間奏『追憶する慟哭』
『人は孤独を拒み、孤独を愛する。
異種族、否あらゆる生物から見て生存能力に劣る人間の最たる武器は数であるが故に、
『孤独』という生き延びるのに危険な状況に不安を覚える。
その一方で他者を排他する事を宿命付けられ、共にある事を拒む。
人が生み出した道具は力となってやがて人を孤独にしていくことは自明の理である。
己の生存が確保できるのであれば、人は他者を必要とはしないのだから。
そうして神にも等しい力を手に入れた時、人は気付くのかもしれない。
天にある神は、どうして人を作ったのかを』
作者不明 『強欲なる支配者』
私は『怒り』であり『恨み』でした。
ある者は言いました。
私の村は滅ぼされました。
私たちが持つ技術を人が恐れたからです。
私たちはその力を人が苦しんでいる時に使い、共に生きているつもりだったのです。
しかし彼らは突然私たちを襲いました。
私たちが、人の町を襲う計画を立てている。
そう喚きたてながら。
ある者は言いました。
私の村の者では右目が不思議な光彩を放つ子が産まれることがありました。
その子は神の遣いとして奉っていたのです。
そこに一人の異教の者が来て、こう言いました。
「貴方たちが奉る神は魔族であり、それは悪魔の印です。
すぐに改宗し、悪魔の子を根絶やしにしなさい」
もちろん私たちはそれを断り、穏便に帰っていただけるようにお願いいたしました。
するとそれから幾日かした後、国の軍隊がやってきてこう言いました。
「邪神に仕える者を皆殺しにせよ、と」
我々は為す統べなく殺されていきました。
ある者は言いました。
我々は特殊な瞳を有する種族でした。
その力を隠しひっそりと暮らしているところにそれはやってきました。
我々の瞳を奪うために、彼は我々を皆殺しにしました。
ある者は言いました。
私たちは美しい翼を有する種族です。
その翼は千金の価値をもつため、我々は掴まり飼われ殺されました。
人は怖い。
まだたいした知恵も数も居なかった頃。
彼らは異種族を、力ある者を神のように奉り、悪魔のように畏怖しながら暮らしていました。
我々も別に人に干渉しようなど思っていません。
我々の暮らしがあり、領域を無闇に侵さなければ手を出すつもりは欠片もありませんでした。
しかしあるとき、彼らは土足でその領域を侵した挙句、こう言いました。
貴様らは悪だ、と。
そして我々は殺されました。
無慈悲に。
不条理に。
だから我々は貴女に与するのです。
これは私の怒りではありません。
これは私の悲しみではありません。
これは我々の怒りであり悲しみです。
我々は人を恨んでいる。
心の底から恨んでいます。
しかし我々では人には勝てませんでした。
徹底的に殺され焼かれ死に絶えました。
その消し炭たる私一人では我々の嘆きを祓う事などできません。
だからお願いです。
貴女は私達になってください。
そして私達は貴女になりましょう。
驕り高ぶる人を焼き尽くさんがために。
結果から言えば、私達はやはり敗れました。
人は予想を遥かに越えて力を有していました。
連綿と続き、そして数々の実験例から選び抜き、さらに洗練を重ねた技術を携え、
能力で勝る我々を圧倒しました。
武術、道具、戦術、魔術。そのルーツは我々異種族の特異な能力とも言われます。
それを貪欲に取り込み研究した彼らはそのポテンシャルがどれだけ劣っているとしても意に介さないまでになっていました。
私は失意の何よりも己の愚かさを嘆き、そして死にました。
死んだ私にその先はありません。
私は死んだその時間のコピーです。
私という情報だけを切り抜き器を与えられここにあります。
彼女は私を造り、茶番劇の指揮を委ねました。
アルルム・カドケウ
異端の魔女。
災厄そのもの。
この世界に存在しない知識と技術、そして魔術を操る者。
そして何よりも『何も出来ない者』
彼女は自分の事をこういいます。
『願望器』
小麦粉を練り、オーブンに入れればパンが出来るように、彼女は願望と対価を受け取り現実化することだけに力を使うことができる歪んだ存在です。
彼女が動けるのは願いを持つ者のところに行くためです。
彼女が話せるのは願いを聞き出すためです。
この牢獄のような世界の異端はそれだけの制約を掛けられてかろうじて存在しています。
世界がそれだけ異物と扱う、そんな力を有する存在です。
そんな彼女が私を造ったのは、やはり誰かの願いを実現するためほかありません。
彼女は私に言いました。
もう一度、再現しようと。
だから私はここに居ます。
この先に待つは私の死であることは承知しています。
それでも私はただ見据え、最後の戦いを迎えようとしていました。
いいえ、これは戦いではありません。
これは劇の最終幕。
黒幕が倒れ、ハッピーエンドになるための重要なシーン。
そうして、強い風を受けながら私は思い出すのです。
「ハッピーエンドのその先を誰も語らないのは、その先がけっこーどろどろだからにゃよ」
私に計画を説明した後に、彼女は不意に言いました。
「いつまでも幸せに暮らせるなら最初から意地悪な王女も悪巧みをする魔女も、悪魔も神も出てこないにゃ。
千年王国は成立しない。
千年生きる人間がいないからね」
それは私には蛇足。
語る必要はない話。
それでもその話を私にした意味を私は思います。
さぁ、時間です。
始めましょう。




