七話 神がかり
特に特別な名前を思いつかないと言う理由で、それぞれの名を班に与える王子と姫。
班に分かれて、戦闘、治療、移動、諸々、指揮、などに役割を持たせる。
そのあとすぐに森の捜索に出ようとするが、メイトが立ち眩みを起こす。
そしてそれを受け止めたケビンの腕の中で、神がかりになったメイトが言う。
「 王子ト姫ラハ 行動ヲ同ジクセヨ 」
メイトが数秒後、目を覚ますと、周りに飛んできた森の鳥たちが言った。
「 王子ト姫ラハ 行動ヲ同ジクセヨ 」
「これは天の意思かもしれぬ」と長男プボスマ。
「かもしれない」とリールー。
そんな会話をしている頃、王子と姫の前に、一匹の服を着たトロルが現れる。
「これはこれは、お困りのようで」
帽子をかぶったそのトロルはにこにこと笑っていて、どこか不気味だった。
マークレスが、そやつが人間との混血なり、と言う。
帽子をぬいで、手の中でくしゃくしゃともむような仕草をしたトロルが言う。
「わたしの名前はドロール・ドロル」
灰色の目のプボスマが顔をしかめる。
「何用だ」
兵たちたちがかまえる。
あわてて片手を振るドロール・ドロルは笑顔で言った。
「犯人討伐に、どうかご協力願えないかと、言葉ができるわたしが出てきた次第で」
「ほう、して、真相を知っているのか?」と次男リガパト王子が言う。
「いいえ、いいいえ、はい。心当たりがありまして」
「それで、真相は?」と長女カドア姫。
「トロルの神聖な場所でしか、お話できません」
「それは、なぜだ?」と末弟パアラト。
「それから、その神聖な場所に、兵隊は入ってはいけません」
「なぜ?」とリールー。
「ん~・・・そうですね、命の輝きの類かな。我々の霊峰が選んだのです」
マークレスが治療を受けながらいぶかしがる。
「霊峰?なんのことだ?」
「おやおや、聞かれておいでか。トロルたちの秘密の場所でして」
「我にも秘密である、と?」
「さようで」
少しの間ののち、顔をしかめたまま鼻で溜息を吐いたマークレス。
わたしがまだ信用されていない、ということか、とぼやく。
「傷のこと?」とジェイミー。
「ああ・・・霊峰の存在を知らなかった。わたしはまだ若輩だ・・・」
「わたしは治療の続きをするのだが、休憩に入る。何か食べないと力でないから」
「ああ。分かった」
「ポンポコ」とジェイミーが言うと、担当班が特製の栄養ドリンクを手渡した。
ジェイミーの回復魔法をかけてもらった兵隊約百名が、班に分かれる。
しばらく周りで輝いていた光の粒が姿を透明にする頃、兵隊たちは磁場酔いを克服した。
倒れているメイトに気づかないジェイミー。
パアラトの願いで、ケビンは王子と姫の班に付いて行くことになった。
戦闘においても治療技術においても、メイトは凡庸だと判断される。
ただ、捨て置くわけにもいかないので、担当の班がついた。
森の中で神がかりになり、動物たちと心を通わせて情報収集をする役割。
メイト班はその役割担当になった。
時々鳥がやって来て近くの枝に停まっては、言葉少なに報告をくれる。
その鳥は魔法の国でも伝説とされている幸せの青い鳥であるが、メイトは気づかない。
班の者たちはその奇跡的な情景に、内心、感動していた。
ところがメイトと言えば、こんなことしかできない、と己の非力を嘆いているのだった。