リビングデッド・デイ!! 〜死者は安らかに眠ってて!!〜
この世界の死者は、没日に生き返る──!!
◇ ◇ ◇
ということで皆さんこんばんは。墓守のグレイクです。
突然ですが、この世界における死者は、没日に生き返る特性を持っています。
この異変を世界各国が調査した結果、一つ判明ったことがあります。それは生き返った方々は決まって『天寿を全うすることなく亡くなられた人』だということ。
更に詳細を語りますと、例えば『8/9』に寿命以外の死を遂げた方々は『8/9』の日没から真夜中の間に限り現世に蘇ってしまうのだ。その結果、世界は殺人を旧時代以上に厳罰化し、それを犯した者には例外なく『徹底的な無期懲役』に処している。
そして、何より大変なのが、死者は生前の無念を晴らさんと執念を燃やす。それ即ち極端な話、現場で即殺された国家転覆者が再び国家転覆行為を試みやがるのです。それが既に達成されていても。
その為、世界各国は『世界聖職連盟』を立ち上げ、紆余曲折の末に対処法を確立。自分のように特殊な訓練を受けた墓守を各埋葬地に派遣して、蘇りを果たした死者の鎮静・鎮圧をさせているのでございます。
他にも語るべきことはありますが、時間なので追々。それでは、早速自分の担当埋葬地に向かいましょう。レッツゴー!!
◇ ◇ ◇
ということで、派遣先の教会から暫く歩いた山奥にある『0809埋葬地・6番』前に到着する。
厳重なバリケードの窓から覗いてみれば、既に死者が地上に現れつつあった。現状は亡くなられて一龍年未満の方々がぼんやりしている程度で済んでいるが、『危険級』『絶望級』の蘇りも時間の問題だ。
──なので先ずは、『無害級』を鎮静化させる!!
そうと決まればいざ行かん! 自身の頬を2回叩いて、厳重な『0809埋葬地・6番』へ足を踏み入れた。
「たぁ〜……」
「おや坊や、こんばんは。墓守さんに何の御用かな?」
「かぁ〜……」
「高い高いなら喜んで♪ それ〜〜!!」
「きゃっきゃっ……♪」
間を置かずに寄ってきた『没4歳』の男児を丁寧にあやす。身体の至るところに傷痕がある辺り、『愛されたかった無念』がこの子を動かしているのでしょう。無念の元凶が裁きを受けていることを祈る。
「きゃっきゃっ……すやぁ……」
「あ…………また来龍年、お会いしましょう……」
何回か『高い高い』をしているうちに男児の死者は眠るように事切れ、文字通り魂が抜けて空へと召されていった。一旦満足して『向こう』へ帰った証左だ。
これを一人一人の天寿までひたすら行う。この男児の天寿が『80歳』と仮定するなら、今回分を差し引いてあと75回『無念』を晴らすことで初めてこの子は『無念』による蘇りから開放されるのだ。
──が、いつまでも一人に構っていられない。薄情ではあるが十字を切って、腕のリストバンドを頼りに顕となった棺へ埋葬し直していれば、児童の死者が挙って押し寄せてきた!
「あ〜……」
「う〜……」
「ちゃ〜……」
「はいはいはいどんな御用かな? 順番に聴きますよ〜」
「「「びゃあ〜〜〜〜!!!!!!」」」
「ですよね〜〜!!」
『無念』に駆られる児童に『順番を待つ』なんて苦行でしかないのだ。毎龍年恒例とはいえ頭を抱えていれば……──!!
「おうグレイクさん。今龍年も任せてくんな」
「シェイエンさ〜〜ん!!」
声を掛けてくれたのはシェイエンさん。『第一子の誕生に立ち会えなかった』無念から子どもの死者たちの面倒を毎龍年買ってくれる『男性憲兵』だ(死因は曰く「暴走馬車から子ども守って轢かれた」)。
ただ一つ確定した問題がある。彼が率先して動いてくれるのは、決まって『危険級以上』が活動を開始した時なのだ!
「お久しぶりですシェイエンさん! 『危険級』に動きがあったんですね?!」
「ああ。例年通り『アイツら』が集合してるのが見えた。子どもたちは俺が見てるから行ってきな」
「ありがとうございます! 終わったらイマウワイン供えときますね!!」
瞬時に『無害級の子どもたち』をシェイエンさんに託し、構えた十字架に魔力を込めながら『0809埋葬地・6番』の奥へと進む。
『危険級埋葬地』へ駆けつければ、早速群れを成していた『盗賊団の死者たち』が一斉に注目してきた!
