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さようなら。 好きじゃなくなったので私は第二の人生を贈らせて頂きます。

作者:

「あ、そうそう。今日も頼む」


 いつもの夕食後に何の変哲もない会話に出た1つの頼み事。

 その言葉に私はまたも嫌悪感を抱いた。

 そう、このあと私は彼に抱かれるからだ。


 結婚して半年の私―――今永(いまなが) (のぞみ)は今の旦那と2年付き合った後に結婚した新婚夫婦だ。


 それがどうしたと、結婚してしかも新婚夫婦なら愛し合う事なんて当たり前のことだろうと思ったかもしれない。

 それはそうでしょう。愛し合っているならば(・・・・・・・・・・)

 でも、私は結婚して半年経った今の彼を愛してはいない。正確には愛していた………だ。


 恋は盲目とはよく言ったものだ。あの頃の自分には彼の欠点がよく見えていなかった。 それに関しては私の彼を見る目や優柔不断さが招いた結果だと認めた上で非がある事は分かっている。


 付き合っていた頃は彼の私とは違うはっきりとした言動に惹かれていた。彼とは職場も同じで私は経理、彼はやり手の営業マンだった。そして結果を残し上にあがっていく人なんだと、そう思っていた。

 でも結婚すると決まった頃に彼から突然の退社すると何の相談もなく告げられた。

 辞めるのは構わない。だけどこれから一生を過ごす事になる相手に何の相談も受けずに決められた事に不信感を強く抱いた事が最初の切っ掛けだった。


 どうして辞めるの?

 なんで相談してくれなかったの?

 彼が悩んでいた時に相談に乗れなかったのも、気づけなかった事も、聞いてもちゃんと答えてくれなかった事も私はそれが堪らなく悔しかった。


「いつでもいいよ」


 そういい、灯りの消えた寝室で私は彼と繋がる事を許可をした。


「なら…………」


 抱かれながらに思う。本来は愛を確かめ合う行為。その先に子を宿す事に繋がるであろう行為。それがS◯Xなのだろう。

 でも今の私にはそれが分からない。温もりも、愛しさも、何も感じることが出来ない。

 毎回同じ前戯、早く終わる行為。私の事などまるで考えていないかのような自己満足な自慰。身体は行為に反応する事はあっても、私の心は別のところにあった。

 きっと愛のないS◯Xとはこういう事の行為をいうのだろう。

 そう。早く終わってほしいと心を無にして切に願っていた。



 ◆



 暫くして彼は税理士の資格を取った。

 仕事を辞めてから私が仕事に行っている間に勉強をしていたらしい。そんな事も私には話してはくれなかった。

 国家資格でも難しい職業とは私でも知っている。調べたら年収一千万も夢ではないことも分かった。彼が頭がいい事は会話の中で薄々思ってはいたけれども本当にここまで頭がいいとは知らなかった。


「よし。 これから俺はもっと稼ぐぞ」


「………頑張ってね。匠海くん」


 「税理士の事務所に就職していずれ開業するつもりだからな」


「そうなんだ。 それまではどうするの?」


「会計事務所で2年くらい実務経験をこなしてからその後は、内容次第でどうするか決めていく」


「へぇ~。 そうなんだ。 実務経験が必要なの?」


「ああ。 2年間だけどな」


「そっか。 大変そうだね………」


「ああ。 だから家の事は任せたぞ」


「 ………… 」


返事はしたが応援する気にはならなかった。私は体力もなければ仕事に大して然程向上心もない何処にでもいるような人間だ。

 だから自分のペースでしか物事を考えれないのだ。

 でも彼はそんな私にあれこれ要求した。共働きしていた時から仕事で疲れて帰ってきて、洗濯物や食事を作る事、片付けなど、上げ始めたらきりがない程の事を次から次へと……

「先に帰ってきたならやるのが当たり前だ」と言ったのだ。

 始めは頑張った。慣れない事もやっていれば習慣化すると。

 でも続ける事が出来なかった。家に帰ってきて全てをこなすことは私にとって想像以上に苦痛だったのだ。いつの間にか、作る料理はスーパーで買ってきた物に変わり、洗濯も掃除も週に2回の休みの日だけになった。

 だがら仕事を辞めた時、彼が家の事を手伝ってくれるとそう思っていた。


 でも現実は違った。

 彼は仕事を辞めた今でも家庭の事は何一つ手伝ってくれはしなかった。家の事を頼んでも

「将来楽させる為に今は資格を取るのに集中させてくれ」と。

 負担が減るどころが精神的苦痛が増した気がした。

 休みの日も疲れが取れずに1日中家で過ごした。


「疲れてるから、たまには家の事を手伝って貰ってもいいかな………?」


「いや、これから出掛ける約束入ってるから」

そんな嘘か本当か分からない事を言って彼は外に遊びに行った。

 なんで私が疲れてるって知ってるのに毎回そんな事が出来るのかな………



 自然と涙が溢れた。これが想像していた結婚生活なのか。大好きな人と一緒に暮らすことなのかと。

 あの時たった一言でも「2人でやろう」と伝えててくれれば私は何か変わっていただろうか?

 心が少しでも和らいだだろうか?

