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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
転生者とマーケット
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武装の芽吹き、拘束の弾奏

 だが次の瞬間、クロはホログラムに浮かぶダイヤルの設計図をじっと見つめ――小さく首を傾げた。


「……5mまでは、必要ないですね。3m程度で、充分かと」


 控えめながらも断定的なその意見に、スミスは即座に頷いた。


「そうだな。クロの体格からすれば、3mが限界点だろう。あとは、展開速度とのバランスだな。……ダイヤル設定は、0.5m刻みに調整した方がいい。重さと遠心力で振り切れなくなったら、それこそ自滅する」


 実戦を知る者として、そして技術者としての両面からの指摘。その目は真剣でありながら、どこか静かな信頼を込めてクロを見ていた。


「“1”と“2”までは上方向のみ。“3”以降は両端伸長型で、“戦棍”としての形状。……それで設計を組み直すのが、いいだろうな」


 クロはその言葉にゆっくりと頷き、目を閉じる。そして次に開いたときには、再び淡々とした声で確認を入れる。


「……では、中身の話です。スライムカートリッジ、実運用は可能ですか?」


 間髪入れず、ウェンが勢いよく頷いた。


「もちろん!」


 その声に迷いはない。


「カートリッジのサイズと長さによるけど、小型なら最大2回、中型なら最大4回まで使用できる設計にしてあるよ!」


 そこには、失敗を恐れず開発に挑んだ自信と、クロへの信頼があった。


 クロがひとつ頷くと、ホログラムの表示が切り替わった。


「スライムロッドに関しては、これでいいと思います。――では次、開発資金の試算は?」


 問いかけに、ウェンが待ってましたとばかりに端末を操作し、新たな試算表を投影する。


「だいたい、100万Cを予定してるよ。一からやるから、材料の調達と試作、工程の最適化を含めてちょっと多めに見積もってる」


 アヤコが横から補足を入れる。


「試算は私がサポートしました。資材価格の変動を加味して、必要最低限からの余裕分を含めた範囲です」


 クロはホログラムに目を落としながら、ふとスミスに視線を向ける。


「……プロの目から見て、この試算は妥当でしょうか?」


 その問いに、スミスはゆっくりとサングラスを額に上げ、やや厳しい目つきで投影された数字を見つめた。


「――まだ甘いな。けど、それも経験ってやつだ。クロが納得するなら、試作に入っても構わない。ただし……増額は覚悟しておいた方がいい」


「父さん!」


 ウェンが思わず語気を強めるが、スミスは気にする様子もなく静かに言葉を継ぐ。


「いいか。シミュレーションは所詮シミュレーションだ。現場では、予測外のトラブルが必ず起きる。その時、想定したギリギリの資金じゃ立ち行かなくなる」


 そこには、長年技術者として現場に関わってきた者の実感が込められていた。


「このままのコストで完成すれば万々歳だが……現実ってのは、大抵そんなに甘くはない」


 静かな口調の中に、警告とも言える重みが宿る。


 クロは真剣な表情で試算表をじっと見つめたまま、やがてひとつ、深く頷いた。


「……経験は大事ですね。では、この内容で進めましょう。足りなくなった場合は、随時報告をお願いします。――その都度、追加で出しますので」


 淡々と、しかし明確な責任の意志を示す言葉だった。


 その姿を横目で見たスミスは、ふっと小さく笑い、サングラスをゆっくりとかけ直す。


「……甘いな、クロは。シゲルさんや俺なら、そう簡単には出させないが――依頼人がそこまで言うなら、やってみろ」


 それは半ば皮肉でありながら、どこか信頼と期待のにじむ一言でもあった。


 ウェンとアヤコは、わずかに悔しさをにじませながらも、開発の許可が下りたことに安堵の息をつく。そしてすぐに切り替え、次の設計図をホログラムに映し出した。


「――今度こそ、文句は出ないと思うよ。次はスライムガン!」


 そう宣言すると、ウェンはスライドを操作しながら自信満々に説明を始めた。


「これはね、昔あった“スライムガン”を、現代風にアレンジしたもの。外見はコンパクトだけど、中身はまったくの別物だよ」


 ホログラムにはガンの外観と分解図が浮かび上がり、続けてアヤコが補足に入る。


「当時のスライムガンは鎮圧用だったの。射出と同時にスライムが硬化して、相手を気絶、場合によっては瀕死状態に追い込むっていう……まあ、今だと危険すぎて“ゴム弾でよくない?”ってことで廃れちゃった」


 アヤコが肩をすくめながら言うと、ウェンが笑い混じりに頷きつつ、解説を引き継ぐ。


「でも今回はね、“拘束”に重きを置いて設計したんだ。相手を倒すんじゃなくて、動けなくすることに特化したんだよ」


 そう言うと、彼女は操作パネルをタップし、弾丸の拡大映像を表示する。


「――これが専用弾。9㎜弾サイズの中に、スライムを高圧で圧縮充填してある」


 映し出されたのは、銀色の外殻の中にうっすらと青緑の粘性体が詰まった小さな弾丸だった。


「着弾すると、衝撃で外殻が破れて……中のスライムが一気に拡散。瞬間的に空気と反応して硬化するって仕組み。広がった時のサイズは、大体手のひらくらいになるように調整してある」


 説明を終えたウェンは、どこか誇らしげにアヤコと目を交わす。

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