表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
二度目の目覚め
19/463

ロボットらしさの代償と、クロの決意

「さて……これで、俺の秘密はすべて話した」


 クロは無重力の中で静かに言葉を置いた。


「何か質問はあるか?」


 しばらくの沈黙ののち、アヤコが少し首をかしげながら口を開く。


「……本体って、あの後ろにいる“でっかいの”なんですか?」


 その声には、さっきまでの硬さが和らぎ、少しずつ“いつもの調子”が戻りつつあった。


 クロは頷く。


「そうだ。元々はもっと大きかった。……頑張ってこのサイズまで縮めたんだ。あとは見た目を“ロボットっぽく”擬態してるだけ」


「だから、IDとコックピットの処理に困ってたんだね。でも、正直……それでも、まだ“でかすぎる”と思うよ?」


 アヤコがやや呆れ気味に肩をすくめると、クロは逆に首をかしげる。


「そうか? 俺的には、かなり頑張って“小さく”したつもりなんだが……」


 そして、ためらうことなく続ける。


「これ以上は……正直、もう無理だ」


 その一言に、アヤコとシゲルは顔を見合わせて、思わず小さく吹き出しかける。ようやく――ほんの少し、緊張が緩み始めていた。


「……俺からも、ひとつ聞きたいことがある」


 シゲルがふと姿勢を変え、正面からクロを見据える。


「なぜ、“ロボット”に擬態した?」


 その問いには素朴な疑問と、少しばかりの困惑が混ざっていた。


「擬態するなら、たとえば戦艦とか。もっとサイズ的にも自然な選択肢があるだろ。わざわざその形にした理由は?」


 クロはほんのわずかに沈黙し――答える。


「……カッコいいから、だが?」


 間の抜けたような答えに、シゲルの眉がぴくりと跳ねた。


「……それだけか?」


「それだけだ」


 即答だった。何の迷いもない。


 シゲルは、しばらくの沈黙のあと、ふぅと肩を落としながら小さく笑った。


「お前……ほんとに、“最強”って恐れられたバハムートなのか……?」


 呟きには呆れと、ほんの少しだけ――親しみが混ざっていた。


「ああ、最強種のバハムートであることに――間違いはない」


 クロはゆっくりと、己を示すように両手を広げて続けた。


「……けれど同時に、女神に騙され、ただ命じられるままに数千年を過ごした――無知な少女でもあるんだ」


 その告白に、アヤコとシゲルが無言で顔を見合わせる。


 そしてクロは、真正面からふたりに問いかけた。


「……教えてくれ。どうすれば、俺は“ロボットっぽく”なれる? どうすれば――俺、この機体を、正式に登録できる? IDとコックピットの問題を……どうすれば、解決できる?」


 真剣な眼差しがふたりに向けられる。それは威圧でも懇願でもなく、“助けを求める”という、ごく人間らしい姿だった。


 アヤコが小さく息を吐き、肩をすくめる。


 シゲルはふっと口元を緩め、いつもの調子で言った。


「……わかった。協力してやろう」


「でもね――」


 とアヤコが指を立てる。


「料金はしっかりもらうからね? 格安ではないぞー?」


 その言葉に、クロは小さく笑って頷いた。


「……ああ。俺――いや、わたしは“クロ”」


 自分の胸に手を当てる。


「ただの少女だ。それで……構わない」


「――なら、さっそく取りかかろうか」


 アヤコが浮かびながら、じっと巨大な本体を見上げて言う。


「もう少し……金属っぽい光沢って出せない? 今の質感もすごいけど、やっぱ“機体登録”ってなると見た目は重要だし」


 クロは静かに頷いた。


「……了解。いったん分身体から本体へ意識を戻す」


 そう言うと、少女の姿――分身体は無重力の中でふわりと本体の巨体へ近づき、装甲に手を触れた。


 その瞬間、まるで光が溶けるように分身体は姿を消し、本体と一体化する。そして――次の瞬間、バハムートの巨体から、直接声が響いた。


「……あ~、聞こえるか? 声が大きすぎたりしないか?」


 その声は低く響いていたが、無駄な威圧はなかった。むしろ、調整を気にする様子に、シゲルとアヤコはほんのわずかに肩の力を抜く。


「……いや、大丈夫。ちょっとびっくりしたけどね」


 アヤコが苦笑しながら答えた。


 そのまま、浮遊しつつ本体の周囲を回り込みながら、目を輝かせて言う。


「なるほど……これが“中の声”ってやつね。そりゃあ、コックピットが要らないのも納得。それと……呼び方なんだけど、“クロ”でいいの? それとも“バハムート”って呼んだ方がいい?」


 アヤコの声には、純粋な好奇心が混ざっていた。


 クロは一瞬間を置き、静かに答える。


「クロで構わない。バハムートも、クロも――どちらも“俺”だからな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