存在意義喪失バハムート、宇宙へ旅立つ
はじめまして。
異世界転生×宇宙冒険をテーマにした物語を書いてみました。
初投稿となりますが、読んでいただけたら嬉しいです。感想などもお気軽にどうぞ。
よろしくお願いします。
異世界転生――最初は、胸が高鳴っていた。
「世界が崩壊しないよう監視してください」
目の前に立つのは、神々しい光をまとった女神だった。
「同意していただけますか?」
「はい。頑張ります」
今思えば、このときの“監視”という言葉に、もっと慎重になるべきだったのだ。
俺は異世界に転生し、この世界で最強と謳われるバハムート種の中でも、最も強い存在として生まれ変わった。
それが――すべての間違いだった。何度、転生しなければよかったと後悔したことか。
――監視。
あの言葉に潜んでいた響きは、甘く、そして厄介な罠だった。なぜなら、
とんでもなく退屈だったからだ。
心が躍るような冒険?戦火に悩む王や姫、美しいエルフに、気難しいドワーフ?邪悪な魔王や暴れまわる魔物?
確かに、いる。
だが――この世界は平和だった。すべてが落ち着き、整い、魔王でさえ良き隣人として共に生きている。
……とんでもなく、平和だった。
混乱でも起きないかと期待して、数回ほど主要国の上空を飛びながら叫んでみた。けれど――逆効果だった。
「これは神の啓示。争いは罪。戦争など愚かなことだ」
そう解釈され、世界中が団結するきっかけにされてしまった。
もう、やだ。
せっかくエクスカリバーとか、それっぽい伝説の武器や防具をこしらえて、せっせとダンジョンに置いた。神話になりそうなネタを山ほど仕込んだし、あれこれ画策もした。
それから、何千年。
滅んだ……俺の気持ちが。
全然なんもない。刺激も、事件も、俺の出番も――。
俺の意味って、何?
世界は機械と魔法、そして特殊な能力が入り混じる、超安定平和国家へと変わっていた。
唯一のチャンスと思えたのは、異世界からの侵略者が現れたときだった。
満を持して姿を現そうとした俺の前で――この世界の住人たちが、圧倒的な戦闘力で敵を瞬く間に制圧した。
……一日で終わった。
気がつけば、また平和。
「女神。俺の存在の意味は?」
そのつぶやきは、虚しく空へと溶けていった。
『ごめん。なくなっちゃった』
――今、なんて?
なくなった?……何が?俺の“存在意義”が?
もう、だめだ。
心が折れた。そして、滅んだんだ。何千年も期待し、何度も策を弄し、それでも報われなかった俺の心は、静かに崩れ去った。
そして、決めた。
――死のう。
けれど、この世界ではそれすら叶わない。普通に死ぬことすら、許されないのだ。
住人たちの力では足りない。全員が同時にかかってきても、俺は無傷で返り討ちにしてしまう。不死に等しい存在となった今、誰の手でも終われない。
ならば、どうするか。
答えは一つ。
――宇宙へ行こう。そして、孤独の中で終わりを迎えよう。
そして――
「宇宙でも平気って、何なんだよこの体ぁ~~~~~!!」
おいおいおいおいおい。死ねないじゃないか。宇宙空間でも何ともない。太陽に突っ込んでみたけど――何ともなかった!
いや、なんだよこれ。俺って規格外どころか、もはや物理法則を侮辱してるレベルだろ!
「女神。お前……もう意味ないって。俺、自由に生きたいだけなんだよ」
俺の孤独な呟きは、音もなく宇宙に溶けていった。
……だが。いや、逆に考えるべきか。
女神はこう言った。――『なくなっちゃった』
つまり、監視はもうない。声も干渉も、すべて消えた。ということは、俺は今――本当に自由だ。
この平和すぎる惑星に、もう縛られる必要もない。それに、かつて侵略者がいたということは、この宇宙には他にも文明がある。
「俺は自由だ。だったら……行ってみようじゃないか」
黒く巨大な翼を広げ、俺は静かに羽ばたいた。漆黒の宇宙を切り裂き、未知なる星を目指して。
これは、俺にとっての――第一歩。
そして、地上に残された“最強の存在”は、やがて誰にも思い出されることのない、伝説だけが語る幻の神となった。
だがその存在は、宇宙の記録に刻まれていた。
とある外縁コロニーに報告が届く。宇宙の彼方から、黒い影が飛来し、そのまま姿を消したという。
「宇宙を飛ぶドラゴンだって?何の冗談だよ」
モニターを見つめながら、監視員の一人が苦笑交じりに呟く。
「冗談なんかじゃない!見ろ、この映像を!例の惑星――あの超クレイジーの世界から、何かが飛び出した。しかも……」
別の監視員が手元のパネルを叩き、映像を拡大する。そこに映っていたのは――
それは“ドラゴン”という言葉では収まりきらない、異形の存在だった。
漆黒の鱗は金属のように硬質で、ところどころ血のように濁った深紅が走っている。節くれだった四肢は獣のごとく太く、爪は鋼を裂くかのような鋭さを宿していた。両翼は蝙蝠にも似た構造だが、骨組みのような形状の間に張られた膜には、未知の文様が脈動している。
尾は鋭く、長大で、まるで巨大な鞭のように揺れ、動きに合わせて宇宙空間を裂く。
そして、双眸――その瞳は、知性と虚無を同時に宿し、ただ前だけを見据えていた。
「こいつ……太陽に突っ込んでも、無傷だったって記録がある」
「そんなバカな……じゃあ、いったい何なんだ。これは……神か?」
誰かがそう呟いたとき、映像の端で、巨影は黒い翼を広げ、闇を裂いて遠ざかっていった。
未知の星へ向けて。新たな世界を求めて。