壱話 依頼
「トロール。トロル。彼らはあまり頭がよくない。
悪いことだと思うと、成敗しようとする。
人間とは思考回路が違うのは、ヒトならざる者の当たり前。
だから人間たちは当然、彼らに、私達は失礼をしていません、と日々誠意を見せる。
彼らのほうが生命体として、先輩だから。
そしてトロルに失礼のないように生きるということは、人間同士の生活に得をうむ。
トロルには巣があって、彼らにまで届くような不摂生をしてはならない。
その存在は架空とされているが、信仰している者も人間にはいる。
ただそのあまり美しいとは言えない彼らの姿を、拝む者はいないとされている・・・」
丸いテーブルに、スカイブルーのテーブルクロス、その上に皿と食べ物。
真っ白な炊いた米、
アサリの白味噌汁、
湯がいたブロッコリーとソーセージに、七味唐辛子入りマヨネーズソース、
海藻サラダに和風ドレッシング、
ゴマ油と諸々で味付けした大根スライス、
メインデッシュはステーキに見えなくもない生姜焼きで、
同じ皿に野菜が添えてあり、ミニトマトなり漬けてあるパプリカなり彩りは鮮やか。
グラスには半分ほど飲み物が残っていて、ケビンは今、筍の明石焼きを食べている。
メイトが言い終わると、向いの席で食事を進めていたケビンが何度かうなずく。
ナフキンで口を拭き、ケビンがメイトに言った。
「トロルがキレた」
「なるほど、王族としての仕事の話なの?」
「どうやらそうなる。これ、なに?」
「クレソンのおひたし」
「和えてあるのは、何?」
「ソフトかつおぶしだよ」
「なるほど、食べてみよう」
フォークでおひたしをつつくと、ケビンはおひたしを口に入れた。
メイトが、姫や王子は今回関係しているの、と問う。
これ美味しいな、とぼやいたあと、ケビンが何度かうなずいた。
カーキ色のドレス姿のメイトの顔を見て、黒ずくめの服のケビンが言う。
「巨人が関係しているらしい。巨人がトロルなのかは分からない」
「・・・ん?」
「姫と王子全員が召喚され、仕える我々に同行命令が出た」
「了解」
数秒の間を作って、ケビンが言った。
「今回、ジェイミーも同行命令が出ている。森の磁場にやられない体質だから」
「本人が合意するのかしら?」
「大丈夫、どんぐりを用意しよう」
「今朝、ジェイミーの側にいたりした?」
「いいや?」
「うーん・・・夢とか錯覚か・・・」
「ん?」
「ううん」
「おひたし、苦みがいいね」