「今龍年も来やがったな墓守さんよぉ! 一龍年ぶりの地上なんだから邪魔すんじゃねぇ! オマエら、殺っちま──!!」
「先手必勝『R・I・P(安らかに眠れ)』!!」
「「「ぐぎゃああぁあぁあああぁあああ!!!!!!」」」
十字架から解き放たれた魔力光線に照らされ盗賊団は一気に『向こう』へ旅立った。盗賊団首領が「出会いがしらかよぉぉぉ……!!」と去り際に嘆いていたが、世界聖職連盟の取り決めで、死者が人里へ行かないよう『危険級』『絶望級』は容赦なく浄化攻撃で送り帰すのが鉄則なのだ。
まぁ、開幕即浄化できるなら苦労しないけどね……。
そうこうしているうちに『絶望級埋葬地』から騒音が響いてくる。今回早くない?!
魔力再充填は終わってないがこれは悠長にしてられない! 盗賊団の再埋葬は後にして、直ぐさま『絶望級埋葬地』へ駆けつければ、野性味溢るる大男が待ち構えていた!
「久しいなグレイクよ! 今龍年こそ我が傘下となり、共に世界を統べようではないか!!」
「来世でならお付き合いしますよゼフィール王! 今世は墓守と決めてるので!!」
「人への転生が保証されぬ来世なぞ興味はない! 嫌というなら首肯させるまで! ぬぅあぁッッ!!」
「墓石武器にする方に降りたくありませぇぇえん!!!!」
微塵も耳を貸さずに墓石を振り回してくるのは『蛮王』ゼフィール。かつて存在した帝国軍の侵攻を返り討ちにしてみせた未開拓地の長で、勢いのまま帝国領土の8割を搾取から解放してみせた豪傑だ。最終的には帝国陥落一歩手前で力尽きてしまったそうだが、ここまで述べればお察しの通り、彼の無念は『天下未統一』!!
そして自分は悲しいことに、何度と相対した結果、「我が右腕に相応しい!」と毎龍年勧誘されている!!
「そらそらそらァ! 避けてばかりでは世界を繋ぐのは夢のまた夢であるぞ! 少しは反撃せんかァ!?」
「無茶言わんでくださいよ! せめて墓石は置いてください!!」
「戦いは武器を持つものだろう! オマエは素手で戦場に出ろと申すか?!」
「自分のとはいえ墓石を武器にするなと言ってんですよ! 倫理は何処に置いてきた?!」
「人と殺め合う時点で倫理もへったくれも無いわァ!!」
「ド正論言うなぁぁぁぁ!!!!」
とは叫んでみるものの、魔力再充填待ちだからと後手に回ってばかりではいられない。こうしている間にも他が目覚めかねないと云うのに……!!
「おいグレイク、貴様俺が勧誘しているというのに、他の者を思い浮かべとるな?! とんだ浮気者め!!」
「そりゃそうですよ墓守として相手せにゃいかん方がゴロゴロ居るんです! 貴方ばかりにかまけてられませんよ!」
「それはアイツのことか?」
「え?」
振り返れば、いかにもな武闘家な男性死者が走ってきていた。
「グレイクゥゥゥゥ〜〜〜〜ッッッッ!!!!!!」
「ぎゃーッ!!」
名を叫びながら飛び蹴りを放ってきたのはヴェムド。世界に轟いた武術『極進流』の開祖で、生前の心残りは『弟子を取ろうとした矢先の病死』だ!
咄嗟に避けてみせれば、「良き反射神経ッ!!」と彼は嬉々として連撃を仕掛けてくる!!
「全然来んからこっちから来てやったぞ〜〜ッッ!! さぁッ!! 今龍年こそ我が武術をその身体で学べぇッッ!!」
「嫌ですよ! 墓守としての戦術が定着してんですから下手に身につけたらごっちゃにこんがらかる未来しか見えない!!」
「そう言ってるがいい感じに馴染んどるぞ、具体的には防御回避時の足運び♨」
「嘘ォ!?」
「独自改造されとるようで癪だが後世に残るなら重畳ッ! 身になった暁には『極進流・墓守型』と名乗ることを許そうッ! さぁ、段階を進めるから構えよォッッ!!」
「やだァ〜〜ッッ!! これ以上業務外で手合わせ申し込まれる要素増やすのやだァ〜〜ッッ!!!!!!」
「おや、何やら騒がしいのう」
喚けば今度は女性の声。懸命に捌きながら振り向けば、典型的なセクシー美女の死者が威風堂々と歩いてきていた!
