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八話 ハナムシロ


 ドロール・ドロルが言う霊峰に、神聖な気配は毛ほどもなかった。


 谷のすぐそばの、螺旋状らせんじょうの道のり。


 てっぺんは尖っているみねで、行き止まり。



 ただドロール・ドロルの言うとおり、行く道には水脈が通っているらしい。


 桜並木が満開で、風が吹いて花弁が舞っている。



 ドロール・ドロルをはさんで、前方にきょうだいたち、後方にリールーとケビン。


 足下の桜の花弁でできた花むしろを少し蹴ったりして楽しんでいるリールー。


 そこに来て、パアラトが言う。


「行き止まり・・・」


「どういうことだ」とプボスマ。


 ドロール・ドロルに振り向くきょうだいたちの気配に、ケビンは魔法銃を意識した。


「おっと、王族さんたち、桜が綺麗でしょう?」


「どういうことなのか聞いている」とリガパト。


「ここの磁場は狂っている。魔法がうまく発動しないかもしれないんですよ」


「それがなに?」とカドア。


「お話から察するに、リールーが継承権を持っている」


「リールー、逃げてっ」パアラトがイヤな予感に叫ぶ。


 かまえるリールーとケビン。


 ケビンは魔法銃をホルダーから引き出した。


 その瞬間、磁場の狂いのせいで本当にまずい事態に巻き込まれたことに気づく。


「ははは。大丈夫、大丈夫。わたしを殺すと、この割れ目からヒビが入って、王子たちはまっさかかまに崖下に転落する仕掛けがあります」


「何が目的だっ?」リールーが声を透す。


「国民っ」


「「・・・は?」」


「わたしは国民代表として、人間であるリールーが王になるのを認めないことを言いたいのです」



 ショックを隠せないリールー。


 よろめく身体を、ケビンが支える。



「どういう意味だ?」とリガパト。


「他のごきょうだいの誰かが王になればいい、と、国民代表として言いたい」


「・・・何を言っているんだ?」


「リールーは天に認められた者だそ、国民代表とはどれくらいの数だっ」


「おやおや、数?数にこだわるんですか?はぁー、まったく王族の恥さらしめ」


「なっ・・・」言葉につまるきょうだいたち。



 動揺してはいるが長男のプボスマが、「話をしよう」と切り出す。



「国民の意見として、リールー様が自害して欲しいんです。ごきょうだいのために」



 唖然とする面々をよそに、にこにこと笑っているドロール・ドロル。


 うしろにいるリールーに向き合って、「ねっ?」と言う。


「なにが、ね、だっ」とケビンが叫ぶ。


「継承者は人間?そんなの誰も認めていない。裏では皆他のごきょうだいが王になることを望んでいる話で持ちきりですぞ?ごきょうだいを助けたかったら、あなたは責任をもって自害すべきだ。違いますか?」


「リールー、気にするなっ」パアラトが叫ぶ。


 リールーの目から涙が伝った。


「ほーら、もう大丈夫、不安から解放されたらいい」とドロール・ドロル。



「ケビン・・・正義の剣を貸してくれ」



「姫・・・?」


 支えられた状態でリールーがケビンの耳元で言った。


「天恵があった。助かるって」


 それを聞いて、ケビンは正義の剣を取り出し、リールーに渡す。


 リールーは微笑して、自分の剣をケビンに渡した。


「え・・・?」


「きっと、大丈夫」


 そうささやいてドロール・ドロルに振り向くと、リールーは短剣を示した。


 桜吹雪、足下には花筵はなむしろ


「きょうだい達よっ、私はあなたたちに出会えて幸せ者ですっ」


 リールーはそう言うと、鞘を抜き、自分の心臓へと両手で掴んだ短剣を刺した。

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