 優しい言葉で伝えてくれていたら少しでも上手くやれていただろうか。

 結婚してから初めて知ったもう一人の私。

 こんな後ろ向きな自分と向き合う事になるとは自分でも全く想像もしていなかった。


 手伝ってほしいと泣いて言っても変わらない彼に、私は一生付き合っていかなければならないのか。このままいけば将来不自由なく暮らせる事が出来るもしれないない。遠くない未来で楽を出来るかもしれない。

 でも私は今を苦しんでいる。

 今の自分を救ってほしいのだ。

 泣いて助けを求めている私を、彼に支えてほしいと願っていたのに…………


 悲鳴をあげた心に追い打ちをかけるかように私の母親が倒れた。

 脳梗塞だった。その影響で下半身に軽度だが麻痺が残ってしまった事を母から二人で駆けつけた病院で聞かされた。心配する私に彼はこう言ったのだ。


「母さんも命に問題がなかったならよかったじゃないか。 これから少ししたら開業する為に大阪に行くからお前も付いてきてくれ」


「え…………?」


 私は片親で母親に育てられた事は彼も知っている。だから大好きな母親の面倒を施設なんかに任せてはおけない。私が元気に生きている間は一生恩を返していかなければいけない。だからこそ、その彼から何の心配もなく他県に引っ越す事を告げられた時、私の心で大きく割れた音が聴こえた。

もう限界だ。そう思ったら自然と言葉が出ていた。


「ねぇ……………なんでそんな事簡単に言うの? 私が片親で面倒みてあげたい気持ちを知っててなんで匠海くんは一方的に決めてくの?」


「なんでって、お前優柔不断だし、俺が結婚する前から全部決めてたじゃん。 それに母さんだってベッドに寝たきりになってる訳じゃないんだから心配ないだろ」


「なにそれ……………結婚したら付き合ってる時とは違うでしょ! 家の事だって、将来の事だって普通は二人で考えていく事でしょ。 なのになんで全部一人で勝手に決めてってるの? イヤな事だけ全部私に押し付けて自分は仕事だけ集中してればいいみたいなスタンスほんとに嫌だったんだけど。 なんで何もやらないの? 私達共働きだったよね? ニートになっても何もやらないなんて何様のつもり?」


「あ? やってるじゃねぇかよ。 お前を幸せにする為に…………」

「は? 幸せって? 匠海くん本気で言ってるの? 私が苦しんで相談した時も、匠海くんは何も気にせず外に出かけたりしてたよね? ほんとに私の事を思ってくれてるならなんで二人でやろうとか協力するよとか言ってくれなかったの? 今だって、私の事もお母さんの事もそっちのけで自分の事しか話してないじゃん。 誰が税理士になってほしいって頼んだ? 私が一言でももっとお金ほしいとでも言った? 匠海くんが勝手にしたくてやり始めただけじゃん。 なのに次は大阪に来いってどういう事? それで私の幸せを考えてるって到底思えないんだけどっ!」


「え………? お前何急にキレてるんだよ……一旦落ち着けよ………なっ?」

「急にじゃないよ。 ずっと前からだよ! 結婚する直前に何の相談もなしに何で仕事辞めるなんていい出すの? 普通ありえないでしょ? それも同じ職場で皆にどう思われたか分かる? 残る私の事考えた事ある? 頭いいならそれくらいの事分かるでしょ!」


「あ……あそこにいたら成績残しても上がっていくのにまだ何年もかかると思ったんだよ。 それに会社の仕組みが悪すぎる。 だから直ぐに別の道に進もうと思ったんだよ」


「一人で勝手に決めて、私はいつも置いてきぼりになって、それで本当に私が付いてきてくれるとでも思ってるの?」


「………………」


「都合が悪くなったら黙り込むとか本当に子供だよね匠海くんて。 もう話す気もなくなったよ」


 そう言って匠海の運転する車から降りた私は電車で一人で帰ることにした。


 もう好きだったあの人は私の前にはいない。

 お金もいらない。

 先の見えない未来なんていらない。

 彼とは今も、この先も永遠に上手くなんてやれないと確信した瞬間だった。


 翌週には離婚届を彼に渡した。


「な……どういうつもりだよこれは」


「どうもこうもない。 離婚届よ。 私は書いたから匠海くんも早く書いてほしいの」


「冗談だろ! 何言ってるんだよこの大事な時にっ」


「一つも冗談じゃないよ。 終わりにしましょ私達。 その方が私達の為だよ。 匠海くんは夢の為に大阪に行って、私は残ってお母さんの面倒をみるから匠海くんは自分の気の済むまで大阪に行ってらっしゃい」


「いや、ちょっと待ってくれよ! 俺も考えを改めるから、望も考え直してくれよ! 本当にこれから努力するから、こんな事で終わりにしたくないんだ!」


「こんなこと…………匠海くんにとってはこんなことだよね。 でも私にとってはずっとこんなことじゃなかったの。 やっぱり合わないね。  あとずっと思ってたこと言うね。 雰囲気もまるでない毎回同じ事の繰り返しの独りよがりのS◯Xもずっと気持ちよくないと思ってたから直した方がいいと思うよ匠海くん」


「―――――っ!!」


「離婚しましょ。 匠海くん」


 彼はその後も喚き散らしていたが、私は淡々と話を進めた。自分でも不思議なくらい冷静に彼をみていられた。もう私と彼は交わることはない。この先永遠に。やる事は色々あったが、これからの事を考えると心が軽かった。

 彼が私に楽をさせたくて税理士の仕事になったかは分からないし、私の事を愛していたかは今となっては分からない。でもそんな事は全てどうでもいい事だ。そして彼は地元の大阪でも上手くいってないと風の噂で聞いた。


 


 あれから2年、全てが終わった。何もかも失った。でも独り身になった私に言いたいこと。



 さよなら今までの私。でも頑張ったよね。





 そう思い、私は新たな一歩踏み出した。







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