「久方ぶりよのうグレイクよ。どれ、もうちっと顔を見せたもれ」
「増えた!!」
「増えたとはなんじゃ増えたとは!? せっかくこちらから来てやったというに!!」
あっさり威厳が崩壊したのは『女帝』エレス。ゼフィール王の遺志を継いだ者々に陥落された帝国が最後まで手中に落とせなかった女人国の出身で、何を隠そう、彼女はそこの先代女王なのだ。
そして、過去に振った無礼者に一服盛られ、三十代前半の若さで亡くなった彼女は『婚活中』だったそうな。
「まぁ、よい。この後の時間をわらわに使うのならば其方の失言は水に流そう。さぁ、二人で静かに過ごせる場へ案内したもれ」
「畏まりました! では暫しお待ちを! あの方々大人しくさせるので!!」
「なんじゃ、そこの二人がわらわたちの時間を奪ってるというのか! 邪魔者どもめ、頭を垂れい!!」
「なんだとコノヤローッッ!! 年一の稽古を邪魔すんなァッッ!!」
「そもそもこっちが勧誘中だったんじゃ〜〜ッッ!!」
「止めてぇ〜〜ッッ!! 自分のために争わないでぇ〜〜ッッ!!」
嬉しくない奪い合いを止めようとするも、おっ始まった『蛮王』『極進流開祖』『女帝』三つ巴の喧嘩に地面ごと吹き飛ばされる。埋葬地の修繕費ィィィィィィィィッ!!!!!!
「おい見ろよオマエら──!!」
「!?」
と、埋葬地を取り囲む壁際まで吹き飛ばさたところで、聞き慣れぬ下卑た声が頭上から響く。
見上げれば、あからさまな墓荒らし集団が壁の上から見下ろしてきていた!
体勢を立て直すと同時に、墓荒らしたちはゾロゾロと侵入してきて、得物のナイフをひと舐めずり。汚ぇ……。
「墓守の野郎が転がってきたぜ! あのヤバそうな奴らは喧嘩に夢中だし、この墓守も見る限り全然攻撃できてなかった雑魚だ! ここで倒しちまえば墓地のお宝取り放題だぜ!!」
「あぁ、有名どころも多い分、一緒に埋葬された金品もしこたまあるに違ぇねぇ!!」
「そうなったら善は急げだ! てめぇら、やっちまブンッッ!?」
「「「え?」」」
指示を言い切ることなく宙を舞う墓荒らしAを、仲間たちが呆然と見上げる。
そして……墓荒らしAがいた場所で、拳から煙を上げる自分を認めるなり、分かり易く動揺しだした。
「ちょ、ちょっと待て!? てめぇ、ずっと防戦一方で戦えてなかったじゃねぇか!? 一体全体どういう──?!」
「誰 が 戦 え な い と 言 っ た ?」
賊の言葉を遮りながら、ヌンチャクを取り出す。
「攻撃できてなかったんではなく、できないんですよ。そういう決まりなんでね」
喋りながらちょっくら振り回し、肩を慣らしていく。
「死者は安らかに眠らせるべきであって、肉体を傷付ける攻撃は御法度なんです。負傷したら痛みで眠りの妨げになりますでしょう? それは死者の肉体にだって適用されるべき倫理で権利だ」
慣らしを終えて、構える。
「故に、上層部の方々はこう仰られました」
腰の引けてる墓荒らし向けて、地面を鳴らして距離を詰める!
「墓 荒 ら し は 殺 さ な い 程 度 に ぶ ち の め せ ぇ ! ! ! ! ! !」
「ぐぎゃあぁああぁああぁあぁあぁあ!!!!!!」
「ひぃいぃいいぃいいぃいぃいぃいい!!!!!!」
「お助けえぇえぇええぇええぇえぇえ!!!!!!」
墓荒らしたちは悲鳴を上げる。泣き叫びながら殴り飛ばされる。許しを乞いながら逃げ惑い、そして勢いよく埋まる。
その光景は正に、阿鼻叫喚だった。
◇ ◇ ◇
「ふぅ……」
五分後──、全ての墓荒らしたちをふん縛り、やっとひと息つく。前回より数が多かった分、時間かかってしまった。
だが、外へ連れ出す暇はない。こうして汗を拭っている間にも『絶望級』たちの大喧嘩は続いているかもなのだ、と急いで踵を返す。
「ッ!!」
が、直ぐさま足を止める。
3人とも、墓石からひょっこり顔を覗かせてきていた。ちゃっかり見物していたのだ。
大物方はにこやかに語りかけてくる。
「グレイクよ、賊どもの退治見事なり! その強さ、我が右腕に相応しいと再認識した!!」「中々に見応えあるヌンチャク捌きだったぞッ! それと極進流を組み合わせるのも面白そうだッ! さっそく試してみようッッ!!」「やはり其方こそがわらわの運命の人……! さぁ、共に冥婚だったか? を申請に行こうぞ!!」
「「「被せんな貴様らァ!!!!」」」
「『R・I・P(安らかに眠れ)』」
「「「ぎゃーッ!!」」」
十字架の光線を浴びて、彼らはパタリ……と事切れる。再充填を終えてて良かった。
『絶望級埋葬地』一帯を見回す。
『絶望級埋葬地』は、地面が抉れ、墓石が砕け、墓荒らしが地面に突き刺さるように埋まっていた。
「……修繕費、いくらになるかなぁ……」
こうして、自分はとてつもないだろう修繕費に『絶望』しながら、未だ地上に残っている死者の元へと駆り出すのだった。
〜Fin〜