅を止め、確定音がコックピットに静かに響いた。
「二度と、操られはしない。僕は、自分の意志で――生きる!」
その言葉と同時に、クォンタムライフルが光をまとい、閃光を放った。高密度量子が一条の光となって宇宙を駆け、音もなく――だが確実に、敵艦の艦橋を貫き、制御を失った船体が惰性のまま漂い始めた。
それは、ノアが自らの意志で放った、“これから”を告げる第一撃だった。
そして、それを皮切りに戦闘が始まった。
オープンチャンネルを通じて、海賊たちの怒号が飛び交う。
「クソッ、やられたか!」
「先に輸送艦を抑えろ!」
「いけ! 手っ取り早く奪って逃げるぞ!」
艦橋を破壊された戦艦のほか、残る二隻からも、継ぎはぎだらけの戦闘機や機動兵器が続々と射出されていく。
それを見届ける間もなく、ノアは叫んだ。
「まずは戦闘機から落とす! ――行くぞ、アルカノヴァ!」
武器スロットを切り替えると、左右の腕部に展開されたビームマシンガンが輝く。放たれる火線と共に、ノアは戦闘機編隊へと肉薄し、回避行動すら取らせる間もなく次々と撃ち落としていく。
機体が弾け、断末魔の叫びが通信越しに漏れる。その音が、かつて無差別に命を奪っていた自分の記憶を呼び起こす。
胸の奥に、あの冷たい重みが一瞬よぎる――だが、ノアは歯を食いしばった。
「……迷わない!」
その一言に、迷いも罪も、すべて封じ込めた。今、守るべきものがある。過去に縛られている暇はない。
そしてノアは、さらなる加速と共に、戦場を駆け抜ける。アルカノヴァの両腕のビームマシンガンが火線を吐き、次々と戦闘機を撃ち落としていく。編隊は散り、残骸が無音の宇宙空間に火花を散らす。
次に現れたのは、海賊艦から放たれた起動兵器部隊――近接戦仕様の機体が数を揃え、ノアに肉薄してくる。ノアは武器スロットを切り替えた。
選択されたのは、あの実体剣――バハムートの体に唯一、傷を刻んだ二振りの刀。右手に『ムラマサ』。左手に『マサムネ』。
その刀は、神の国で鍛えられた神鉄であり、ノアの絶対切断のスキルが付与された、名実共に“斬るための刃”だった。
ビーム、実弾、ミサイル――敵のあらゆる攻撃が襲いかかる中、ノアは一切の迷いなく切り込む。跳弾すら許さず、すべてを斬り裂く。軌道を見切り、迎撃すら追いつかない速度で切断していく姿は、まるで重力さえ無視する幻影のようだった。
そして、接近してきた機動兵器が次々と一刀のもとに断たれる。装甲を斬り裂かれ、内部機構ごと断ち割られた敵機体が、まるで紙細工のように沈黙していく。
「な、なんだあれは……!?」
「剣……いや、化け物か……!」
オープンチャンネル越しに、海賊たちの声が恐怖に染まる。
だがノアは、何も返さない。その視線はただ前を見据え、迷いなく、静かに――すべてを斬り裂いていく。